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第189話 『はじめての人』になってくれますか? at 1995/8/26
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『団地祭』前日の今日。
僕ら男子部員四名は、珍しく佐倉君の家へと招かれ、お邪魔していた。
「ふわぁ……すっごいいい匂いするんだねぇ、かえでちゃんちって……」
「あはははは……女の子ばっかですからね。……も、もちろん、僕は男子ですけどね!?」
そう照れ笑いしながら逆ギレ中の佐倉君みずからピンクの花柄エプロン姿でジュースとお菓子の入ったバスケットをトレイに乗せて運んできてくれた。ただ……タンクトップにショートパンツを合わせた、ラフで露出度の高いその格好の上に羽織ったら、もう裸エプロンとしか。
今、僕らが座っているこの部屋の装飾もそうだ。以前話していた時に、子どもたちが大きくなった時にご両親が、ちょうど空いていた隣の家をもう一軒借りることを決意したそうなのだけれど、四畳半のこの部屋は、長男・かえで君と三女・みかんちゃんの二人でシェアして使っているらしい。とはいえ、趣味が似ているのか、ピンクを中心としたゆるふわな世界観である。
「で、今日はどういった用件で我々を集めたのでしょう、佐倉君?」
「か、堅いなぁ、ハカセは。ま、確かに僕もそれは気になってるんだけど?」
「ひとつは、ものすごく単純な理由からなんです――」
五十嵐君と僕に続けざまにそう問い詰められてしまった佐倉君は、とても恥ずかしそうに用済みになったトレイを胸元に抱え、真っ赤になった顔を隠しながら小さな声で白状した。
「僕、今まで男の友だちを家に呼んだことがなくって……。いつかやってみたいなぁ、って」
「じゃあ、じゃあ! 僕が『はじめての人』ってことぉ!? ぐふ……ぐふふ……」
「言い方な」
いぜんとして、お前の隠れ『かえでちゃんFC』疑惑は晴れてないからな、シブチン。
「ん? ひとつは、って言ってたけど……他にも理由があるのかい、佐倉君?」
「えと……実は、そうなんです」
佐倉君はそう言うと、ふすまの向こう側で誰かと小競り合いをしはじめた。が、相手は相当非力だったらしく、にぎゃっ! とひと声したかと思うと、あっさりと僕らの前に姿を現した。
「ど……どもッス……」
夏にしてはなんとも重くて鬱陶しそうな、やや湿り気を帯びたようなじっとりとした黒髪。たぶんいろいろ手入れをすればそこそこ美人そうなのだが、そのかすかな希望をぶち壊しにする分厚い瓶底ぐるぐるメガネ。そして猫背とやや卑屈な笑顔。この人には確かに見覚えがある。
「あ! かえでちゃんのお姉さんの、しのぶさんじゃないですか!?」
「えー!? この前、サトチンを独占してた人……? でも、なんか印象違うっていうか……」
「いやいやいや。あれはせりさんだろ? しのぶさんは次女。二番目のお姉さんなんだってば」
姉妹ゆえ確かに似ているところもなくはなかったけれど、せりさんは『できる女』風、一方しのぶさんは『できそうにない女』風なのでまるで違う。しのぶさんは自分より背の低い佐倉君の背後に隠れるようにしながら、恐る恐る僕らに向けて口を開くとこう言った。
「ええと……かえでちゃんから聞いたッス。文化祭で、おもしろそうなことやるみたいッスね」
「え……? あ、はい。まあ、おもしろいと思ってくれるかどうかはわかんないですけど……」
「体験型アトラクション、いいと思うッスよ! で、この前のお詫びができないかなって」
「お詫び……ですか?」
僕は少し驚いた。
先日の佐倉君『アイドルデビュー未遂事件』については、元はと言えば佐倉君の方から頼んだことだったし、あれ自体を企てたのも長女のせりさんだ。しのぶさんに関して言えば、せりさんにそそのかされて渋々手伝っただけだ、ということも聞いている。
まったくの無罪かといえばそうではないけれど、そこまでしてもらっては逆に悪い気がする。
「い、いやいやいや!」
その気持ちをそのまま伝えると、しのぶさんは重そうな黒髪を左右に揺らしながら首を振る。
「いーんスよ! 僕がおもしろいって思って、何か手伝えないかって考えただけなんスから!」
よほど慌てでもしていたのか、やたら早口でそうまくしたてると、しのぶさんは背後に置いてあったラジカセを――イベントの時に見かけた奴だ――取り上げて、再生ボタンを押した。
僕ら男子部員四名は、珍しく佐倉君の家へと招かれ、お邪魔していた。
「ふわぁ……すっごいいい匂いするんだねぇ、かえでちゃんちって……」
「あはははは……女の子ばっかですからね。……も、もちろん、僕は男子ですけどね!?」
そう照れ笑いしながら逆ギレ中の佐倉君みずからピンクの花柄エプロン姿でジュースとお菓子の入ったバスケットをトレイに乗せて運んできてくれた。ただ……タンクトップにショートパンツを合わせた、ラフで露出度の高いその格好の上に羽織ったら、もう裸エプロンとしか。
今、僕らが座っているこの部屋の装飾もそうだ。以前話していた時に、子どもたちが大きくなった時にご両親が、ちょうど空いていた隣の家をもう一軒借りることを決意したそうなのだけれど、四畳半のこの部屋は、長男・かえで君と三女・みかんちゃんの二人でシェアして使っているらしい。とはいえ、趣味が似ているのか、ピンクを中心としたゆるふわな世界観である。
「で、今日はどういった用件で我々を集めたのでしょう、佐倉君?」
「か、堅いなぁ、ハカセは。ま、確かに僕もそれは気になってるんだけど?」
「ひとつは、ものすごく単純な理由からなんです――」
五十嵐君と僕に続けざまにそう問い詰められてしまった佐倉君は、とても恥ずかしそうに用済みになったトレイを胸元に抱え、真っ赤になった顔を隠しながら小さな声で白状した。
「僕、今まで男の友だちを家に呼んだことがなくって……。いつかやってみたいなぁ、って」
「じゃあ、じゃあ! 僕が『はじめての人』ってことぉ!? ぐふ……ぐふふ……」
「言い方な」
いぜんとして、お前の隠れ『かえでちゃんFC』疑惑は晴れてないからな、シブチン。
「ん? ひとつは、って言ってたけど……他にも理由があるのかい、佐倉君?」
「えと……実は、そうなんです」
佐倉君はそう言うと、ふすまの向こう側で誰かと小競り合いをしはじめた。が、相手は相当非力だったらしく、にぎゃっ! とひと声したかと思うと、あっさりと僕らの前に姿を現した。
「ど……どもッス……」
夏にしてはなんとも重くて鬱陶しそうな、やや湿り気を帯びたようなじっとりとした黒髪。たぶんいろいろ手入れをすればそこそこ美人そうなのだが、そのかすかな希望をぶち壊しにする分厚い瓶底ぐるぐるメガネ。そして猫背とやや卑屈な笑顔。この人には確かに見覚えがある。
「あ! かえでちゃんのお姉さんの、しのぶさんじゃないですか!?」
「えー!? この前、サトチンを独占してた人……? でも、なんか印象違うっていうか……」
「いやいやいや。あれはせりさんだろ? しのぶさんは次女。二番目のお姉さんなんだってば」
姉妹ゆえ確かに似ているところもなくはなかったけれど、せりさんは『できる女』風、一方しのぶさんは『できそうにない女』風なのでまるで違う。しのぶさんは自分より背の低い佐倉君の背後に隠れるようにしながら、恐る恐る僕らに向けて口を開くとこう言った。
「ええと……かえでちゃんから聞いたッス。文化祭で、おもしろそうなことやるみたいッスね」
「え……? あ、はい。まあ、おもしろいと思ってくれるかどうかはわかんないですけど……」
「体験型アトラクション、いいと思うッスよ! で、この前のお詫びができないかなって」
「お詫び……ですか?」
僕は少し驚いた。
先日の佐倉君『アイドルデビュー未遂事件』については、元はと言えば佐倉君の方から頼んだことだったし、あれ自体を企てたのも長女のせりさんだ。しのぶさんに関して言えば、せりさんにそそのかされて渋々手伝っただけだ、ということも聞いている。
まったくの無罪かといえばそうではないけれど、そこまでしてもらっては逆に悪い気がする。
「い、いやいやいや!」
その気持ちをそのまま伝えると、しのぶさんは重そうな黒髪を左右に揺らしながら首を振る。
「いーんスよ! 僕がおもしろいって思って、何か手伝えないかって考えただけなんスから!」
よほど慌てでもしていたのか、やたら早口でそうまくしたてると、しのぶさんは背後に置いてあったラジカセを――イベントの時に見かけた奴だ――取り上げて、再生ボタンを押した。
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