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第190話 記憶を消滅!(なお物理) at 1995/8/26
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「ぽち、っと――」
しのぶさんが抱えている年季の入った黒いラジカセの再生ボタンを押すと、左右のスピーカーから不規則な電子音が流れ始めた。そしてそれは徐々に足並みをそろえはじめ、やがて一つの流れとなって軽快なリズムとメロディを奏ではじめた。自然と足はリズムを刻んでしまう。
「これはッスね、僕の作った曲なんス。かえでちゃんからハナシを聞いて、僕なりにイメージを膨らませて、君たちの創る世界観を表現してみたものなんスけど……ど、どう、ッスか?」
僕はしのぶさんの問いにこたえる前に、両隣の渋田と五十嵐君の反応をうかがった。
「歌、ってカンジじゃないけど、なんだかカッコイイ……! 未来っぽい……っていうの?」
「ですね。これは背景曲なのでしょう――ですよね? 僕も素晴らしいと思いました」
「ハカセが気に入ったなんて相当だね。実際、僕も凄いなあって思いますよ、しのぶさん」
二人の言葉にうなずきながら僕が続けて伝えると、しのぶさんは、ふひひ、と不気味――じゃなかった、うれしそうな笑い声を漏らした。それから瓶底メガネを、くい、と上げこう言う。
「よかったッス……。もし迷惑じゃなければ、それ、あげるので自由に使ってくださいッス」
「え? そ、そんな、悪いですよ!」
子猫じゃあるまいし、そんな気軽にあげたりできるものじゃない。
僕は慌てて手を振った。
「かえで君からも聞いてますよ。しのぶさん、コンピューター音楽のお仕事をされているんだって。素人が作ったものならまだしも、プロの方が作った曲をタダでもらうだなんて――!」
「いいんス! いいんス! 仕事といっても、元々は単なる趣味で、遊びだったんスから!」
僕のセリフを耳にしたしのぶさんは、顔を伏せ、ずり落ちないように瓶底メガネを人差し指でささえながら慌てて空いている方の手をぶんぶんと振った。どうやら照れているようだ。
「正直、君たちがうらやましーんスよ。僕はこんな見た目だし、人付き合いも苦手ッスから、誰かと一緒にモノを作り上げる喜びなんて、ちっともしらなかったんス。ようやく最近気づいたとこなんスよ、今の会社で。まあ小さな会社ッスし、人様に自慢できるようなものじゃ――」
「ダメだよ、しのぶちゃん! しのぶちゃんは凄いんだからね! ……あ、そうだ!」
しのぶさんを元気づけようと思ったのか、佐倉君は隣の部屋へと早足で入ると、さほど時間もかからずに戻ってきた。その手には、なんだかかわいらしいイラストが描かれた大きな箱が。
「これ! これですよ、古ノ森リーダー! このゲ……ゲーム? しのぶちゃん音楽担当で!」
「……ス? う……うにゃぁあああああ!?」
直後、しのぶさんは取り乱した様子で佐倉君に飛びかかるようにその箱を奪い取ろうとした。
「ダ、ダメッス、かえでちゃん!? そそそそれはいたいけな中学生の君たちが、決して見てはイケナイ奴ッスよ! 歪んじゃうから! セーヘキ歪んじゃうッスからぁあああああ!!」
激しくもみ合う二人の手から逃れるように、そのピンクピンクしたイラスト満載の大きな長方形の箱が僕の手の中に偶然飛び込んできた。やたら軽い。少し揺すると、ごとごと音がした。
丸文字で書かれた『おすメス☆きっす』のタイトルと一十八禁マーク。
もしやこれは……!
「んにゃぁあああああ! 見てはダメッス! ほわぁあああああ、記憶消滅チョーップッ!」
「んごぶっ!!」
やたらめったらに振り回されたしのぶさんの右の手刀が、偶然にも僕の脳天に突き刺さる。
僕の意識は、そこで、途切れた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(なんだっけ……この曲……なんだか……なつか……しい……)
「あ……っ、痛、痛たたたた……」
夢うつつの僕は、ずきり、とした頭部の疼きで強制的に現実世界へと引き戻されていた。ゆっくり目を開くと、実にわかりやすくしょんぼりした顔をしたしのぶさんが僕を見つめていた。
「よ――よかったッスゥウウウ! ついにやっちまった、と焦りまくってたッスよぉー!!」
しのぶさんが抱えている年季の入った黒いラジカセの再生ボタンを押すと、左右のスピーカーから不規則な電子音が流れ始めた。そしてそれは徐々に足並みをそろえはじめ、やがて一つの流れとなって軽快なリズムとメロディを奏ではじめた。自然と足はリズムを刻んでしまう。
「これはッスね、僕の作った曲なんス。かえでちゃんからハナシを聞いて、僕なりにイメージを膨らませて、君たちの創る世界観を表現してみたものなんスけど……ど、どう、ッスか?」
僕はしのぶさんの問いにこたえる前に、両隣の渋田と五十嵐君の反応をうかがった。
「歌、ってカンジじゃないけど、なんだかカッコイイ……! 未来っぽい……っていうの?」
「ですね。これは背景曲なのでしょう――ですよね? 僕も素晴らしいと思いました」
「ハカセが気に入ったなんて相当だね。実際、僕も凄いなあって思いますよ、しのぶさん」
二人の言葉にうなずきながら僕が続けて伝えると、しのぶさんは、ふひひ、と不気味――じゃなかった、うれしそうな笑い声を漏らした。それから瓶底メガネを、くい、と上げこう言う。
「よかったッス……。もし迷惑じゃなければ、それ、あげるので自由に使ってくださいッス」
「え? そ、そんな、悪いですよ!」
子猫じゃあるまいし、そんな気軽にあげたりできるものじゃない。
僕は慌てて手を振った。
「かえで君からも聞いてますよ。しのぶさん、コンピューター音楽のお仕事をされているんだって。素人が作ったものならまだしも、プロの方が作った曲をタダでもらうだなんて――!」
「いいんス! いいんス! 仕事といっても、元々は単なる趣味で、遊びだったんスから!」
僕のセリフを耳にしたしのぶさんは、顔を伏せ、ずり落ちないように瓶底メガネを人差し指でささえながら慌てて空いている方の手をぶんぶんと振った。どうやら照れているようだ。
「正直、君たちがうらやましーんスよ。僕はこんな見た目だし、人付き合いも苦手ッスから、誰かと一緒にモノを作り上げる喜びなんて、ちっともしらなかったんス。ようやく最近気づいたとこなんスよ、今の会社で。まあ小さな会社ッスし、人様に自慢できるようなものじゃ――」
「ダメだよ、しのぶちゃん! しのぶちゃんは凄いんだからね! ……あ、そうだ!」
しのぶさんを元気づけようと思ったのか、佐倉君は隣の部屋へと早足で入ると、さほど時間もかからずに戻ってきた。その手には、なんだかかわいらしいイラストが描かれた大きな箱が。
「これ! これですよ、古ノ森リーダー! このゲ……ゲーム? しのぶちゃん音楽担当で!」
「……ス? う……うにゃぁあああああ!?」
直後、しのぶさんは取り乱した様子で佐倉君に飛びかかるようにその箱を奪い取ろうとした。
「ダ、ダメッス、かえでちゃん!? そそそそれはいたいけな中学生の君たちが、決して見てはイケナイ奴ッスよ! 歪んじゃうから! セーヘキ歪んじゃうッスからぁあああああ!!」
激しくもみ合う二人の手から逃れるように、そのピンクピンクしたイラスト満載の大きな長方形の箱が僕の手の中に偶然飛び込んできた。やたら軽い。少し揺すると、ごとごと音がした。
丸文字で書かれた『おすメス☆きっす』のタイトルと一十八禁マーク。
もしやこれは……!
「んにゃぁあああああ! 見てはダメッス! ほわぁあああああ、記憶消滅チョーップッ!」
「んごぶっ!!」
やたらめったらに振り回されたしのぶさんの右の手刀が、偶然にも僕の脳天に突き刺さる。
僕の意識は、そこで、途切れた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(なんだっけ……この曲……なんだか……なつか……しい……)
「あ……っ、痛、痛たたたた……」
夢うつつの僕は、ずきり、とした頭部の疼きで強制的に現実世界へと引き戻されていた。ゆっくり目を開くと、実にわかりやすくしょんぼりした顔をしたしのぶさんが僕を見つめていた。
「よ――よかったッスゥウウウ! ついにやっちまった、と焦りまくってたッスよぉー!!」
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