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第197話 怒るべきなのは。 at 1995/9/1
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夏休みの間の部活動も今日で最後だ。
明日あさっての土日二日間は、我らが西町田中学校のグラウンドを使用して市内の中学校に所属する陸上部を集めての大会が行われるとのことで、すべての部活動が禁止になっていた。
「結局……ロコちゃん、こなかったね」
「ん? ああ……向こうが忙しいんじゃしようがないよ」
夏休みに各自分担した作業の成果は上々だった。
だが、さすがに僕らの部室である元・当直室が狭すぎることもあって、まだ作業に着手していない段ボールなどの一部の物資を荻島センセイの許可を得た上で理科準備室に置かせてもらうことにした。それが済んで、今は帰りだ。
「? ……ロコになんか用でもあったの、スミちゃん?」
下駄箱で留守番していたスニーカーと上履きを入れ替えて、ガタつくすのこに通学鞄を置いた僕は、一旦中腰になった姿勢を伸ばして、何もせずじっと立ち尽くす純美子に問いかけた。
「……え!? あ……うん、ちょっと――」
「そっか……。じゃあ、この後、ロコの家にでも寄ってみる?」
「ええっ!? う、ううん。そこまで急いでない……から……」
なんか妙だな――僕がかすかな違和感を覚えて、口を開こうと思ったその時だった。
「……あっれー? モリケンにトン子じゃーん!?」
「あ……桃月……さん」
甘ったるい声が昇降口に響いた。それを合図にでもしたのか、徐々に黄色い騒がしさが増してくる。ははあん、どうやら桃月たち体操部も今日は早めの部活終わりになったらしい。
「なんなのー、二人っきりでー? ……あー、『電気何とか部』っての作ったんだっけー?」
「あのね……。『電気』じゃなくって『電算論理研究部』なんだけどな」
無駄な抵抗を試みているうちに、他クラスの体操部員たちまでぞろぞろ集まってきてしまった。女子だけだからか、学校内のウワサ話に目がないのよね、とロコが言っていた気がする――特に恋愛関係のウワサが。ロコは嫌がるタチなので、必然ナンバー2の桃月の独壇場だ。
「……なんでもいーんだけど。でもさー? マジで困るんだよねー。部活サボられたりさー?」
桃月がそう言うと、すぐ後ろに立っている二人が合いの手を入れるかのような絶妙なタイミングでくすくすと忍び笑いを漏らした。名前も顔も覚えはないが、どうにも癇に障る二人だ。
「サボる、ってどういうこと? もしかして……ロコちゃんのこと言ってるの?」
勘の良い純美子はすぐに気づいたようだ。いきり立って一歩踏み出そうとするのを僕はとっさに片手で制した。だが、そのやりとりまで嘲笑うかのように、桃月は芝居じみた仕草で肩をすくめてみせると、一段階トーンを上げてこう言った。
「ま、モモはどっちだっていいんだけど? おかげで今度の発表会は、モモがセンターになったんだし? 仕方ないよねー、だって、ちゃんと部活に出てこないし、いきなり休むしさー」
「出て……こない? 休んでるって……それ、本当なの……?」
「は? 嘘ついてるって言いたいの、トン子? モモ、嘘つき呼ばわりされてカワイソー!」
「――!?」
「……ストップだ、スミちゃん。こんな奴相手にムキになってもしょうがない。……行こう」
乱暴に吐き捨てて純美子の腕を取ると、少し強めにチカラを込めて引っ張っていく。はじめ純美子は抗うようなそぶりを見せたが、やがて諦めたようだった。スニーカーとローファーに履き替えてなんとか校門のあたりまで来た頃合いで、純美子は思いっきり僕の手を振り払った。
「放して! なんで止めたのよ、ケンタ君!? あんなことまで言われて、頭に来ないの!? ロコちゃんは幼馴染で、師匠で兄貴分で、とっても大切なお友だちなんでしょう? 違う!?」
「違わない。……スミちゃんは、僕が怒ってないとでも思ってるのかい?」
「あ……ごめん……ね」
僕の堅い表情を目にした純美子の声は一気に熱が醒めたようにトーンダウンした。僕は言う。
「頭には来てるさ、とってもね……。でも、僕らが怒らないといけないのは、ロコの方だろ?」
明日あさっての土日二日間は、我らが西町田中学校のグラウンドを使用して市内の中学校に所属する陸上部を集めての大会が行われるとのことで、すべての部活動が禁止になっていた。
「結局……ロコちゃん、こなかったね」
「ん? ああ……向こうが忙しいんじゃしようがないよ」
夏休みに各自分担した作業の成果は上々だった。
だが、さすがに僕らの部室である元・当直室が狭すぎることもあって、まだ作業に着手していない段ボールなどの一部の物資を荻島センセイの許可を得た上で理科準備室に置かせてもらうことにした。それが済んで、今は帰りだ。
「? ……ロコになんか用でもあったの、スミちゃん?」
下駄箱で留守番していたスニーカーと上履きを入れ替えて、ガタつくすのこに通学鞄を置いた僕は、一旦中腰になった姿勢を伸ばして、何もせずじっと立ち尽くす純美子に問いかけた。
「……え!? あ……うん、ちょっと――」
「そっか……。じゃあ、この後、ロコの家にでも寄ってみる?」
「ええっ!? う、ううん。そこまで急いでない……から……」
なんか妙だな――僕がかすかな違和感を覚えて、口を開こうと思ったその時だった。
「……あっれー? モリケンにトン子じゃーん!?」
「あ……桃月……さん」
甘ったるい声が昇降口に響いた。それを合図にでもしたのか、徐々に黄色い騒がしさが増してくる。ははあん、どうやら桃月たち体操部も今日は早めの部活終わりになったらしい。
「なんなのー、二人っきりでー? ……あー、『電気何とか部』っての作ったんだっけー?」
「あのね……。『電気』じゃなくって『電算論理研究部』なんだけどな」
無駄な抵抗を試みているうちに、他クラスの体操部員たちまでぞろぞろ集まってきてしまった。女子だけだからか、学校内のウワサ話に目がないのよね、とロコが言っていた気がする――特に恋愛関係のウワサが。ロコは嫌がるタチなので、必然ナンバー2の桃月の独壇場だ。
「……なんでもいーんだけど。でもさー? マジで困るんだよねー。部活サボられたりさー?」
桃月がそう言うと、すぐ後ろに立っている二人が合いの手を入れるかのような絶妙なタイミングでくすくすと忍び笑いを漏らした。名前も顔も覚えはないが、どうにも癇に障る二人だ。
「サボる、ってどういうこと? もしかして……ロコちゃんのこと言ってるの?」
勘の良い純美子はすぐに気づいたようだ。いきり立って一歩踏み出そうとするのを僕はとっさに片手で制した。だが、そのやりとりまで嘲笑うかのように、桃月は芝居じみた仕草で肩をすくめてみせると、一段階トーンを上げてこう言った。
「ま、モモはどっちだっていいんだけど? おかげで今度の発表会は、モモがセンターになったんだし? 仕方ないよねー、だって、ちゃんと部活に出てこないし、いきなり休むしさー」
「出て……こない? 休んでるって……それ、本当なの……?」
「は? 嘘ついてるって言いたいの、トン子? モモ、嘘つき呼ばわりされてカワイソー!」
「――!?」
「……ストップだ、スミちゃん。こんな奴相手にムキになってもしょうがない。……行こう」
乱暴に吐き捨てて純美子の腕を取ると、少し強めにチカラを込めて引っ張っていく。はじめ純美子は抗うようなそぶりを見せたが、やがて諦めたようだった。スニーカーとローファーに履き替えてなんとか校門のあたりまで来た頃合いで、純美子は思いっきり僕の手を振り払った。
「放して! なんで止めたのよ、ケンタ君!? あんなことまで言われて、頭に来ないの!? ロコちゃんは幼馴染で、師匠で兄貴分で、とっても大切なお友だちなんでしょう? 違う!?」
「違わない。……スミちゃんは、僕が怒ってないとでも思ってるのかい?」
「あ……ごめん……ね」
僕の堅い表情を目にした純美子の声は一気に熱が醒めたようにトーンダウンした。僕は言う。
「頭には来てるさ、とってもね……。でも、僕らが怒らないといけないのは、ロコの方だろ?」
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