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第199話 どうして逃げるのさ? at 1995/9/2
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ゴンゴン――。
「はーい。……あらっ!? ケンタ君? ケンタ君じゃないの!」
ノックの音に応じてスチールドアを開けたのはロコの母親、亜矢子おばさんだった。
「ひさしぶりじゃない! まあ、ずいぶんと大きくなっちゃって……それに――」
「………………あの。います、よね?」
僕の表情を目にした亜矢子おばさんは、言いかけた言葉をひっこめて満面の笑みをわずかに曇らせると、困ったような笑顔になる。この仕草、ロコとそっくりだ。
「……だと思った。ええ、いるわよ? 君たちに上がって欲しいかどうかはわからないけどね」
そう言って、玄関脇の四畳半へとつながる開き戸を、ちらり、と横目で見る亜矢子おばさん。
「おい、ロコ――!」
「ロコちゃん――!」
僕が、そして純美子が壁越しに声をかけると、驚いたのか中から衣擦れの音が聴こえてきた。
「……なあ、ロコ? お前、一体どうしちゃったんだよ? 僕たちの部活を休むのはいいんだ。でもさ、なんで体操部まで休んでるんだよ? 本当に具合、悪いのか? それとも別に――」
「あ、あははは……ちょっとね――」
それ以上続けて欲しくなかったのか、ばさりと断ち切るようにロコは言い訳めいたセリフを吐いた。本当に具合が悪いのかも――僕が無言で問うと、亜矢子おばさんは首を振ってみせる。
「ロコちゃん。ねえ、どうしちゃったの? あたし、お話ししたいんだ! 聞きたいんだよ!」
今度は純美子だ。
しかし、さっきのように中からのこたえはなかった。
代わりに――。
ガラッ――とすん。
何か騒々しい音が聴こえたとたん、亜矢子おばさんが呆れたような表情を浮かべこう言った。
「まったくもう……。ねえ、君たち? どうやら、広子はベランダから逃げ出したみたいよ?」
「「え!?」」
ほぼ同時に驚きの声を上げた僕らの目の前で、ロコの部屋の戸が開けられると、亜矢子おばさんの言ったとおり、部屋はもうもぬけの殻だった。部屋の中心には、ついさっきまでそこにロコがいたことを証明するかのように、丸い窪みができた大きなハート型のクッションが置かれている。そして、そよ風になびく白いレースのカーテンの奥のガラス戸が開け放たれていた。
そうか!
ロコの家は二階――ベランダから伝い降りるか飛び降りるかして逃げたんだ!
「追いかけようよ、ケンタ君!」
そう言って玄関を出ようとした純美子は、Uターンして僕の背中を押して外へと追い出しつつ、亜矢子おばさんに向かって、ぺこり、とイキオイよく頭を下げた。
「亜矢子おばさん、騒々しくてごめんなさい! またお邪魔させていただきますから――!」
「はいはい。……さあ、青春諸君! 急いで追っかけなさい! あの子、足速いんだから!」
「はいっ!」
僕と純美子は転げ落ちるようにコンクリート製の階段を駆け下りて、玄関口から飛び出すと、左まわりにベランダのある芝生の方へと駆けていく。すると、反対側のホー3号棟の方へと走り去っていくポニーテールを見つけた。早い。もうあんなに小さく見えるなんて。
「待って、ロコちゃん! どうして逃げるの!?」
僕らも走り出すが、ワンピース姿の純美子の足元は白いミュールだ。芝生の上は余計に走りづらい。今にも足を挫きそうだ。僕は肩ごしに振り返ると、純美子に向けて叫んだ。
「ここは僕にまかせて! 必ず追いついて、連れて帰って来る! 商店街の広場で待ってて!」
「はーい。……あらっ!? ケンタ君? ケンタ君じゃないの!」
ノックの音に応じてスチールドアを開けたのはロコの母親、亜矢子おばさんだった。
「ひさしぶりじゃない! まあ、ずいぶんと大きくなっちゃって……それに――」
「………………あの。います、よね?」
僕の表情を目にした亜矢子おばさんは、言いかけた言葉をひっこめて満面の笑みをわずかに曇らせると、困ったような笑顔になる。この仕草、ロコとそっくりだ。
「……だと思った。ええ、いるわよ? 君たちに上がって欲しいかどうかはわからないけどね」
そう言って、玄関脇の四畳半へとつながる開き戸を、ちらり、と横目で見る亜矢子おばさん。
「おい、ロコ――!」
「ロコちゃん――!」
僕が、そして純美子が壁越しに声をかけると、驚いたのか中から衣擦れの音が聴こえてきた。
「……なあ、ロコ? お前、一体どうしちゃったんだよ? 僕たちの部活を休むのはいいんだ。でもさ、なんで体操部まで休んでるんだよ? 本当に具合、悪いのか? それとも別に――」
「あ、あははは……ちょっとね――」
それ以上続けて欲しくなかったのか、ばさりと断ち切るようにロコは言い訳めいたセリフを吐いた。本当に具合が悪いのかも――僕が無言で問うと、亜矢子おばさんは首を振ってみせる。
「ロコちゃん。ねえ、どうしちゃったの? あたし、お話ししたいんだ! 聞きたいんだよ!」
今度は純美子だ。
しかし、さっきのように中からのこたえはなかった。
代わりに――。
ガラッ――とすん。
何か騒々しい音が聴こえたとたん、亜矢子おばさんが呆れたような表情を浮かべこう言った。
「まったくもう……。ねえ、君たち? どうやら、広子はベランダから逃げ出したみたいよ?」
「「え!?」」
ほぼ同時に驚きの声を上げた僕らの目の前で、ロコの部屋の戸が開けられると、亜矢子おばさんの言ったとおり、部屋はもうもぬけの殻だった。部屋の中心には、ついさっきまでそこにロコがいたことを証明するかのように、丸い窪みができた大きなハート型のクッションが置かれている。そして、そよ風になびく白いレースのカーテンの奥のガラス戸が開け放たれていた。
そうか!
ロコの家は二階――ベランダから伝い降りるか飛び降りるかして逃げたんだ!
「追いかけようよ、ケンタ君!」
そう言って玄関を出ようとした純美子は、Uターンして僕の背中を押して外へと追い出しつつ、亜矢子おばさんに向かって、ぺこり、とイキオイよく頭を下げた。
「亜矢子おばさん、騒々しくてごめんなさい! またお邪魔させていただきますから――!」
「はいはい。……さあ、青春諸君! 急いで追っかけなさい! あの子、足速いんだから!」
「はいっ!」
僕と純美子は転げ落ちるようにコンクリート製の階段を駆け下りて、玄関口から飛び出すと、左まわりにベランダのある芝生の方へと駆けていく。すると、反対側のホー3号棟の方へと走り去っていくポニーテールを見つけた。早い。もうあんなに小さく見えるなんて。
「待って、ロコちゃん! どうして逃げるの!?」
僕らも走り出すが、ワンピース姿の純美子の足元は白いミュールだ。芝生の上は余計に走りづらい。今にも足を挫きそうだ。僕は肩ごしに振り返ると、純美子に向けて叫んだ。
「ここは僕にまかせて! 必ず追いついて、連れて帰って来る! 商店街の広場で待ってて!」
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