ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

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第254話 少し早めの戦争前夜 at 1995/10/6

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「はい! 今日一日は、全校生徒揃ってのリハーサルだからねー! 本番のつもりでしっかり全力でやりましょう! みんな、いいねー!?」

「はーい。女子ー! 本番と同じなんだから、整列する時はジャージ脱ぐ! ほら、そこ!」


 いまいちぴりっとしない二年生の群れに、男子の体育教師の磯島センセイと女子の体育教師、大出おおいで久美くみセンセイが語気強く声をかけ、少しずつ秩序を取り戻しているところである。


 そう、今日は来週の火曜に行われる『運動会』の、最初で最後の通しリハーサルの日だ。

 各クラス、各学年ごとに体育の授業で練習を繰り返しているものの、全校生徒が勢ぞろいし、しかもさらには、校長センセイからのありがたーい開会の言葉や、商店会やら自治会やらからの祝電披露などといった細かなプログラムまで逐一再現するという、ある意味ちょっと神経質で偏執病じみた徹底ぶりが、もはや毎年恒例となっている僕らでさえユーウツな日なのである。


「うわー……気合入ってるねー、磯セン」

「そりゃそうだ。ここをきちんと仕切れるチカラが認められないと、学年主任はとてもとても」

「いまだ、その器にはないように思えますが?」

「ですですっ。む、無理ですよぅ、あの人じゃあ」


『電算論理研究部』の男子部員もフルメンバーで参加していた。リハーサル前日の昨日にたまたま体育の授業があった僕らは、目の前でやたら忙しそうにしている磯島センセイから『本番は休んでも、リハーサルは休まないように』という本末転倒な指導を受けていたからでもある。リハーサルは自分の手腕が試されるが、本番は教師全員の努力の結果なので、というわけだ。

 忙しそうにしているものの、特に役に立っていなさそうに見える磯センの姿を横目に見つつ、僕ら四人は他に聞かれぬように用心深く、ひそひそと言葉を交わす。


「今日、やるかな? 騎馬戦まで」

「去年のリハは押し押しだったけど、結局最後までやりきったよね……夜七時ごろまでかけて」

「し、渋田サブリーダーはいいですよね……おウチ、すぐそこですし」

「『神は細部に宿る』と言いますが……『過ぎたるはなおおよばざるがごとし』とも申しますよ?」

「仕方ないよ……やるきることが仕事だと思ってる人たちなんだから……」


 僕は不満たらたらのメンバーのセリフをそう言って締めくくった。


 会社でもどこでも、得てして目的と目標をはき違えがちな人がいるものである。目的とは、すなわち最終的に実現したい到達点であり、対して目標とは、その目的を実現・達成するためにクリアするべきいくつかの具体的な事柄だ。

 リハーサルの真の目的とは、本番当日につつがなくプログラムを進行させるためのシミュレーションなのであって、決して個々の競技・種目の精度を推し測り、高めるためではない。しかし、悲しいかな我らが西町田中学校の教師陣は、とかく後者にチカラを注ぎがちなのである。


「それよりもだ」


 僕は他の三人に手招きして、輪の大きさをひと回り小さくして言った。


「動きのコンビネーションとタイミング、それと、号令の出し方についてはばっちりだよね?」

「さんざんやってきたもんね。もう息ぴったりだって、モリケン」

「ぼ、僕も大丈夫だと思います」

「あ。そういえば、戦術について、いくつか案を考えてくる、って言ってたよね、ハカセ?」


 そう尋ねると、五十嵐君は、ちら、と僕の目を見つめた。


「ええ。……ただ、戦場の状況は常に変化します。ある程度のアドリブは必要になるでしょう」

「せ、戦場、ねぇ……。ま、それはおっしゃるとおりなんだけどさ」


 その場になって、イキナリ『孫子の兵法』からの引用で指示を出されそうで怖い。
 故事のひとつひとつをもたもた紐解いているうちに、返り討ちにあってしまいそうだ。


(あのダッチのことだ。またよからぬ仕掛けを用意してないとも限らないからな……)


 前回の『西中まつり』での一件を忘れた僕たちではない。相手チームはもとより、自陣にも敵がいる、くらいの心構えでいた方がいいだろう。ちっぽけな油断が敗北を招きかねない。


(もう一敗もできないからな……。もし負ければ、僕たちは大事な仲間を失うことになるんだから)


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