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第274話 波乱ぶくみの運動会(20) at 1995/10/10
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『いよいよ――最後の競技となります――各学年ごとの――騎馬戦です――!』
アナウンスの声が高らかに鳴り響く中、僕らは一人欠けた騎馬のまま、胸を張って立つ。
――ぴーっ!
鋭く空気を引き裂く笛の音を聞き届け、僕は自らハチマキを取り去ると、渋田、五十嵐君とうなずき合ってから、すぐ隣に立っていた審判役の磯島センセイにそれを手渡した。
「僕らは棄権します」
そうして、僕らの中学二年生の運動会は幕を閉じたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「本当に……すまねぇ」
驚いたことに、閉会式のあと、僕らの前に姿を現したのは小山田たちだった。
「……だが、俺はこいつらのことを嫌ったり、怒ったりはできねえ。こいつらは俺のためだと信じてやったんだ。だったらこれは、全部俺のせいだ。だから、謝らなきゃいけねえのは俺だ」
「正直、怒ってない、なんてことは口が裂けても言えない」
切腹寸前の武士のごとく覚悟を決めて僕らの前で土下座の姿勢をとる小山田に僕は言う。
「僕らの仲間が怪我をしたんだ。怒るに決まってるし、許すなんて到底無理だ。でもさ――」
「?」
「君のためを思って無茶なことをしでかしたのも、やっぱり君の仲間なんだ。そうだろう?」
仲間、という言葉を聞くと、たちまち小山田は居心地悪げに視線を泳がせる。隣で小さく怯えたようにカラダを縮こませている吉川たちに目を向け、それから、はぁ、と息を吐いた。
「……違いねぇ。こいつらは仲間でダチだ。こんな馬鹿でチカラ任せの乱暴者でも愛想を尽かさずつるんでくれるマブダチだ。時々どうしようもねえことをしでかすが、それでもダチだ」
「――!?」
「ンだよ? そんな顔で見るんじゃねえ! ……ったく、てめえら、余計なことしやがって!」
胸倉を掴まれても、噛みつかれそうな距離から睨まれても、吉川たちの浮かべている表情は、僕にはちょっぴり嬉しそうに見えたのだ。妙にくすぐったいような気持ちになって止めに入る。
「ま、まあ! も、もうそのへんで――ね?」
「あぁん!?」
「そ、それに、ほら……土下座は目立つし、申し訳ないからさ。そろそろ、そういうのナシで」
「ひひっ……いいざまだなぁ、ダッチィ。またお得意のイカサマでもやってバレたのかよぉ?」
そして、止めに入ったもうひとつの理由がその少年の出現だった。
「……ちっ、タツヒコかよ。誰がイカサマ野郎だ? てめぇの方こそインチキ野郎じゃねえか」
僕は彼の存在をすっかり忘れていたのだ。
小山田と双璧をなす、西町田中学校の札付きのワル。ただし、彼――赤川龍彦は、小山田のふるうシンプルな暴力とは違って、どこかネジの外れたような不気味で意味不明な行動が目立つ異質な少年だったと思う。
覚えている限りでは、金属バットで廊下のガラスをすべて割ったり、授業中に教室を抜け出し二階のベランダから飛び降りて逃げ回ったり、女子が着替え中の教室のドアを蹴破って乱入したり、若い女性教師に抱きついて卑猥な仕草をしたりと、なにしろすべてが規格外だった。
かと思うと、きちんと最後まで集中力が続けばどんなスポーツでも器用にこなすし、中間や期末テストの方だって、そこそこというよりも一段階上の成績を軽々とってみせたりもする。
そしてなにより、なにかにつけて小山田を挑発して暴力沙汰を引き起こしていたのが彼だった。
「ひひっ。インチキだってよぉ。そのインチキに、手も足も出なかったくせになぁ。ウケるぅ」
「……言ってろよ。次の球技大会で、きっちり落とし前つけてやるぜ。二度と負けねえからな」
「待ってるぜぇ、ヘタクソのキャプテンちゃーん」
タツヒコは、へらり、と笑いながら嘲りの言葉を吐くと。周囲の生徒を威嚇しながら去っていった。
アナウンスの声が高らかに鳴り響く中、僕らは一人欠けた騎馬のまま、胸を張って立つ。
――ぴーっ!
鋭く空気を引き裂く笛の音を聞き届け、僕は自らハチマキを取り去ると、渋田、五十嵐君とうなずき合ってから、すぐ隣に立っていた審判役の磯島センセイにそれを手渡した。
「僕らは棄権します」
そうして、僕らの中学二年生の運動会は幕を閉じたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「本当に……すまねぇ」
驚いたことに、閉会式のあと、僕らの前に姿を現したのは小山田たちだった。
「……だが、俺はこいつらのことを嫌ったり、怒ったりはできねえ。こいつらは俺のためだと信じてやったんだ。だったらこれは、全部俺のせいだ。だから、謝らなきゃいけねえのは俺だ」
「正直、怒ってない、なんてことは口が裂けても言えない」
切腹寸前の武士のごとく覚悟を決めて僕らの前で土下座の姿勢をとる小山田に僕は言う。
「僕らの仲間が怪我をしたんだ。怒るに決まってるし、許すなんて到底無理だ。でもさ――」
「?」
「君のためを思って無茶なことをしでかしたのも、やっぱり君の仲間なんだ。そうだろう?」
仲間、という言葉を聞くと、たちまち小山田は居心地悪げに視線を泳がせる。隣で小さく怯えたようにカラダを縮こませている吉川たちに目を向け、それから、はぁ、と息を吐いた。
「……違いねぇ。こいつらは仲間でダチだ。こんな馬鹿でチカラ任せの乱暴者でも愛想を尽かさずつるんでくれるマブダチだ。時々どうしようもねえことをしでかすが、それでもダチだ」
「――!?」
「ンだよ? そんな顔で見るんじゃねえ! ……ったく、てめえら、余計なことしやがって!」
胸倉を掴まれても、噛みつかれそうな距離から睨まれても、吉川たちの浮かべている表情は、僕にはちょっぴり嬉しそうに見えたのだ。妙にくすぐったいような気持ちになって止めに入る。
「ま、まあ! も、もうそのへんで――ね?」
「あぁん!?」
「そ、それに、ほら……土下座は目立つし、申し訳ないからさ。そろそろ、そういうのナシで」
「ひひっ……いいざまだなぁ、ダッチィ。またお得意のイカサマでもやってバレたのかよぉ?」
そして、止めに入ったもうひとつの理由がその少年の出現だった。
「……ちっ、タツヒコかよ。誰がイカサマ野郎だ? てめぇの方こそインチキ野郎じゃねえか」
僕は彼の存在をすっかり忘れていたのだ。
小山田と双璧をなす、西町田中学校の札付きのワル。ただし、彼――赤川龍彦は、小山田のふるうシンプルな暴力とは違って、どこかネジの外れたような不気味で意味不明な行動が目立つ異質な少年だったと思う。
覚えている限りでは、金属バットで廊下のガラスをすべて割ったり、授業中に教室を抜け出し二階のベランダから飛び降りて逃げ回ったり、女子が着替え中の教室のドアを蹴破って乱入したり、若い女性教師に抱きついて卑猥な仕草をしたりと、なにしろすべてが規格外だった。
かと思うと、きちんと最後まで集中力が続けばどんなスポーツでも器用にこなすし、中間や期末テストの方だって、そこそこというよりも一段階上の成績を軽々とってみせたりもする。
そしてなにより、なにかにつけて小山田を挑発して暴力沙汰を引き起こしていたのが彼だった。
「ひひっ。インチキだってよぉ。そのインチキに、手も足も出なかったくせになぁ。ウケるぅ」
「……言ってろよ。次の球技大会で、きっちり落とし前つけてやるぜ。二度と負けねえからな」
「待ってるぜぇ、ヘタクソのキャプテンちゃーん」
タツヒコは、へらり、と笑いながら嘲りの言葉を吐くと。周囲の生徒を威嚇しながら去っていった。
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