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第279話 月夜の邂逅(2) at 1995/10/14
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「――すぐ、来るみたいだ」
ロコには電話口で聴いたままを伝え、電話ボックスを出て近場の手すりに並んで腰かけた。
「……」
今夜もロコは、真剣で冗談の入り込む余地のない厳しい顔をしていた。なにしろ相手は得体がしれない、不安に思うのが当然だろう。僕の方はまだ、相手の見当がついているだけマシだ。
――かさり。
昨晩はだいぶ暖かかったようだが、今週の最低気温は15℃ほど。緑地内に敷き詰められている芝生はところどころ色褪せ枯れていた。その乾いた下映えを踏みしめて、ナイトウェアのようなワンピース一枚姿の白い少女の姿がゆっくりと近づいてくる。痩せこけ、幽鬼のようだ。
「やっと会えたな――」
そうして、ようやく僕らの目の前まで辿り着くと、スピーカー越しでない生の声が言った。
「古ノ森健太、そして上ノ原広子……。ここにいる私こそが、トキミコ・セツナだ」
「………………ツッキー」
ロコは意外にも感情をあらわにすることなく、ただ低く呟くと、鋭い目をさらに細めた。
「驚くのも無理はない、か。……だがな? 私は琴世ではない」
「おいおいおい。兄弟姉妹がいるだなんてハナシ、ツッキーパパはしてなかったぜ?」
「それはそうだろうとも――そんなものはいないからな」
「じゃあ、やっぱりアンタはツッキー本人で、あたしたちを騙してた、ってことなの!?」
相手の動きを鋭い視線でその場に縫い止めつつ、挑むように一歩踏み出してロコは言った。
「順番にこたえようか――」
トキミコ・セツナの方は、抗戦の意思がないことを示すかのように両手を高く掲げていた。
「私は琴世本人ではない。そして……お前たちの信頼に信頼でこたえようとしている者だよ」
「じゃあ、なんでツッキーと同じ位置にホクロがあるのよ!? あたし、メイク練習とかでさんざん一緒だったから、目立つ位置にある奴は覚えているのよ!? なんで一致しているの!」
「頼む、落ち着いてくれ。理解してもらえるかはわからないが、きちんとそれは説明ができる」
「お、おい、ロコ――よ、よし、頼む」
追い詰めるように距離を詰めていたロコの手を掴んで引き剥がすと、僕らはトキミコ・セツナの腰掛けた手すりの横に、再び腰を下ろした。が、念のためロコは僕の左側の離れた位置だ。
「まず、だな……順を追って話すべきだろう。お前たちにも一つずつ、お前らにだけ与えられたユニークな『リトライ・アイテム』があるはずだ。古ノ森健太、お前のは、そのスマホだな」
「う、うん」
そこで急に疑問が生じた。
ロコの『リトライ・アイテム』がなんなのかを、僕はまだ知らなかったからだ。
が、それを知ってか知らずか、トキミコ・セツナはハナシの本筋を進めることにしたらしい。
「それぞれが大事だと思う、思い入れの深い物、それが『リトライ・アイテム化』するようだ。お前にとって、そのスマホは、手放すに手放せない重要な意味合いを持つ物、というわけだ」
「な、なるほど……」
気になって仕方がないが、ここでわざわざ『じゃあロコのは?』と聞くのも妙なハナシだ。
「だったら、お前の場合はどうなんだよ、トキミコ・セツナ? もしかして、父親の描いている絵だったりするのか? それとも……ええと……なにか他の物が――」
そこでトキミコ・セツナは皮肉たっぷりに口角を上げて、ぱかり、と口を開けてこう告げた。
「私たちの持つ、実にユニークな『リトライ・アイテム』……それこそが、この私、なのだよ」
ロコには電話口で聴いたままを伝え、電話ボックスを出て近場の手すりに並んで腰かけた。
「……」
今夜もロコは、真剣で冗談の入り込む余地のない厳しい顔をしていた。なにしろ相手は得体がしれない、不安に思うのが当然だろう。僕の方はまだ、相手の見当がついているだけマシだ。
――かさり。
昨晩はだいぶ暖かかったようだが、今週の最低気温は15℃ほど。緑地内に敷き詰められている芝生はところどころ色褪せ枯れていた。その乾いた下映えを踏みしめて、ナイトウェアのようなワンピース一枚姿の白い少女の姿がゆっくりと近づいてくる。痩せこけ、幽鬼のようだ。
「やっと会えたな――」
そうして、ようやく僕らの目の前まで辿り着くと、スピーカー越しでない生の声が言った。
「古ノ森健太、そして上ノ原広子……。ここにいる私こそが、トキミコ・セツナだ」
「………………ツッキー」
ロコは意外にも感情をあらわにすることなく、ただ低く呟くと、鋭い目をさらに細めた。
「驚くのも無理はない、か。……だがな? 私は琴世ではない」
「おいおいおい。兄弟姉妹がいるだなんてハナシ、ツッキーパパはしてなかったぜ?」
「それはそうだろうとも――そんなものはいないからな」
「じゃあ、やっぱりアンタはツッキー本人で、あたしたちを騙してた、ってことなの!?」
相手の動きを鋭い視線でその場に縫い止めつつ、挑むように一歩踏み出してロコは言った。
「順番にこたえようか――」
トキミコ・セツナの方は、抗戦の意思がないことを示すかのように両手を高く掲げていた。
「私は琴世本人ではない。そして……お前たちの信頼に信頼でこたえようとしている者だよ」
「じゃあ、なんでツッキーと同じ位置にホクロがあるのよ!? あたし、メイク練習とかでさんざん一緒だったから、目立つ位置にある奴は覚えているのよ!? なんで一致しているの!」
「頼む、落ち着いてくれ。理解してもらえるかはわからないが、きちんとそれは説明ができる」
「お、おい、ロコ――よ、よし、頼む」
追い詰めるように距離を詰めていたロコの手を掴んで引き剥がすと、僕らはトキミコ・セツナの腰掛けた手すりの横に、再び腰を下ろした。が、念のためロコは僕の左側の離れた位置だ。
「まず、だな……順を追って話すべきだろう。お前たちにも一つずつ、お前らにだけ与えられたユニークな『リトライ・アイテム』があるはずだ。古ノ森健太、お前のは、そのスマホだな」
「う、うん」
そこで急に疑問が生じた。
ロコの『リトライ・アイテム』がなんなのかを、僕はまだ知らなかったからだ。
が、それを知ってか知らずか、トキミコ・セツナはハナシの本筋を進めることにしたらしい。
「それぞれが大事だと思う、思い入れの深い物、それが『リトライ・アイテム化』するようだ。お前にとって、そのスマホは、手放すに手放せない重要な意味合いを持つ物、というわけだ」
「な、なるほど……」
気になって仕方がないが、ここでわざわざ『じゃあロコのは?』と聞くのも妙なハナシだ。
「だったら、お前の場合はどうなんだよ、トキミコ・セツナ? もしかして、父親の描いている絵だったりするのか? それとも……ええと……なにか他の物が――」
そこでトキミコ・セツナは皮肉たっぷりに口角を上げて、ぱかり、と口を開けてこう告げた。
「私たちの持つ、実にユニークな『リトライ・アイテム』……それこそが、この私、なのだよ」
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