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第289話 因果は応報す at 1995/10/24
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(さすがに参ったな、こりゃあ……)
一夜明けても、昨日偶然出会った一組の三溝さんの告白の衝撃が強すぎて、僕の気持ちはなんとなく重く、憂鬱なままだった。あのやりとりを思い出すだけで、なおさら気が滅入る。
驚くばかりの僕だったが、僕はかろうじてカノジョの真剣そのものの顔に向けてこう尋ねたのだ。
『葬り去る、って……そ、それって変な意味じゃない、よね?』
『……そのままの意味ですけど。この世界から跡形もなく消し去る、って意味です』
『い、いやいやいや! ま、待ってよ! それってつまり――殺す、ってこと?』
『はい』
迷いのない即答。
とてもとてもなにかの冗談や罰ゲームで言っているようには聴こえない。なにより、三溝さんの浮かべている表情が、本気であることを雄弁に物語っていた。僕は再び尋ねることにする。
『い……いや、なんで? どうしてそんな物騒なことを? だって彼だって――』
『ひとりのニンゲン、ですか? とてもあたしにはそうは思えないんですけど』
『う……』
サバンナで生きる草食動物に似た温和そうな少女から飛び出す言葉の数々は、思わずオトコの子で、彼――タツヒコをどうにかして僕の人生から退場させたい、と夢想していた自分が幼稚に思えたほど辛辣で無慈悲だった。
どうしてカノジョ――三溝さんはそうまで、タツヒコを憎むのだろう?
並大抵の憎しみの感情ではとても説明がつかないように思う。
『あのさ……? そう思った、理由、聞かせてもらってもいい?』
『……どうして、ですか?』
『どうしてって……そりゃあ、誰かひとり、特定のニンゲンを殺したいとまで思っているんだから、それなりの動機ってモンがあるだろ? ただ、なんとなく――って訳じゃないだろうし』
『………………っ』
すると急に、三溝さんの口が重くなり、固く閉ざされてしまった。
なにかよほどの理由があるのだろうか。
しばらく身じろぎすらせずに三溝さんは、足元のリノリウムの床をじっと見つめていた。
いっそこの隙に退散しようかと僕が思案していたタイミングで、ようやっと口を開く。
『……古ノ森君があたしに協力してくれるのなら、お話しします』
『う……っ』
できるわけがない。
中学生の身で、誰かを殺してしまおうだなんて計画に加担したくはなかった。こっちは三溝さんの告白すべてを記憶から消し去ってしまいたいくらいなのにだ。
そりゃあ、僕も聖人君子にはほど遠く、そこそこ俗にまみれた平々凡々とした小市民であるからして、タツヒコが永遠に僕の人生から消える、と聞かされた時には、悲しいという感情は驚くほど湧かなかった。むしろ、誰かがこっそりと気を利かしてくれたらいいのに、と思ったくらいだ。
でも、だからといって。
(とりあえず即答は避けて、少し考えさせて、って時間は稼いだけど……)
僕の予定とは大きく違う。こんなことをしたかった訳じゃない。
かといって――。
三溝さんをあのままにしておくのも危険だし、心配でもあった。
(うーん……困っちゃったな……)
話題が話題だけに、渋田たち『電算論理研究部』の仲間に相談もしにくい。純美子に打ち明けるなんて、もってのほかだ。理解者を探そうとして、思わぬ怪物の尾を踏んづけてしまった。
(はぁ……しばらく一組には近づけないな。じき、三溝さんの気持ちも変わるかもしれないし)
しかし――。
この考えが甘かったことを、僕はすぐにも思い知らされることになるのである。
一夜明けても、昨日偶然出会った一組の三溝さんの告白の衝撃が強すぎて、僕の気持ちはなんとなく重く、憂鬱なままだった。あのやりとりを思い出すだけで、なおさら気が滅入る。
驚くばかりの僕だったが、僕はかろうじてカノジョの真剣そのものの顔に向けてこう尋ねたのだ。
『葬り去る、って……そ、それって変な意味じゃない、よね?』
『……そのままの意味ですけど。この世界から跡形もなく消し去る、って意味です』
『い、いやいやいや! ま、待ってよ! それってつまり――殺す、ってこと?』
『はい』
迷いのない即答。
とてもとてもなにかの冗談や罰ゲームで言っているようには聴こえない。なにより、三溝さんの浮かべている表情が、本気であることを雄弁に物語っていた。僕は再び尋ねることにする。
『い……いや、なんで? どうしてそんな物騒なことを? だって彼だって――』
『ひとりのニンゲン、ですか? とてもあたしにはそうは思えないんですけど』
『う……』
サバンナで生きる草食動物に似た温和そうな少女から飛び出す言葉の数々は、思わずオトコの子で、彼――タツヒコをどうにかして僕の人生から退場させたい、と夢想していた自分が幼稚に思えたほど辛辣で無慈悲だった。
どうしてカノジョ――三溝さんはそうまで、タツヒコを憎むのだろう?
並大抵の憎しみの感情ではとても説明がつかないように思う。
『あのさ……? そう思った、理由、聞かせてもらってもいい?』
『……どうして、ですか?』
『どうしてって……そりゃあ、誰かひとり、特定のニンゲンを殺したいとまで思っているんだから、それなりの動機ってモンがあるだろ? ただ、なんとなく――って訳じゃないだろうし』
『………………っ』
すると急に、三溝さんの口が重くなり、固く閉ざされてしまった。
なにかよほどの理由があるのだろうか。
しばらく身じろぎすらせずに三溝さんは、足元のリノリウムの床をじっと見つめていた。
いっそこの隙に退散しようかと僕が思案していたタイミングで、ようやっと口を開く。
『……古ノ森君があたしに協力してくれるのなら、お話しします』
『う……っ』
できるわけがない。
中学生の身で、誰かを殺してしまおうだなんて計画に加担したくはなかった。こっちは三溝さんの告白すべてを記憶から消し去ってしまいたいくらいなのにだ。
そりゃあ、僕も聖人君子にはほど遠く、そこそこ俗にまみれた平々凡々とした小市民であるからして、タツヒコが永遠に僕の人生から消える、と聞かされた時には、悲しいという感情は驚くほど湧かなかった。むしろ、誰かがこっそりと気を利かしてくれたらいいのに、と思ったくらいだ。
でも、だからといって。
(とりあえず即答は避けて、少し考えさせて、って時間は稼いだけど……)
僕の予定とは大きく違う。こんなことをしたかった訳じゃない。
かといって――。
三溝さんをあのままにしておくのも危険だし、心配でもあった。
(うーん……困っちゃったな……)
話題が話題だけに、渋田たち『電算論理研究部』の仲間に相談もしにくい。純美子に打ち明けるなんて、もってのほかだ。理解者を探そうとして、思わぬ怪物の尾を踏んづけてしまった。
(はぁ……しばらく一組には近づけないな。じき、三溝さんの気持ちも変わるかもしれないし)
しかし――。
この考えが甘かったことを、僕はすぐにも思い知らされることになるのである。
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