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第305話 束の間の平穏と at 1995/10/31
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「――ねぇねぇ……聞いた? あのハナシ?」
「――え? ……あー、あの迷惑な奴のこと? きーたきーた!」
その日は、朝からクラス中が別の意味でざわめき、ひそめきあっていた。だが、昨日まで、先週までウチのクラスメイトたちのココロをゆさぶり、ぐらつかせていた『あの少年』の姿は見えない。が、それは当然のことだとも言えるだろう。
「あ、あのね、ケンタ君? あのハナシって、もう聞いてるかな?」
「ん? ……あー。タツヒコのこと? うん、朝イチで荻センに捕まって、教えてもらったよ」
「そっか。あの……よかったよね」
僕は純美子の弱々しげな微笑みに、うまくこたえることができないまま、ただ首を縦に振る。
昨日の全校朝礼で起こった乱入事件で、あの『無敵の悪』こと赤川龍彦ら五名の少年たちが一部の勇敢な教師および生徒によって取り押さえられ、最終的に近隣住民の通報によって駆けつけた警察にその身柄を引き渡すこととなったのであった。学校側からの処分は、一週間の自宅謹慎となったようだ。
何も言えずに黙っていると、周囲の声がまた聴こえてきた。
「でもさー? ガッコ側が通報しなかったってのは……なんかアレだよねー?」
「その気持ちの余裕が持てないほど、現場が緊迫していたから、ってのも……」
「そんなん言い訳っしょ? ほら、セケンテーって奴? いまさらってカンジ」
僕は、やれやれ、と首を振り、くたびれ果てた表情筋に喝を入れてひときわ笑ってみせた。
「まあ、これでしばらくは、ウチのクラスのみんなもビクビクして過ごさなくても済むでしょ」
「それは……! ……そうなんだけど。で、でも、ケンタ君が――!」
「大丈夫だって。スミちゃんは心配性だなぁ」
口では気楽にそう答えたものの、何人かの生徒には、あのセリフを聞かれてしまったらしい。
『くっそぉ……古ノ森……ケンタァ……。うひひっ、その名前……覚えたからなぁ……』
それがどこからか経由で純美子の耳にも入ってしまったようだ。なんとも、おせっかいな連中もいたもんである。
だが、この中学の生徒なら誰でも知っているはずだ。
タツヒコの執着心の、異常なまでの強烈さを。
(はぁ……厄介なことになったな……)
正直、僕だって気が重い。
(けど、これははじめから覚悟していたことだから……)
そう。
と同時に、僕はこうなること、こうなってしまうことを覚悟して行動したのだ。
(その甲斐はあったはずだ。あの時、確かにアイツは僕を助けてくれたし、共に戦ってくれた)
――小山田徹、通称『ダッチ』。
彼は、ただいま僕とは謎の『対決中』であり、なぜか勝手にライバル視されて――いや、まあこれは僕のうぬぼれかもしれないけれど――おり、事あるごとに目を付けられて厄介者扱いされているわけだけれど、あの時、あの瞬間の僕らは、確かにココロが通じ合っていたと思う。
……まあ、その後は、今日の今に至るまで、ひとことも口をきいてもらえないのだけど。
「そっ! そういえばね?」
僕のユーウツそうな表情を案じてか、純美子は声のトーンをいくぶんか上げて言った。
「今週ね? ほら、ずっと遅れてた、中間テストの結果が返ってくるみたいだよ、ケンタ君?」
「あ、そうなんだ。どのみち先週は、いろんなことでいっぱいいっぱいだったから助かるなぁ」
「……いろんなこと?」
「あ――い、いやいやいや! こっちのハナシ」
……そうだ。
僕にはやらなきゃいけないことがあるんだった――この『リトライ』を大いに楽しむって。
「――え? ……あー、あの迷惑な奴のこと? きーたきーた!」
その日は、朝からクラス中が別の意味でざわめき、ひそめきあっていた。だが、昨日まで、先週までウチのクラスメイトたちのココロをゆさぶり、ぐらつかせていた『あの少年』の姿は見えない。が、それは当然のことだとも言えるだろう。
「あ、あのね、ケンタ君? あのハナシって、もう聞いてるかな?」
「ん? ……あー。タツヒコのこと? うん、朝イチで荻センに捕まって、教えてもらったよ」
「そっか。あの……よかったよね」
僕は純美子の弱々しげな微笑みに、うまくこたえることができないまま、ただ首を縦に振る。
昨日の全校朝礼で起こった乱入事件で、あの『無敵の悪』こと赤川龍彦ら五名の少年たちが一部の勇敢な教師および生徒によって取り押さえられ、最終的に近隣住民の通報によって駆けつけた警察にその身柄を引き渡すこととなったのであった。学校側からの処分は、一週間の自宅謹慎となったようだ。
何も言えずに黙っていると、周囲の声がまた聴こえてきた。
「でもさー? ガッコ側が通報しなかったってのは……なんかアレだよねー?」
「その気持ちの余裕が持てないほど、現場が緊迫していたから、ってのも……」
「そんなん言い訳っしょ? ほら、セケンテーって奴? いまさらってカンジ」
僕は、やれやれ、と首を振り、くたびれ果てた表情筋に喝を入れてひときわ笑ってみせた。
「まあ、これでしばらくは、ウチのクラスのみんなもビクビクして過ごさなくても済むでしょ」
「それは……! ……そうなんだけど。で、でも、ケンタ君が――!」
「大丈夫だって。スミちゃんは心配性だなぁ」
口では気楽にそう答えたものの、何人かの生徒には、あのセリフを聞かれてしまったらしい。
『くっそぉ……古ノ森……ケンタァ……。うひひっ、その名前……覚えたからなぁ……』
それがどこからか経由で純美子の耳にも入ってしまったようだ。なんとも、おせっかいな連中もいたもんである。
だが、この中学の生徒なら誰でも知っているはずだ。
タツヒコの執着心の、異常なまでの強烈さを。
(はぁ……厄介なことになったな……)
正直、僕だって気が重い。
(けど、これははじめから覚悟していたことだから……)
そう。
と同時に、僕はこうなること、こうなってしまうことを覚悟して行動したのだ。
(その甲斐はあったはずだ。あの時、確かにアイツは僕を助けてくれたし、共に戦ってくれた)
――小山田徹、通称『ダッチ』。
彼は、ただいま僕とは謎の『対決中』であり、なぜか勝手にライバル視されて――いや、まあこれは僕のうぬぼれかもしれないけれど――おり、事あるごとに目を付けられて厄介者扱いされているわけだけれど、あの時、あの瞬間の僕らは、確かにココロが通じ合っていたと思う。
……まあ、その後は、今日の今に至るまで、ひとことも口をきいてもらえないのだけど。
「そっ! そういえばね?」
僕のユーウツそうな表情を案じてか、純美子は声のトーンをいくぶんか上げて言った。
「今週ね? ほら、ずっと遅れてた、中間テストの結果が返ってくるみたいだよ、ケンタ君?」
「あ、そうなんだ。どのみち先週は、いろんなことでいっぱいいっぱいだったから助かるなぁ」
「……いろんなこと?」
「あ――い、いやいやいや! こっちのハナシ」
……そうだ。
僕にはやらなきゃいけないことがあるんだった――この『リトライ』を大いに楽しむって。
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