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第318話 球技大会・三日目(4) at 1995/11/10
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「ここ、しっかり守ろう! 下がって!」
Aトーナメント決勝戦の相手、三年四組との戦いは苛烈だった。
そのひとつの理由は、準決勝で効果を発揮した『リトリート&カウンター』戦術が有効でないことだった。敵チームはしっかりと僕らの試合を観察し、研究していたのだ。もしかすると前試合の三年七組からアドバイスがあったのかもしれない。
敵チームは、極端に守備に偏った相手陣内での自由度の高さを生かし、細かくボールをつないで、たっぷりと時間をかけて少しずつ陣形を崩しにかかってきたのだ。一見ルーズにみえるボールを奪おうと安易に前に出れば、あっという間に裏をかかれてその空いたスペースに巧妙に入り込まれてしまう。釣られそうになる味方に声をかけ、壁の強度を必死に維持する。
「おい! この調子じゃ……ジリ貧だろ……! くそっ……!」
「はぁ……はぁ……! みんな、なんとか……こらえて……!」
「こらえろったって……限度があるだろ!?」
「頼むよ……ここは我慢するしかないんだ!」
だがそのせいもあって、僕はもちろんのこと味方の精神も徐々にすり減りつつあった。相手がボールを支配している時間が長引けば長引くほど焦りはつのり、こちらの攻めるチャンスが減っていく――そう思ってしまう。
だがしかし、『リトリート&カウンター』戦術とは、元々そういう傾向にあるものなのだ。
一見すると消極的にもみえるこの戦術が有効であり、世界的にも充分通用するものであることは、アイルランド・サッカーが証明してくれるだろう。プレミア・リーグに加盟しているレスター・シティFCがそうだ。レスターは過去に、プレミア・リーグ優勝を1回、FAカップ優勝を1回、そしてリーグ優勝を3回経験しているアイルランドを代表するチームだ。
自軍のボール支配率――ポゼッション率は、欧州リーグ全95チーム中62位というなかなかの低さで、さらにパス成功率に至っては71%、プレミア・リーグ最下位という惨憺たる有様だ。しかしなおレスターは、2019―20はプレミア・リーグで5位、2020―21にはなんとFAカップを制しているのだ――まあ、これは全部、仁藤さんの受け売りなんだけど。
ともかくだ。
戦術が有効なのがわかっていれば、あとは忠実に実行あるのみだ。
「く――っ!」
「しゃあっ!」
膠着した状況にしびれを切らしていたのは向こうも同じだったようだ。むりやり強行突破しようとした相手選手の体勢が崩れたところに荒山がわっと喰らいつき、引き剥がすようにボールを奪い取ることに成功した。ホイッスルはない。
「通れっ!!」
相手が反応する前に、荒山は一気に前線へと長いボールを送り出した。相手チームは攻めに時間を使いすぎていたようだ。だからこそ、自陣に選手がほとんど残っていなかった。
「ダッチィ――んぐっ――!」
「っしゃああああああっ!!」
――ピーッ!
「よぉおおおおしっ! ナイスだ、カエ………………ル?」
「………………っ」
「――レフェリー! 担架! 担架!」
その時一体なにが起きていたのか、僕らにはまるで理解できていなかった。敵味方入り乱れ、必死で助けを求めている。その輪の中心で、ぴくり、とも動かないのは吉川だった。やがて他のクラスの体育委員二人の手で担架が運び込まれ、吉川を運んで行く。目は閉じたままだ。
僕らは、死力を尽くして残り時間をなんとか守り抜いた。
吉川の残した一点を守ったのだ。
【決勝】 Aグループ 〇2―11 VS 3―4● (1―0)
Aトーナメント決勝戦の相手、三年四組との戦いは苛烈だった。
そのひとつの理由は、準決勝で効果を発揮した『リトリート&カウンター』戦術が有効でないことだった。敵チームはしっかりと僕らの試合を観察し、研究していたのだ。もしかすると前試合の三年七組からアドバイスがあったのかもしれない。
敵チームは、極端に守備に偏った相手陣内での自由度の高さを生かし、細かくボールをつないで、たっぷりと時間をかけて少しずつ陣形を崩しにかかってきたのだ。一見ルーズにみえるボールを奪おうと安易に前に出れば、あっという間に裏をかかれてその空いたスペースに巧妙に入り込まれてしまう。釣られそうになる味方に声をかけ、壁の強度を必死に維持する。
「おい! この調子じゃ……ジリ貧だろ……! くそっ……!」
「はぁ……はぁ……! みんな、なんとか……こらえて……!」
「こらえろったって……限度があるだろ!?」
「頼むよ……ここは我慢するしかないんだ!」
だがそのせいもあって、僕はもちろんのこと味方の精神も徐々にすり減りつつあった。相手がボールを支配している時間が長引けば長引くほど焦りはつのり、こちらの攻めるチャンスが減っていく――そう思ってしまう。
だがしかし、『リトリート&カウンター』戦術とは、元々そういう傾向にあるものなのだ。
一見すると消極的にもみえるこの戦術が有効であり、世界的にも充分通用するものであることは、アイルランド・サッカーが証明してくれるだろう。プレミア・リーグに加盟しているレスター・シティFCがそうだ。レスターは過去に、プレミア・リーグ優勝を1回、FAカップ優勝を1回、そしてリーグ優勝を3回経験しているアイルランドを代表するチームだ。
自軍のボール支配率――ポゼッション率は、欧州リーグ全95チーム中62位というなかなかの低さで、さらにパス成功率に至っては71%、プレミア・リーグ最下位という惨憺たる有様だ。しかしなおレスターは、2019―20はプレミア・リーグで5位、2020―21にはなんとFAカップを制しているのだ――まあ、これは全部、仁藤さんの受け売りなんだけど。
ともかくだ。
戦術が有効なのがわかっていれば、あとは忠実に実行あるのみだ。
「く――っ!」
「しゃあっ!」
膠着した状況にしびれを切らしていたのは向こうも同じだったようだ。むりやり強行突破しようとした相手選手の体勢が崩れたところに荒山がわっと喰らいつき、引き剥がすようにボールを奪い取ることに成功した。ホイッスルはない。
「通れっ!!」
相手が反応する前に、荒山は一気に前線へと長いボールを送り出した。相手チームは攻めに時間を使いすぎていたようだ。だからこそ、自陣に選手がほとんど残っていなかった。
「ダッチィ――んぐっ――!」
「っしゃああああああっ!!」
――ピーッ!
「よぉおおおおしっ! ナイスだ、カエ………………ル?」
「………………っ」
「――レフェリー! 担架! 担架!」
その時一体なにが起きていたのか、僕らにはまるで理解できていなかった。敵味方入り乱れ、必死で助けを求めている。その輪の中心で、ぴくり、とも動かないのは吉川だった。やがて他のクラスの体育委員二人の手で担架が運び込まれ、吉川を運んで行く。目は閉じたままだ。
僕らは、死力を尽くして残り時間をなんとか守り抜いた。
吉川の残した一点を守ったのだ。
【決勝】 Aグループ 〇2―11 VS 3―4● (1―0)
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