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第322話 球技大会・三日目(8) at 1995/11/10
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小山田徹が通っていたのは、忠生第六小学校だ。
吉川薫と桃月天音は幼馴染で、高学年である五年、六年生の時の同級生でもあったそうだ。
「俺様は、そこで思い知らされたのさ。誰よりも強くなけりゃ……いつでも勝負に勝つ奴じゃなけりゃ、まわりの誰かが悲しい思いをさせられることになるんだ、って。嫌ってほど、な」
あいかわらず話の順序はめちゃくちゃだし、ここからどうつながってくるのかさっぱり見えなかったけれど、僕は小山田の話しやすいように、うん、と合槌を打つ。
「実際、ガキの頃の俺様は、今よりもっとチビで、今よりうんと意気地なしで、今よりはるかに馬鹿だった。勉強ができる、できない、じゃねえんだ。なんつーか……素直だったんだ」
小山田たちのクラスに、今の小山田のようなリーダーがいたんだそうだ。それもある意味悪い点で共通性のある、暴君と呼ばれるにふさわしい『猿山』のリーダー、ボス猿が。
「そいつはいつでもクラスの中心だった。しょっちゅう暴力ふるうし、授業中の態度も悪かったが、それでもクラスの人気者だったんだ。とにかく、一緒にいておもしれぇんだよ。人を笑わせたり、楽しませることが得意な奴だったのさ。……でもな? 真っ向から逆らう奴はいなかった」
いわゆるガキ大将なのだろうが、日頃から持ち上げられ、もてはやされているうちに、すべてが自分の思いどおりになる、と勘違いしてしまうことは往々にしてあるだろう。なにせ、まだほんの子どもでしかないのだから。
「そいつとつるみはじめた五年生の時にさ……俺様は……が、学校で一番ってウワサの、あ、ある女の子から、ラ、ラブレターってのをもらったんだよ」
「………………えっ?」
「えっ、ってのはなんだよ、ナプキン王子!? き、聞こえてただろうが!?」
「き――聞いてました聞いてました! い、息苦しいから下ろしてってば――ふう、助かった」
「ったく……」
ゆでだこのように頭頂部まで朱に染まった小山田は、なんだか妙にかわいらしかったのだ。なので、つい、悪戯ゴコロが働いてしまったのである。
それに、その一瞬、小山田の視線が桃月の方へ、ちらり、と向けられたのを見てしまったからでもあった。僕は素知らぬフリをする。
「けどな? どうやらそれがアイツには気に入らなかったんだ。たぶん、アイツはその子が好きだったんだろうな。でも、俺様はそんなことも知らずに、アイツの言葉に耳を貸しちまった」
その瞬間、小山田の細く鋭い目にチカラがこもった。
「あの子はナマイキで、いろんな男子にちょっかいかけては騙すのを楽しんでるんだ。見た目がいいのを鼻にかけ、人を利用ばっかりしてる最低の奴だ。陰で人の悪口は言うし、中学のヤンキーと付き合ってて調子に乗ってるらしい。お前もカモにされたんだよ、かわいそうに――」
「それは……本当だったのかい?」
「まるきりの嘘だ。嘘っぱちだ。なにもかも」
そう吐き捨てる小山田が軽蔑しているのは、そのボス猿か、それとも当時の自分か。
「まるで相手にされなくて悔しかったんだろうよ、その腹いせって奴さ。よくよく考えてみりゃあ、すぐにも裏が取れるでかませばかりだった。けどよ……それを教えてくれたのは、クラスで一番の人気者でボスなんだ。てめぇ、いい加減なこと抜かすな、って言えると思うか?」
「ぼ、僕だったら――」
「あー、もういい! 言うな言うな! あとからなら誰だって好き勝手言えるからな。その時の俺様の気持ちは、きっと俺様にしかわかんねぇんだ。その時、その瞬間の俺様にしかよ――」
僕を睨みつけた小山田の瞳の奥には、鋭さのほかにもうひとつ、乾いた哀しみが宿っていた。
「――まわりの奴らがアイツの言うことを鵜呑みにして嫌悪感を丸出しにして、誰が言い出したのかこうなったらみんなで仕返ししてやろうぜってハナシになって、いつのまにか、止めるヒマなんてちっともないうちに、その子をみんなで無視していじめるハナシになっててよ……」
小山田はもう一度教室を見回して、とある女子生徒の方へ目を向けたが――。
そこはもう空で、誰の姿もなかった。
「じゃあ、お前がカモにされたんだから、お前がリーダーになっていじめよう、ってハナシになってよ……そうだよな、よくも騙しやがって、復讐だってハナシになってよ……畜生……っ」
吉川薫と桃月天音は幼馴染で、高学年である五年、六年生の時の同級生でもあったそうだ。
「俺様は、そこで思い知らされたのさ。誰よりも強くなけりゃ……いつでも勝負に勝つ奴じゃなけりゃ、まわりの誰かが悲しい思いをさせられることになるんだ、って。嫌ってほど、な」
あいかわらず話の順序はめちゃくちゃだし、ここからどうつながってくるのかさっぱり見えなかったけれど、僕は小山田の話しやすいように、うん、と合槌を打つ。
「実際、ガキの頃の俺様は、今よりもっとチビで、今よりうんと意気地なしで、今よりはるかに馬鹿だった。勉強ができる、できない、じゃねえんだ。なんつーか……素直だったんだ」
小山田たちのクラスに、今の小山田のようなリーダーがいたんだそうだ。それもある意味悪い点で共通性のある、暴君と呼ばれるにふさわしい『猿山』のリーダー、ボス猿が。
「そいつはいつでもクラスの中心だった。しょっちゅう暴力ふるうし、授業中の態度も悪かったが、それでもクラスの人気者だったんだ。とにかく、一緒にいておもしれぇんだよ。人を笑わせたり、楽しませることが得意な奴だったのさ。……でもな? 真っ向から逆らう奴はいなかった」
いわゆるガキ大将なのだろうが、日頃から持ち上げられ、もてはやされているうちに、すべてが自分の思いどおりになる、と勘違いしてしまうことは往々にしてあるだろう。なにせ、まだほんの子どもでしかないのだから。
「そいつとつるみはじめた五年生の時にさ……俺様は……が、学校で一番ってウワサの、あ、ある女の子から、ラ、ラブレターってのをもらったんだよ」
「………………えっ?」
「えっ、ってのはなんだよ、ナプキン王子!? き、聞こえてただろうが!?」
「き――聞いてました聞いてました! い、息苦しいから下ろしてってば――ふう、助かった」
「ったく……」
ゆでだこのように頭頂部まで朱に染まった小山田は、なんだか妙にかわいらしかったのだ。なので、つい、悪戯ゴコロが働いてしまったのである。
それに、その一瞬、小山田の視線が桃月の方へ、ちらり、と向けられたのを見てしまったからでもあった。僕は素知らぬフリをする。
「けどな? どうやらそれがアイツには気に入らなかったんだ。たぶん、アイツはその子が好きだったんだろうな。でも、俺様はそんなことも知らずに、アイツの言葉に耳を貸しちまった」
その瞬間、小山田の細く鋭い目にチカラがこもった。
「あの子はナマイキで、いろんな男子にちょっかいかけては騙すのを楽しんでるんだ。見た目がいいのを鼻にかけ、人を利用ばっかりしてる最低の奴だ。陰で人の悪口は言うし、中学のヤンキーと付き合ってて調子に乗ってるらしい。お前もカモにされたんだよ、かわいそうに――」
「それは……本当だったのかい?」
「まるきりの嘘だ。嘘っぱちだ。なにもかも」
そう吐き捨てる小山田が軽蔑しているのは、そのボス猿か、それとも当時の自分か。
「まるで相手にされなくて悔しかったんだろうよ、その腹いせって奴さ。よくよく考えてみりゃあ、すぐにも裏が取れるでかませばかりだった。けどよ……それを教えてくれたのは、クラスで一番の人気者でボスなんだ。てめぇ、いい加減なこと抜かすな、って言えると思うか?」
「ぼ、僕だったら――」
「あー、もういい! 言うな言うな! あとからなら誰だって好き勝手言えるからな。その時の俺様の気持ちは、きっと俺様にしかわかんねぇんだ。その時、その瞬間の俺様にしかよ――」
僕を睨みつけた小山田の瞳の奥には、鋭さのほかにもうひとつ、乾いた哀しみが宿っていた。
「――まわりの奴らがアイツの言うことを鵜呑みにして嫌悪感を丸出しにして、誰が言い出したのかこうなったらみんなで仕返ししてやろうぜってハナシになって、いつのまにか、止めるヒマなんてちっともないうちに、その子をみんなで無視していじめるハナシになっててよ……」
小山田はもう一度教室を見回して、とある女子生徒の方へ目を向けたが――。
そこはもう空で、誰の姿もなかった。
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