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第384話 だがしかし。 at 1995/12/22
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「――ええ、はい。冬休みは短いです。風邪もはやっていますから、体調管理をしっかりと」
いつも以上に真っ赤な頬を大判のマスクの脇から覗かせながら言う荻島センセイの姿はなにより説得力があった。熱はないんですけどねぇ、そうは言うものの、しっかり療養して欲しい。
「休み明けの三学期は、本当にあっという間に終わってしまいます。学校行事は特にありませんけれど……君たちが楽しみにしているイベントが多いようですねぇ。くれぐれも羽目を外し過ぎない程度にお願いしますよ。……あ、そうそう。センセイ、チョコは嫌いではありません」
気が早いよー、だとか、あげませんー、だとか、黄色い声が飛び交う教室をにこにこと眺めつつ、まあまあ、下向きの手のひらで騒ぐ生徒をなだめるような仕草をしてこう締め括る。
「じゃあね、これで二学期を終わりにしますよ。はい、係の人、最後の挨拶お願いしますね」
合図に合わせ、さようなら、と頭を下げて、なんとなく顔を上げると。
もうそこには。
「ほらほら。行くわよ、部長! 明日の買い出しさ、なるべく安いところがいいんだけど……」
咲都子が腕組みしつつ、仁王立ちで待ち構えていた。僕は、この二学期が終わるタイミングで純美子と仲直りできなかったら人生終わりだ、くらいに考えていた矢先だったので、間が悪いやら、出鼻をくじかれたやらで、隣の純美子に何度も視線を向けつつも仕方なくこたえる。
「え? ……あ、ああ。うーん……ええと、『大丸ピーコック』か『三徳』じゃダメなのか?」
「ダメダメ! そんなに安くないもん」
「だったら……そうだなぁ……『スーパー三和』か『忠実屋』とかまで行く?」
「もー、変わんないじゃん……。ダメねー、男子って、ホント」
はぁ、と呆れた様子で溜息をつき、咲都子は視線を横にスライドさせた。
「やっぱ、スミがいないと困るわー……。今日の買い出し、付き合ってくれるでしょ? ね?」
「ふぇ!? ………………べ、別に、いいケド」
「はい、決まり! じゃあ、ソッコー帰って、着替えてから木曽商店街の花壇のトコ集合ね!」
あ……と、あっけにとられているうちにハナシがまとまってしまった。未練がましく声をかけようとしたところで、気まずそうな純美子と目が合う。とたんにセリフが引っ込んでしまう。
と――べちん!
「ほーら! ボケっとしてない! とっとと帰って、それなりに見られる恰好してきなさい!」
「うぐっ!? ………………お、おう」
……さんきゅーな、咲都子。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で……結局『梅屋』に来て駄菓子かよ……」
『梅屋』は、駅行きバス経路の途中、『滝ノ沢』のあたりにある小さな駄菓子屋だ。しわくちゃのおばあちゃんが店番していて、買う時には決まって子どもたち自身に自分で合計金額を計算させる。いわば算数のセンセイでもあったのだ。そして社会のマナーを学ぶ場所でもあった。
僕もご多分に漏れず、ここにはさんざんお世話になった口だ。入りしなに一礼すると、おばあちゃんのしわに埋もれた目が、お、とわずかに開いた、そんな気がして口元が思わずゆるむ。
「いやぁー。でもでもさ? ツッキーって、今まで駄菓子食べたことないっていうじゃんよ?」
「それ、マジィ!? っていうか、僕、駄菓子がないと落ち着かないんだけど?」
「……あんたはそれやめたら、少しはほっそりするんじゃない?」
小さな買い物客たちがぷっくりした腕におもちゃの買い物かごをぶら下げて、真剣な顔つきで品定めしているのを見ると、自然と口角が上がってしまう。ふと、隣を見ると――同じだ。
「え、えっと……なんだかほのぼのするね、スミちゃん?」
「あ……うん。そうだね、ケンタ君。あの……ごめんね?」
「ぼっ! 僕の方こそ……なんか……ごめんね。やっぱり、スミちゃんがいないとダメなんだ」
それから、どちらともなく、指先を差し出して握り合った。
にやにやしたければすればいいさ。
いつも以上に真っ赤な頬を大判のマスクの脇から覗かせながら言う荻島センセイの姿はなにより説得力があった。熱はないんですけどねぇ、そうは言うものの、しっかり療養して欲しい。
「休み明けの三学期は、本当にあっという間に終わってしまいます。学校行事は特にありませんけれど……君たちが楽しみにしているイベントが多いようですねぇ。くれぐれも羽目を外し過ぎない程度にお願いしますよ。……あ、そうそう。センセイ、チョコは嫌いではありません」
気が早いよー、だとか、あげませんー、だとか、黄色い声が飛び交う教室をにこにこと眺めつつ、まあまあ、下向きの手のひらで騒ぐ生徒をなだめるような仕草をしてこう締め括る。
「じゃあね、これで二学期を終わりにしますよ。はい、係の人、最後の挨拶お願いしますね」
合図に合わせ、さようなら、と頭を下げて、なんとなく顔を上げると。
もうそこには。
「ほらほら。行くわよ、部長! 明日の買い出しさ、なるべく安いところがいいんだけど……」
咲都子が腕組みしつつ、仁王立ちで待ち構えていた。僕は、この二学期が終わるタイミングで純美子と仲直りできなかったら人生終わりだ、くらいに考えていた矢先だったので、間が悪いやら、出鼻をくじかれたやらで、隣の純美子に何度も視線を向けつつも仕方なくこたえる。
「え? ……あ、ああ。うーん……ええと、『大丸ピーコック』か『三徳』じゃダメなのか?」
「ダメダメ! そんなに安くないもん」
「だったら……そうだなぁ……『スーパー三和』か『忠実屋』とかまで行く?」
「もー、変わんないじゃん……。ダメねー、男子って、ホント」
はぁ、と呆れた様子で溜息をつき、咲都子は視線を横にスライドさせた。
「やっぱ、スミがいないと困るわー……。今日の買い出し、付き合ってくれるでしょ? ね?」
「ふぇ!? ………………べ、別に、いいケド」
「はい、決まり! じゃあ、ソッコー帰って、着替えてから木曽商店街の花壇のトコ集合ね!」
あ……と、あっけにとられているうちにハナシがまとまってしまった。未練がましく声をかけようとしたところで、気まずそうな純美子と目が合う。とたんにセリフが引っ込んでしまう。
と――べちん!
「ほーら! ボケっとしてない! とっとと帰って、それなりに見られる恰好してきなさい!」
「うぐっ!? ………………お、おう」
……さんきゅーな、咲都子。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で……結局『梅屋』に来て駄菓子かよ……」
『梅屋』は、駅行きバス経路の途中、『滝ノ沢』のあたりにある小さな駄菓子屋だ。しわくちゃのおばあちゃんが店番していて、買う時には決まって子どもたち自身に自分で合計金額を計算させる。いわば算数のセンセイでもあったのだ。そして社会のマナーを学ぶ場所でもあった。
僕もご多分に漏れず、ここにはさんざんお世話になった口だ。入りしなに一礼すると、おばあちゃんのしわに埋もれた目が、お、とわずかに開いた、そんな気がして口元が思わずゆるむ。
「いやぁー。でもでもさ? ツッキーって、今まで駄菓子食べたことないっていうじゃんよ?」
「それ、マジィ!? っていうか、僕、駄菓子がないと落ち着かないんだけど?」
「……あんたはそれやめたら、少しはほっそりするんじゃない?」
小さな買い物客たちがぷっくりした腕におもちゃの買い物かごをぶら下げて、真剣な顔つきで品定めしているのを見ると、自然と口角が上がってしまう。ふと、隣を見ると――同じだ。
「え、えっと……なんだかほのぼのするね、スミちゃん?」
「あ……うん。そうだね、ケンタ君。あの……ごめんね?」
「ぼっ! 僕の方こそ……なんか……ごめんね。やっぱり、スミちゃんがいないとダメなんだ」
それから、どちらともなく、指先を差し出して握り合った。
にやにやしたければすればいいさ。
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