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第429話 『代行者』(1) at 1996/1/13
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「それ……ホントなの、ケンタ?」
「ああ。まいったよ……おかげで全身筋肉痛でね……」
今日は、新年はじめての『リトライ者』会議だ。
だがしかし、約束の時間になってもコトセからの連絡がない。もしかしたらどうしても外せない用事で遅れているのかもしれない、そう思って、ロコの部屋で待っているところだ。
その空いた時間で、ロコに昨日あった出来事を話してやると、さすがに驚いたようだった。
「で、でも……アイツ、たしかどこかの施設に送られた、って聞いたけど……更生させる的な」
「え……そうなのか?」
となると、少年院――ではないのかもしれない。
児童自立支援施設――いいや、この当時は、まだ感化院と呼ばれていたはずだ。
「で、でも、ダッチに言われたことがきっかけで、すっかりおとなしくなった、って聞いたぞ」
「そう。でもある日、突然授業中に暴れ出して、そのなんとか院に入ることになったみたいよ」
「と、突然!? 何があったんだよ?」
「あくまでウワサなんだけど――」
そう前置きをしてロコは囁くようにこう続けた。
「暴れている最中、ずっとこう言ってたらしいの。『俺は選ばれたんだ。代行者として』って」
「『代行者』……一体誰のなんだ……? 何が目的なんだ……?」
ふと漏れ出た問いが、僕らの間にふわふわと漂う。
しばらくするとロコは苦笑を浮かべ、言い訳のようにこう付け加えた。
「ほ、ほら、あくまでウワサ、って言ったでしょ? ハナシを盛り上げようとして、尾ひれをつけるなんてよくあるハナシじゃない。そこまで真剣に考えなくってもいいんじゃないの?」
「かもしれない……。でっ! でも、たしかにいたんだよ! あのタツヒコ――赤川龍彦が!」
「その施設から出てきたのかも……ね」
気まずい沈黙が僕らの間に流れた。
僕はしばらく懊悩としてから、言うべきかずっと迷っていた仮説を口に出す。
「もしかすると……もしかするとなんだけどさ――」
「……っ」
「アイツも、この前のアイツも、僕らが未来を変えるのを恐れている『誰か』によって送り込まれてきたのかもしれない。そう……文字どおり『代行者』として。そう考えたら筋が立つ」
「そんなのって……!」
「馬鹿げた考えだってのは百も承知だよ……でもさ?」
何度も、何度も、嫌々をするように首を振り続けるロコに僕は言った。
「……僕らは用心しないといけないんだ。歴史に逆らっている存在だ、僕たちは。過去をねじ曲げようとしている異物なんだ。それを認めない逆の考えをもった存在がいてもおかしくない」
「その存在って……誰なの?」
「………………わからないよ」
本当に実在しているのかどうかすらあいまいなのだ。『誰』という表現すら、合っているのかどうかもわからない。ヒトであれば、まだ対応・対処はできるだろう。けれど、もし――。
「わからない。……けどね、ロコ? 僕たちは、僕たちが望むべく未来へと到達するレールを敷いて、そうしてこの一年間を無事に終えて元の時間に戻らないといけない。いけないんだよ」
「………………うん。……で、でも――」
「アイツもアイツも、僕がなんとかしてみせる。いや、しないとダメなんだ。でないと――!」
『――おまえのすべてをめちゃくちゃにしてやる――おまえのたいせつなものすべてを――!』
身の毛もよだつ、妄執にとりつかれた怨念のごとき叫びが、今も僕の耳の奥にこびりついている。たぶん、アイツはそれを現実のものとするまではあきらめないのだろう。決して。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ――僕の胸ポケットの中でスマホが震えた。
きっとコトセだろう。
「ああ。まいったよ……おかげで全身筋肉痛でね……」
今日は、新年はじめての『リトライ者』会議だ。
だがしかし、約束の時間になってもコトセからの連絡がない。もしかしたらどうしても外せない用事で遅れているのかもしれない、そう思って、ロコの部屋で待っているところだ。
その空いた時間で、ロコに昨日あった出来事を話してやると、さすがに驚いたようだった。
「で、でも……アイツ、たしかどこかの施設に送られた、って聞いたけど……更生させる的な」
「え……そうなのか?」
となると、少年院――ではないのかもしれない。
児童自立支援施設――いいや、この当時は、まだ感化院と呼ばれていたはずだ。
「で、でも、ダッチに言われたことがきっかけで、すっかりおとなしくなった、って聞いたぞ」
「そう。でもある日、突然授業中に暴れ出して、そのなんとか院に入ることになったみたいよ」
「と、突然!? 何があったんだよ?」
「あくまでウワサなんだけど――」
そう前置きをしてロコは囁くようにこう続けた。
「暴れている最中、ずっとこう言ってたらしいの。『俺は選ばれたんだ。代行者として』って」
「『代行者』……一体誰のなんだ……? 何が目的なんだ……?」
ふと漏れ出た問いが、僕らの間にふわふわと漂う。
しばらくするとロコは苦笑を浮かべ、言い訳のようにこう付け加えた。
「ほ、ほら、あくまでウワサ、って言ったでしょ? ハナシを盛り上げようとして、尾ひれをつけるなんてよくあるハナシじゃない。そこまで真剣に考えなくってもいいんじゃないの?」
「かもしれない……。でっ! でも、たしかにいたんだよ! あのタツヒコ――赤川龍彦が!」
「その施設から出てきたのかも……ね」
気まずい沈黙が僕らの間に流れた。
僕はしばらく懊悩としてから、言うべきかずっと迷っていた仮説を口に出す。
「もしかすると……もしかするとなんだけどさ――」
「……っ」
「アイツも、この前のアイツも、僕らが未来を変えるのを恐れている『誰か』によって送り込まれてきたのかもしれない。そう……文字どおり『代行者』として。そう考えたら筋が立つ」
「そんなのって……!」
「馬鹿げた考えだってのは百も承知だよ……でもさ?」
何度も、何度も、嫌々をするように首を振り続けるロコに僕は言った。
「……僕らは用心しないといけないんだ。歴史に逆らっている存在だ、僕たちは。過去をねじ曲げようとしている異物なんだ。それを認めない逆の考えをもった存在がいてもおかしくない」
「その存在って……誰なの?」
「………………わからないよ」
本当に実在しているのかどうかすらあいまいなのだ。『誰』という表現すら、合っているのかどうかもわからない。ヒトであれば、まだ対応・対処はできるだろう。けれど、もし――。
「わからない。……けどね、ロコ? 僕たちは、僕たちが望むべく未来へと到達するレールを敷いて、そうしてこの一年間を無事に終えて元の時間に戻らないといけない。いけないんだよ」
「………………うん。……で、でも――」
「アイツもアイツも、僕がなんとかしてみせる。いや、しないとダメなんだ。でないと――!」
『――おまえのすべてをめちゃくちゃにしてやる――おまえのたいせつなものすべてを――!』
身の毛もよだつ、妄執にとりつかれた怨念のごとき叫びが、今も僕の耳の奥にこびりついている。たぶん、アイツはそれを現実のものとするまではあきらめないのだろう。決して。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ――僕の胸ポケットの中でスマホが震えた。
きっとコトセだろう。
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