ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

文字の大きさ
439 / 539

第437話 行くも帰るも at 1996/1/29

しおりを挟む
「……誰から聞いたんです?」


 新しい週のはじまり、月曜日のLHRを終えて職員室に戻ろうとする荻島センセイを引き留めて僕が尋ねると、温和で人なつっこい丸顔が険しくなった。僕は考えてきた嘘を口にする。


「日曜に家族で買い物に出かけたんですけど、その時、たまたま駅のあたりでみかけたんです」

「……ふうむ」


 たちまち用心するような鋭い視線にさらされるが、僕は愛想笑いを浮かべてそれをかわした。


「もし――もし、ですよ? 君が見た姿が、間違いなく赤川君であったとして。どうします?」

「ど、どうします、って言われましても……」

「君――古ノ森君と赤川君の間に多少の因縁めいたものがあることは、センセイ知ってますよ」


 そこで荻島センセイは、左手首を返し、ちらり、とダイバーズウォッチを見たが、このあとの予定までには余裕があったのか、特段急ぐ様子も見せずに言葉をつなげる。


「――古ノ森君。君は仲間思いで、困っている人間がいると、つい、手を差し伸べてしまう、そういう性分を持ったココロ優しい生徒です。通知表にもそう書きましたよ。……ですがね?」

「……」

「どこまで行ったら危険なのか、どこまで踏み込んだら戻れなくなるのか、そういう限界点、リスクをしっかりと見極めるのも大切なことなんですよ。そう――分水嶺ぶんすいれい――わかりますか?」

「わ、わかっている……つもりです……けど……」





 僕がかろうじてそう返すと、しばらく荻島センセイは黙り込み、深く息を吐いてから言った。





「ならば、ここがその、、ですよ」





 荻島センセイは知っている。
 だからこそ、これ以上は踏み込むな、そう警告しているのだ。



 しかし――。



「タツヒコは、僕に執着しています。僕の――いや、僕のまわりのモノすべてを壊してやる、そう言っていたんです。何もわからなければ、守りようがありません。……違いますか?」

――ね」


 どのみち通用しないと思っていた嘘だ。ならば、と強気のストレートで僕は一気に切り込む。荻島センセイは冷ややかな目で僕の嘘を繰り返すと、やれやれ、と首を何度も振ってみせた。


「それでも、ですよ、古ノ森君。たかだか一介の中学生男子にすぎない君に、一体何ができるというんです? 赤川君のことなら、もうオトナに任せておきなさい。そして君は、普通の学校生活を送るんです。ごく普通の、どこにでもいる中学二年生としての青春を謳歌するんです」

「……っ」

「中学二年生でいられるのも、あと二ヶ月ですよ? 三年生になれば、高校受験を控えてひたすら勉強に勉強を重ねる試練の日々がやってきます。それまでに悔いのないよう過ごすんです」

「けど、センセイ――!」


 何かが起きてしまってからでは遅すぎる――そんなひりつくような焦燥感に背中を焦がされ、僕はあえぐように叫んだのだが、荻島センセイは頑としてうなずこうとはしなかった。


「ふぅ――」


 代わりに、いつもきっちりしめているネクタイに指をかけ、わずかにゆるめると息を吐く。


「いいかい、古ノ森君? 私は君から特別なモノを感じとって、この一年間、君の行動に一切手も口も出さず静かに見守ってきたんです。そして君は、私の期待にこたえてくれた。水無月さんのこと、小山田君のこと、それ以外にもたくさん――そりゃあ、見事すぎるくらいにね?」


 その口調は、センセイというより、もっと近くてもっと親しげで、そして厳しいものだった。


「だからです。今度は私の――私たちの番なんです。君が、君のまわりの仲間たちを守りたいのと同じように、私は、私たちは君たちを守りたい。それがね、教師っていう生き物なんです」


 僕は、の拳を胸のど真ん中で、どすん、と受け止め、うなずいたのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...