ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

文字の大きさ
461 / 539

第459話 エンドレス・バレンタイン(1) at 1996/2/14

しおりを挟む
 二月十四日である。
 世にいう――忌まわしき――『バレンタイン・デー』というヤツである。


 そのいわれは、今から一八〇〇年近く前のローマ帝国で起こった故事にある。戦士の士気低下を憂慮した皇帝・クラウディヌス二世が兵士たちの婚姻を禁ずる令を発布したところ、禁令に背き秘密裡に若者たちの結婚の儀式を続けていたウァレンティヌスが捕えられることとなった。彼は己の信仰を捨てず、皇帝に愛することの尊さを毅然と説くも処刑されてしまう。その聖人・ヴァレンティヌスが殉教した日こそが二月十四日だった、というわけである。


 ただ、この逸話そのものが少々うさん臭い。当時のローマは異教排除のムードが高まっており、元々古い信仰にもとづいた若い男女がペアになって執り行う豊穣を祈願する祭があった――大半のペアはのちに結婚することが多かった――ものを、ただ禁止することで民衆の反感を買うことがないよう、自らが広める信仰に即したカタチにうまく当てはめる必要があったのだ。

 だがしかし。

 女性から男性にチョコレートを贈って愛する気持ちを伝える、という習慣があるのは日本だけだ――いや、正確に言えば韓国も同様なのだけれど――世界的にはそんな慣習はないのだ。



 つまりだ。



 つまり今日この日に女子からチョコレートがもらえなくても、なんら恥じることはないのである。




「――はい、工藤君にも。バレンタイン・デーだよ♡」

「………………なんですって?」


 そう――そこで今日二月十四日に女子からチョコレートをひとつももらえないことを正当化しようとしていた工藤ぜんのやけに小理屈めいた思考は停止したのだった。顔を上げると笑顔が。


「あの……いつもうるさくしててごめんね……? メーワク……じゃない?」

「い、いや、大丈夫です。割と騒がしいのは平気な方なので」

「いつも席立っちゃうし……怒ってるのかなって」

「そ、そんなことはないんですが……」


 いたたまれない――あのイチャコラの波動に耐えきれるヤツなんていないだろとは言えない。こたえに窮して机の上に視線を落とすと、河東さんの手が視界を横切り、小さな箱を置いた。


「それ、工藤君へ。ごめんね、あたしの手作りだから、ちょっと不格好かも。食べてくれる?」

「………………いただきます」


 むしろ、手作りチョコなんてものを今までもらったことがない。しかも、こんなにていねいでキレイにラッピングしてあるものなんて。ルビー色に輝くそれは、まるで宝石箱のようだ。


「いつもありがとう――これからもよろしくね」


 こちらこそ――おいおいおい。もしかするとこれ、古ノ森と付き合ってるのは嘘で、実は俺のことがスキだったりして――と、時間にしてコンマ5秒ほど考えた工藤だったが――溜息。


(んな、アホなことがあるかっての。はぁ……河東さんからのチョコはうれしいけど……)


 少なくとも今年は、母親と妹に自慢ができそうだとひとり苦笑する工藤であった。





 しかしあともうひとつ、思いがけない人からチョコレートをもらうことを彼はまだ知らない。





 そして、そんな幸せのおすそ分けをしていた純美子がようやく席に戻ってくると、椅子に座ったまま僕の方へと向き直って、はい、と小さな箱を差し出してきた。


「えっ……? い、いいの?」

「もちろんだよ! これは、ケンタ君に!」


 と、次の瞬間、純美子は真っ赤な顔をしたまま僕の耳元に唇を寄せて急いで囁いた。


「が――学校であげないと、なんか逆に怪しまれるんじゃないかって……こ、この前のこと」

「………………たしかに」


 そして元の姿勢に戻って平静を装っていた純美子だったが――慌てたように再び。


「それ……この前のチョコとは別のヤツなの。だ、だから…………かも」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...