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第484話 僕たちは天使じゃない(2) at 1996/2/23
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「痛たたた……。なにも昼食後に腹パンすることないだろ! こんのっ野蛮人の独裁者めっ!」
「う、うっせぇ! ナマイキにも俺様をからかいやがるからだ! それにだ――」
はっきりきっぱり小山田の悩みごとを言い当てた僕への賞品は、なんとあの誰もが欲しがるボディーブローだった。いや、欲しくねえよ。手加減すぎるほど手加減してるの伝わったけど。
「――てめぇにもお伺い立てようと思ったんだがよ? なぁんだ、てめぇも俺様と同類じゃねえか! えっらそうにしやがって! やっぱ、こういうのはムロがエキスパンダーなんだぜ!」
「偉そうにはしてないって。つーか、それを言うならエキスパートな。上半身鍛えてどうする」
「いっちいち揚げ足取りやがって……」
「細かく添削する身にもなって欲しい」
「ま――まあまあ! そのへんでストップだ! もう腹筋痛いって……」
もはや、ひぃひぃ、とうめき声をあげながら室生が割って入った。
というか、そうしてくれて助かった。
まったくハナシが進まない。
「じゃあさ、ダッチ? 最初に大事なことを教えて欲しいんだけど――?」
「……あぁん?」
「バレンタインのチョコレート……誰にもらったんだい? やっぱり、モモちゃん、かな?」
「――っ!」
とたん、小山田の表情は曇り、バツが悪そうな、今すぐ逃げ出しそうな、そんな顔をした。
「……言わねぇとダメか?」
「ダメ、ではないよ」
室生はにこにこと笑いながら顔の前で手のひらを振ってみせた。
それからこう続ける。
「でもさ? 相手が『誰か』によっては、贈るお返しだって変わってくると思うんだ。ね?」
「そ――そっか……」
しばし皮膚が真っ赤になるくらい鼻の頭を掻いていた小山田だったが、ごくり、と唾を呑む。それから、こう言った。
「たしかにモモからもらった。だがよ……違ぇんだ。相談してぇのはアイツじゃなくって――」
その時、突如として僕の脳裏に、ひとりの女の子の顔が浮かんできた。
「もしかして………………横山、さん?」
「――っ!? て、てめぇ――っ!?」
「タ、タンマ、タンマッ!」
胸倉を掴み上げられた僕も、その僕の顔に拳銃のように拳を突き付けている小山田も、総合格闘技のタフで命がけなレフェリーのようにすばやく割って入った室生も、誰もなんでこうなったのかきっと1ミリも理解できていないに違いない。それほど、瞬間的で衝動的だったのだ。
「お、おいおい、ダッチ! そういうことをしてると――横山ちゃんはどう思うかな? ん?」
「う……。す、すまねぇ、キンプリ。なんか、こう……がーっとなっちまって……わ、悪ぃな」
「略し方が……それはいいか。うん、僕もそういうのあったからさ、わかる。気にしてないよ」
「で、でもよぉ……。なんでお前にはわかっちまったんだ? 見た、のか?」
『見た』のくだりで『ならばコロス』的な光が小山田の瞳の奥からちらりと覗いたが、もちろん見てはいないし、まだ死ぬワケにもいかない。僕はおそるおそる自分なりの推論を口にする。
「単なる勘だって。球技大会の時に、横山さんがダッチを見る表情とかから、なんとなく、もしかすると……なんて思ってたけどね。ほら、助けてくれたヒーローってカッコいいじゃん?」
「だ、だから、そういうんじゃねぇって……」
このハナシになると決まって、小山田は苦いモノを口にしてしまったかのようなフクザツな表情を浮かべる。散々好き勝手してきた自分が『ヒーロー』などと呼ばれるのはとてもとても落ち着かない気分なのだろう。ずいぶん素行はマトモになったけれど、これだけは変わらなかった。
小山田は観念したかのようにその場に、どっか、と座り込むと、溜息とともに話し出す。
「何度も、そういうんじゃねぇ、って言うんだけどよ……。あいつ……美織には通じねぇんだ」
「う、うっせぇ! ナマイキにも俺様をからかいやがるからだ! それにだ――」
はっきりきっぱり小山田の悩みごとを言い当てた僕への賞品は、なんとあの誰もが欲しがるボディーブローだった。いや、欲しくねえよ。手加減すぎるほど手加減してるの伝わったけど。
「――てめぇにもお伺い立てようと思ったんだがよ? なぁんだ、てめぇも俺様と同類じゃねえか! えっらそうにしやがって! やっぱ、こういうのはムロがエキスパンダーなんだぜ!」
「偉そうにはしてないって。つーか、それを言うならエキスパートな。上半身鍛えてどうする」
「いっちいち揚げ足取りやがって……」
「細かく添削する身にもなって欲しい」
「ま――まあまあ! そのへんでストップだ! もう腹筋痛いって……」
もはや、ひぃひぃ、とうめき声をあげながら室生が割って入った。
というか、そうしてくれて助かった。
まったくハナシが進まない。
「じゃあさ、ダッチ? 最初に大事なことを教えて欲しいんだけど――?」
「……あぁん?」
「バレンタインのチョコレート……誰にもらったんだい? やっぱり、モモちゃん、かな?」
「――っ!」
とたん、小山田の表情は曇り、バツが悪そうな、今すぐ逃げ出しそうな、そんな顔をした。
「……言わねぇとダメか?」
「ダメ、ではないよ」
室生はにこにこと笑いながら顔の前で手のひらを振ってみせた。
それからこう続ける。
「でもさ? 相手が『誰か』によっては、贈るお返しだって変わってくると思うんだ。ね?」
「そ――そっか……」
しばし皮膚が真っ赤になるくらい鼻の頭を掻いていた小山田だったが、ごくり、と唾を呑む。それから、こう言った。
「たしかにモモからもらった。だがよ……違ぇんだ。相談してぇのはアイツじゃなくって――」
その時、突如として僕の脳裏に、ひとりの女の子の顔が浮かんできた。
「もしかして………………横山、さん?」
「――っ!? て、てめぇ――っ!?」
「タ、タンマ、タンマッ!」
胸倉を掴み上げられた僕も、その僕の顔に拳銃のように拳を突き付けている小山田も、総合格闘技のタフで命がけなレフェリーのようにすばやく割って入った室生も、誰もなんでこうなったのかきっと1ミリも理解できていないに違いない。それほど、瞬間的で衝動的だったのだ。
「お、おいおい、ダッチ! そういうことをしてると――横山ちゃんはどう思うかな? ん?」
「う……。す、すまねぇ、キンプリ。なんか、こう……がーっとなっちまって……わ、悪ぃな」
「略し方が……それはいいか。うん、僕もそういうのあったからさ、わかる。気にしてないよ」
「で、でもよぉ……。なんでお前にはわかっちまったんだ? 見た、のか?」
『見た』のくだりで『ならばコロス』的な光が小山田の瞳の奥からちらりと覗いたが、もちろん見てはいないし、まだ死ぬワケにもいかない。僕はおそるおそる自分なりの推論を口にする。
「単なる勘だって。球技大会の時に、横山さんがダッチを見る表情とかから、なんとなく、もしかすると……なんて思ってたけどね。ほら、助けてくれたヒーローってカッコいいじゃん?」
「だ、だから、そういうんじゃねぇって……」
このハナシになると決まって、小山田は苦いモノを口にしてしまったかのようなフクザツな表情を浮かべる。散々好き勝手してきた自分が『ヒーロー』などと呼ばれるのはとてもとても落ち着かない気分なのだろう。ずいぶん素行はマトモになったけれど、これだけは変わらなかった。
小山田は観念したかのようにその場に、どっか、と座り込むと、溜息とともに話し出す。
「何度も、そういうんじゃねぇ、って言うんだけどよ……。あいつ……美織には通じねぇんだ」
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