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第485話 僕たちは天使じゃない(3) at 1996/2/23
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「みっ! 美織ぃいいい!?」
「ンだごらぁ!」
んぎゅっ!?
「ま、待って、待って! よ、横山さんって美織って言うんだなーって。知らなかったから!」
「ふン……知っとけ、阿呆。クラスメイトだろうが?」
もう何度目かわからないよれよれの胸元を整えつつ、やっぱり小山田はすごいヤツだなぁと場違いな感心をしていた。正直、『横山さんイコールこの子』というのだって、僕は球技大会の時に知ったくらいなのだ。別に横山さんに罪はない。むしろ、無関心な僕が一方的に悪い。
「で……。なんて言ってたんだい? バレンタインの時にさ?」
「………………言われてねぇ」
「……うん?」
「帰ろうとして、下駄箱見たら入ってたんだよ! そんくらい気ぃ回せよ、唐変木どもっ!」
さすがの無茶理論に、思わず顔を見合わせる僕と室生である。
「じゃ、じゃあさ? なにか手紙とか、入ってたかい?」
「あー………………あった」
「なんて?」
「おい………………! ど、どうしても言わねぇとダメなのかよ……!?」
「うん。ダメ」
にっこぉー!
この笑顔である。
つくづく室生と仲直りしておいてよかった、と突然の身震いとともに思う僕であった。小山田は、むすり、と顔をしかめて腕組みすると、やおら目を閉じて、まるでそれが古代の呪文かなにかのように手紙に書かれていたことをかいつまんで話しはじめた。
「ええとだな……? まず、『ありがとう』って書いてあった。そんで、『前みたいに乱暴なことしなくなったね』って書いてあった。それから……うう……『大好きだよ』とかなんとか」
「やったじゃん! よかったね、ダッチ!」
「おい……! 人がこんなに悩んでんのに、やった! も、よかった! もねえだろうがっ!」
「理不尽」
「うがぁああああああああああー!! あああああー!! もぉおおおおおおおおおおー!!」
もう掻きむしるというよりは、ごしごし、とたわしでこすっているような音が、悩める小山田少年の頭部から響き渡った。ある意味滑稽ではあったが、少し気の毒というか哀れだった。
小山田徹には、桃月天音という想い人がいる。
それも、念願かなって両想いになったとたん、悪意ある第三者の策略にはまって愛憎裏返り、手ひどく傷つけてしまった想い人が。そのことを小山田は深く悔やんでいるし、今でもなお、必死で、生涯を賭けて償おうとしている。そのことはもはやクラスの誰もが知るところだ。
――いや。
あの時、あの瞬間、室生はその場にいなかったではないか。そうだった。
そしてこれは小山田と、好奇心に負けて自ら課した禁忌を破ってしまった僕しか知らないことだったが、桃月には、小山田とは違う、別の想い人がいる。それは――ほかならぬ室生だ。
(ようするに、これが修羅場ってヤツか……。いやいや、笑いごとじゃないんだけど)
のちの歴史を見る限り、小山田が今でも――この先も――桃月を『特別視』するのはかわらないのだろうけれど、それは言わば『償い』であって、『愛情』になることは二度とないのだ。
当の桃月が、今、どう思っているかはわからない。
あの日、球技大会三日目に小山田が打ち明けた『告白』を、最後まで聞くことなく桃月はひとり教室から出て行った。あれが『拒絶』なのか『逃避』なのかは桃月本人にしかわからない。まあ、少なくとも聞いていて楽しいハナシではなかったのは、悲しいかなまぎれもない事実だ。
やがて、はぁはぁ……、と息を切らした小山田は、ぽつり、と寂しそうにつぶいた。
「なあ? 俺様は――いいや、俺は……誰かから『スキ』って言われる資格あんのかな……?」
「ンだごらぁ!」
んぎゅっ!?
「ま、待って、待って! よ、横山さんって美織って言うんだなーって。知らなかったから!」
「ふン……知っとけ、阿呆。クラスメイトだろうが?」
もう何度目かわからないよれよれの胸元を整えつつ、やっぱり小山田はすごいヤツだなぁと場違いな感心をしていた。正直、『横山さんイコールこの子』というのだって、僕は球技大会の時に知ったくらいなのだ。別に横山さんに罪はない。むしろ、無関心な僕が一方的に悪い。
「で……。なんて言ってたんだい? バレンタインの時にさ?」
「………………言われてねぇ」
「……うん?」
「帰ろうとして、下駄箱見たら入ってたんだよ! そんくらい気ぃ回せよ、唐変木どもっ!」
さすがの無茶理論に、思わず顔を見合わせる僕と室生である。
「じゃ、じゃあさ? なにか手紙とか、入ってたかい?」
「あー………………あった」
「なんて?」
「おい………………! ど、どうしても言わねぇとダメなのかよ……!?」
「うん。ダメ」
にっこぉー!
この笑顔である。
つくづく室生と仲直りしておいてよかった、と突然の身震いとともに思う僕であった。小山田は、むすり、と顔をしかめて腕組みすると、やおら目を閉じて、まるでそれが古代の呪文かなにかのように手紙に書かれていたことをかいつまんで話しはじめた。
「ええとだな……? まず、『ありがとう』って書いてあった。そんで、『前みたいに乱暴なことしなくなったね』って書いてあった。それから……うう……『大好きだよ』とかなんとか」
「やったじゃん! よかったね、ダッチ!」
「おい……! 人がこんなに悩んでんのに、やった! も、よかった! もねえだろうがっ!」
「理不尽」
「うがぁああああああああああー!! あああああー!! もぉおおおおおおおおおおー!!」
もう掻きむしるというよりは、ごしごし、とたわしでこすっているような音が、悩める小山田少年の頭部から響き渡った。ある意味滑稽ではあったが、少し気の毒というか哀れだった。
小山田徹には、桃月天音という想い人がいる。
それも、念願かなって両想いになったとたん、悪意ある第三者の策略にはまって愛憎裏返り、手ひどく傷つけてしまった想い人が。そのことを小山田は深く悔やんでいるし、今でもなお、必死で、生涯を賭けて償おうとしている。そのことはもはやクラスの誰もが知るところだ。
――いや。
あの時、あの瞬間、室生はその場にいなかったではないか。そうだった。
そしてこれは小山田と、好奇心に負けて自ら課した禁忌を破ってしまった僕しか知らないことだったが、桃月には、小山田とは違う、別の想い人がいる。それは――ほかならぬ室生だ。
(ようするに、これが修羅場ってヤツか……。いやいや、笑いごとじゃないんだけど)
のちの歴史を見る限り、小山田が今でも――この先も――桃月を『特別視』するのはかわらないのだろうけれど、それは言わば『償い』であって、『愛情』になることは二度とないのだ。
当の桃月が、今、どう思っているかはわからない。
あの日、球技大会三日目に小山田が打ち明けた『告白』を、最後まで聞くことなく桃月はひとり教室から出て行った。あれが『拒絶』なのか『逃避』なのかは桃月本人にしかわからない。まあ、少なくとも聞いていて楽しいハナシではなかったのは、悲しいかなまぎれもない事実だ。
やがて、はぁはぁ……、と息を切らした小山田は、ぽつり、と寂しそうにつぶいた。
「なあ? 俺様は――いいや、俺は……誰かから『スキ』って言われる資格あんのかな……?」
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