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第486話 僕たちは天使じゃない(4) at 1996/2/23
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「………………んー? いーんじゃん? 別に?」
小さく笑ってそう言ったのは室生だった。
そう言ってから、いつもスマートな恰好を意識している室生には似合わない、だらり、と壁に寄りかかったままの姿勢で滑るように座り込んだ。すると、あいかわらず怒っているのか真剣に考えているのかわからない顔で小山田が尋ねる。
「別に、ってなんだよ。やなカンジだぜ、ムロ?」
「別に、は、別に、さ。特別な意味なんてないよ」
「……っ」
「怒った? でも、そういうつもりじゃないんだ。誰かを『スキ』になるのに理由なんてない、そう言いたかっただけさ。その誰かが、自分を『スキ』になってくれたからじゃないだろ?」
そこまでをひと息で吐き出すと、室生は、ちらり、と僕の方を見た――気がした。
「もちろん、その逆だってあるさ。その誰かが、自分じゃない他のヤツのことを『スキ』だったとしても、それで自分の中の想いを消せるワケじゃない。その誰かに、あいつを『スキ』になるなって言ったとしても、その子の中に生まれた想いは、やっぱり消せるワケじゃないから」
思わず、どきり、とさせられるセリフだった――二重の意味で。
「でもよ、その『スキ』って想いが届かねぇんじゃあ、結局ツラいだけだろ? だろ、ムロ?」
静かに告げる小山田の目はぎらぎらと鋭く、奥底まで刺すようでいて、どこか寂しげだった。ムロは――今まで貼りつけていた笑顔を消すと、立てた両ひざの間から床の一点を見つめる。
「………………ちゃんと届いてるさ。僕だって、ラブとライクの違いくらいわかってるからね」
「だったら――!」
――どうしてこたえてやらねぇんだよ!?
――どうしてきっぱり振ってやらない!?
はたして小山田が言いかけたのはどっちのセリフだったのだろうか。室生はそのセリフに静かに首を振ると、溜息でイキオイをつけるようにして天井を見上げ、悪びれもなくこう告げる。
「だってさ? 僕たちは天使じゃない。みんなの願いを平等に、だなんてかなえてあげられないよ。自分の願いだけでも手いっぱいなのにさ。それすら思いどおりにいかないクセにね」
「………………天使じゃない、か」
「………………はっ。言えてらぁ」
気づけば僕ら三人は、同じような姿勢で座り込み、同じように見慣れた天井を見上げていた。
二十六年もの間、純美子を想い続け、もっとそばにいた人の想いに気づかなかった僕。
誰もが憧れ、恋に落ちるイケメンであっても、ただひとりのココロをつかめない室生。
初恋相手を深く傷つけてしまった後悔からハリネズミのように周囲を遠ざけた小山田。
考えてみれば、三人が三人とも同じような恋をして、失敗と挫折をして、後悔をしていて。一度は争い競い合った仲だけれど、それがむしろ三人の距離を縮めるきっかけになったのだ。
――ぱん!
「よし! 俺ぁ決めたぜ!」
「決めた……ってなにをさ?」
「あぁん?」
またもやすごむ――のだけれど、それ以上に頭のてっぺんまで真っ赤になっている小山田。
「そ、そりゃあ、横山のこと真剣に考えて、ちゃんと向き合って答え出すってことだろうが?」
「うん。いーじゃん、いーじゃん。応援するよ、ダッチ! ……ん?」
「『で?』って顔して雑なパス出すのやめてくれるかな、ムロ……もちろん僕も応援するって」
「おう! キンプリはちょっと頼りにならねぇが、ま、応援してくれるのはありがてぇからな」
「ひとこと余計な件」
一拍の間のあと、僕らはなぜかこみ上げてきた笑いに、くすくす、と身を震わせていた。
「じゃあさ? 来週のどこかで、男三人でデートに行かないか? 本気のホワイトデー探しにさ?」
小さく笑ってそう言ったのは室生だった。
そう言ってから、いつもスマートな恰好を意識している室生には似合わない、だらり、と壁に寄りかかったままの姿勢で滑るように座り込んだ。すると、あいかわらず怒っているのか真剣に考えているのかわからない顔で小山田が尋ねる。
「別に、ってなんだよ。やなカンジだぜ、ムロ?」
「別に、は、別に、さ。特別な意味なんてないよ」
「……っ」
「怒った? でも、そういうつもりじゃないんだ。誰かを『スキ』になるのに理由なんてない、そう言いたかっただけさ。その誰かが、自分を『スキ』になってくれたからじゃないだろ?」
そこまでをひと息で吐き出すと、室生は、ちらり、と僕の方を見た――気がした。
「もちろん、その逆だってあるさ。その誰かが、自分じゃない他のヤツのことを『スキ』だったとしても、それで自分の中の想いを消せるワケじゃない。その誰かに、あいつを『スキ』になるなって言ったとしても、その子の中に生まれた想いは、やっぱり消せるワケじゃないから」
思わず、どきり、とさせられるセリフだった――二重の意味で。
「でもよ、その『スキ』って想いが届かねぇんじゃあ、結局ツラいだけだろ? だろ、ムロ?」
静かに告げる小山田の目はぎらぎらと鋭く、奥底まで刺すようでいて、どこか寂しげだった。ムロは――今まで貼りつけていた笑顔を消すと、立てた両ひざの間から床の一点を見つめる。
「………………ちゃんと届いてるさ。僕だって、ラブとライクの違いくらいわかってるからね」
「だったら――!」
――どうしてこたえてやらねぇんだよ!?
――どうしてきっぱり振ってやらない!?
はたして小山田が言いかけたのはどっちのセリフだったのだろうか。室生はそのセリフに静かに首を振ると、溜息でイキオイをつけるようにして天井を見上げ、悪びれもなくこう告げる。
「だってさ? 僕たちは天使じゃない。みんなの願いを平等に、だなんてかなえてあげられないよ。自分の願いだけでも手いっぱいなのにさ。それすら思いどおりにいかないクセにね」
「………………天使じゃない、か」
「………………はっ。言えてらぁ」
気づけば僕ら三人は、同じような姿勢で座り込み、同じように見慣れた天井を見上げていた。
二十六年もの間、純美子を想い続け、もっとそばにいた人の想いに気づかなかった僕。
誰もが憧れ、恋に落ちるイケメンであっても、ただひとりのココロをつかめない室生。
初恋相手を深く傷つけてしまった後悔からハリネズミのように周囲を遠ざけた小山田。
考えてみれば、三人が三人とも同じような恋をして、失敗と挫折をして、後悔をしていて。一度は争い競い合った仲だけれど、それがむしろ三人の距離を縮めるきっかけになったのだ。
――ぱん!
「よし! 俺ぁ決めたぜ!」
「決めた……ってなにをさ?」
「あぁん?」
またもやすごむ――のだけれど、それ以上に頭のてっぺんまで真っ赤になっている小山田。
「そ、そりゃあ、横山のこと真剣に考えて、ちゃんと向き合って答え出すってことだろうが?」
「うん。いーじゃん、いーじゃん。応援するよ、ダッチ! ……ん?」
「『で?』って顔して雑なパス出すのやめてくれるかな、ムロ……もちろん僕も応援するって」
「おう! キンプリはちょっと頼りにならねぇが、ま、応援してくれるのはありがてぇからな」
「ひとこと余計な件」
一拍の間のあと、僕らはなぜかこみ上げてきた笑いに、くすくす、と身を震わせていた。
「じゃあさ? 来週のどこかで、男三人でデートに行かないか? 本気のホワイトデー探しにさ?」
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