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第489話 男たちのバンカー(0) at 1996/3/1
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「おーっす」
「やぁ、ダッチ。部活……大丈夫なのかい?」
放課後――。
LHRが終わったとたん早足で駆け寄る小山田。遅ればせながら僕もあとを追った。小山田は室生からそう問いかけられると、鼻の頭をぽりぽり掻いて言い訳めいた口調でこうこたえた。
「なんかよ、バックレんのもアレだしよ……。カエルと梅センに相談したんだ。正直にな」
『カエル』とはもちろん、小山田長年の親友である吉川薫その人であり、梅センとは学年主任を務める体育教師、通称『鬼の梅セン』こと梅田豪造センセイである。要はサッカー部顧問と副キャプテンに、今日のことと、それを理由に部活を休むということを伝えたということだ。
「マジすか……」
「す……すごい本気だね」
「な――なんだよ! そのかわいそうなヤツを見るような憐れみの目は! いいだろ、別に!」
照れからなのか、居心地の悪さからなのか、そわそわとあらぬ方向に視線をそらしながら、小山田は、むすり、とした顔のままこう続けた。陽に焼けた色黒の肌がほんのりどす黒い。
「きっちり仁義を切ったその上で、どっちからも許してもらったんだ。そういうことなら仕方ない、ってな。なんか……あれだ、妙ににやにやしてたような気がしねぇでもねぇんだが……」
「そ――それはきっときのせいだって。ね?」
「だとは思うんだけどよ……あぁん!? おい!?」
しゅっ――!
ふと、反射的に首をそらし、そこを小山田の左拳が通過するのをまじまじと見つめる僕。
「ああああぶないでしょうがぁ! どうしてこのタイミングで鋭い左ジャブを!」
「わ、悪ぃ悪ぃ……。なんかてめぇの顔見てたらよ、なんかにやついてるみてぇでムカついた」
「にやついてないってば! 友だちに向ける笑顔! そりゃ陰キャだし笑顔に自信ないけど!」
「はぁ? と――友だちに向ける笑顔だと……? それがか? そりゃあ――こう――だろ?」
「怖い怖い怖い! 目がぜんっぜん笑ってなくて逆に怖いって! 五人は殺してる顔だって!」
「ち――うるっせぇなぁ。てめぇよりマシだろうが!? じ、じゃあ――こ、こう――かよ?」
「もっと怖くなったよどうなってんの!? 表情筋、仕事してぇえええ!」
僕も僕なら、小山田も小山田である。互いの力量がある程度みえたということで、怪我しないぎりぎりのチカラ加減でツッコミまで入れてくるようになっていた。僕らの――いや、主に僕だけの――命を張ったやりとりがツボにはまった室生は、またもやお腹を抱えて笑っている。
「ちょ――!? そこで笑ってないで止めて、ムロ!」
「ああ、ごめんごめん。あまりにおもしろくってさ」
「ったく、陰キャはこれだから……。嬉しいのはわかるけどよ? イキナリはしゃぐなって」
「はしゃぐ、とは?」
けらけらといつも以上に楽しげに笑いながら室生が通学カバンを肩にかつぐと、次に小山田が、最後に僕が続いた。まだ変顔でやりあっている僕と小山田をちらりと振り返り、あのイケメンアイドル少年の室生が突然、今まで一度も見たことのないとびきりの変顔を披露する。
「ぷ――っ!! ム、ムロ!?」
「うはっ! それやべーって!」
「じゃあ、この勝負、僕の勝ちだね」
そうして下駄箱でスニーカーに履き替えた僕らは、大笑いしながら下らない言い争いを続け、バス停までの道を弾むように歩いていく。あとから踊りながらついてくるのは僕らの影だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして――ピンチは唐突に訪れる。
「さて……いかがなさいますか?」
「う……っ! ここが勝負ドコロってことかよ……。よぅし! 受けてやろうじゃねえか!」
ごくり、と唾を呑んだ小山田はゆっくりと身構え、拳を引き絞って――!
「やぁ、ダッチ。部活……大丈夫なのかい?」
放課後――。
LHRが終わったとたん早足で駆け寄る小山田。遅ればせながら僕もあとを追った。小山田は室生からそう問いかけられると、鼻の頭をぽりぽり掻いて言い訳めいた口調でこうこたえた。
「なんかよ、バックレんのもアレだしよ……。カエルと梅センに相談したんだ。正直にな」
『カエル』とはもちろん、小山田長年の親友である吉川薫その人であり、梅センとは学年主任を務める体育教師、通称『鬼の梅セン』こと梅田豪造センセイである。要はサッカー部顧問と副キャプテンに、今日のことと、それを理由に部活を休むということを伝えたということだ。
「マジすか……」
「す……すごい本気だね」
「な――なんだよ! そのかわいそうなヤツを見るような憐れみの目は! いいだろ、別に!」
照れからなのか、居心地の悪さからなのか、そわそわとあらぬ方向に視線をそらしながら、小山田は、むすり、とした顔のままこう続けた。陽に焼けた色黒の肌がほんのりどす黒い。
「きっちり仁義を切ったその上で、どっちからも許してもらったんだ。そういうことなら仕方ない、ってな。なんか……あれだ、妙ににやにやしてたような気がしねぇでもねぇんだが……」
「そ――それはきっときのせいだって。ね?」
「だとは思うんだけどよ……あぁん!? おい!?」
しゅっ――!
ふと、反射的に首をそらし、そこを小山田の左拳が通過するのをまじまじと見つめる僕。
「ああああぶないでしょうがぁ! どうしてこのタイミングで鋭い左ジャブを!」
「わ、悪ぃ悪ぃ……。なんかてめぇの顔見てたらよ、なんかにやついてるみてぇでムカついた」
「にやついてないってば! 友だちに向ける笑顔! そりゃ陰キャだし笑顔に自信ないけど!」
「はぁ? と――友だちに向ける笑顔だと……? それがか? そりゃあ――こう――だろ?」
「怖い怖い怖い! 目がぜんっぜん笑ってなくて逆に怖いって! 五人は殺してる顔だって!」
「ち――うるっせぇなぁ。てめぇよりマシだろうが!? じ、じゃあ――こ、こう――かよ?」
「もっと怖くなったよどうなってんの!? 表情筋、仕事してぇえええ!」
僕も僕なら、小山田も小山田である。互いの力量がある程度みえたということで、怪我しないぎりぎりのチカラ加減でツッコミまで入れてくるようになっていた。僕らの――いや、主に僕だけの――命を張ったやりとりがツボにはまった室生は、またもやお腹を抱えて笑っている。
「ちょ――!? そこで笑ってないで止めて、ムロ!」
「ああ、ごめんごめん。あまりにおもしろくってさ」
「ったく、陰キャはこれだから……。嬉しいのはわかるけどよ? イキナリはしゃぐなって」
「はしゃぐ、とは?」
けらけらといつも以上に楽しげに笑いながら室生が通学カバンを肩にかつぐと、次に小山田が、最後に僕が続いた。まだ変顔でやりあっている僕と小山田をちらりと振り返り、あのイケメンアイドル少年の室生が突然、今まで一度も見たことのないとびきりの変顔を披露する。
「ぷ――っ!! ム、ムロ!?」
「うはっ! それやべーって!」
「じゃあ、この勝負、僕の勝ちだね」
そうして下駄箱でスニーカーに履き替えた僕らは、大笑いしながら下らない言い争いを続け、バス停までの道を弾むように歩いていく。あとから踊りながらついてくるのは僕らの影だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして――ピンチは唐突に訪れる。
「さて……いかがなさいますか?」
「う……っ! ここが勝負ドコロってことかよ……。よぅし! 受けてやろうじゃねえか!」
ごくり、と唾を呑んだ小山田はゆっくりと身構え、拳を引き絞って――!
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