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第490話 男たちのバンカー(1) at 1996/3/1
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さて、少し時を戻すとしよう。
『咲山団地センター』バス停から仲良く(?)乗車した僕らがやがてたどり着いたのは、きらびやかな装飾をほどこされたなんとも居心地の悪いフロアだった。
「タイミング、ばっちりだ。今日から三月だからね。……ん?」
野暮ったい制服姿でもさまになるムロだけは平然としていたが、僕と小山田は今すぐにでも逃げ帰りたい気分でそわそわしていた。場違い感がハンパではない。思わず耳打ちする。
「ィ――イキナリ僕らごときが、あのマルイに来るとか、こ、これ、大丈夫なの? 合法?」
「ごとき、って。ただの店だよ。僕はよく来るけどね」
「マ、マジかよ……やっぱすげぇんだな、ムロってよ」
「いやいやいや……。だから、フツーのお店だってば」
とりあえず今日は室生の提案で、女の子へのプレゼント経験がない僕らの後学のために、参考になりそうなお店を回って、いろいろ見てみようよ、ということになっていた。
しかし、せいぜい小田急や東急百貨店くらいのモノだろうと高を括っていた僕と小山田は、一軒目のオシャレ感満載の丸井でもう虫の息だ。なんだよ、ここ。男子禁制じゃないの?
「いらっしゃいませーっ」
「どうぞご覧くださーい」
フロア全体からやたらといい香りが漂ってくる。というか、これ、オトナの香りだ。うん。
と、小山田と手をつなぐ寸前のポーズで震えていると、室生がむっとした顔で戻ってくる。
「……あのさ? イキナリひとりにするのやめてくれないかな? ちゃんとついて来てよ」
「って言われてもよぉ……こえぇよぉ……」
「怖くないから。いいから来て。見ようよ」
左右からしきりに飛び交うコンサバお姉様たちからの呼び声を必死にかわしつつ、細長いフロアを奥へ奥へと進んで行くと、二階フロアのほぼ中央あたりにホワイト・デー向けの特設売り場が展開されていた。早めの帰路についたらしきサラリーマンたちの姿もちらほら見える。
「うんうん……ひと通りそろってるみたいだ。これなら参考にしやすいね。……モリケン?」
「あ……。い、いやさ?」
僕は目の前に並ぶやたらときらきらした品々に視線を投げ――ついでにそれをひとつひとつつまみ上げては上から下から覗きこんでいる小山田にも向けつつ――小さめの声でこう告げる。
「やっぱクッキーかキャンディなのかなぁ、って思ってたんだけど、結構いろいろあるんだね」
「まあね。付き合ってる年数とか親密度とかによってもさ、何をあげるか違ってくるじゃん?」
たとえば――とつぶやいた室生は、ちょうど近くにあった小ぶりな小箱を取り上げた。
「このバスソルトとかはさ? まだ付き合いたての子に送ると、急ぎすぎなカンジするよね?」
ね? と問われた僕たちだったが、無言で顔を見合わせるだけでもう限界である。
「い、いやいやいや……。あのさ? お風呂に入る時って、誰でもハダカになるワケでしょ? そんなの想像してるの!? ってなっちゃいそうじゃない? ど……どう……わかる……?」
うんうんうん! と僕らが超高速赤べこのごとく首を縦に振ると、ようやく室生は息を吐く。
「よかった……。そんなカンジでさ? まだこれは……ってのがあるワケ」
だが――安心するのはまだ早かったようだ。
思いつめたような表情で小山田がこう言った。
「お、おい、ムロ? それよぉ、全部……教えてくれねぇか? このとおりだ! 頼む!」
「ぜ――全部!? いや、いくらなんでも無理だよ!」
「だってさ……僕ら、目隠しで地雷原歩いてるようなモンなんだって! これ、キツいって!」
「慣れて覚えるしかないってば! そのための今日じゃんか!」
マズい……もう少しソフトなところから連れていくべきだった――そう後悔する室生秀一であった。
『咲山団地センター』バス停から仲良く(?)乗車した僕らがやがてたどり着いたのは、きらびやかな装飾をほどこされたなんとも居心地の悪いフロアだった。
「タイミング、ばっちりだ。今日から三月だからね。……ん?」
野暮ったい制服姿でもさまになるムロだけは平然としていたが、僕と小山田は今すぐにでも逃げ帰りたい気分でそわそわしていた。場違い感がハンパではない。思わず耳打ちする。
「ィ――イキナリ僕らごときが、あのマルイに来るとか、こ、これ、大丈夫なの? 合法?」
「ごとき、って。ただの店だよ。僕はよく来るけどね」
「マ、マジかよ……やっぱすげぇんだな、ムロってよ」
「いやいやいや……。だから、フツーのお店だってば」
とりあえず今日は室生の提案で、女の子へのプレゼント経験がない僕らの後学のために、参考になりそうなお店を回って、いろいろ見てみようよ、ということになっていた。
しかし、せいぜい小田急や東急百貨店くらいのモノだろうと高を括っていた僕と小山田は、一軒目のオシャレ感満載の丸井でもう虫の息だ。なんだよ、ここ。男子禁制じゃないの?
「いらっしゃいませーっ」
「どうぞご覧くださーい」
フロア全体からやたらといい香りが漂ってくる。というか、これ、オトナの香りだ。うん。
と、小山田と手をつなぐ寸前のポーズで震えていると、室生がむっとした顔で戻ってくる。
「……あのさ? イキナリひとりにするのやめてくれないかな? ちゃんとついて来てよ」
「って言われてもよぉ……こえぇよぉ……」
「怖くないから。いいから来て。見ようよ」
左右からしきりに飛び交うコンサバお姉様たちからの呼び声を必死にかわしつつ、細長いフロアを奥へ奥へと進んで行くと、二階フロアのほぼ中央あたりにホワイト・デー向けの特設売り場が展開されていた。早めの帰路についたらしきサラリーマンたちの姿もちらほら見える。
「うんうん……ひと通りそろってるみたいだ。これなら参考にしやすいね。……モリケン?」
「あ……。い、いやさ?」
僕は目の前に並ぶやたらときらきらした品々に視線を投げ――ついでにそれをひとつひとつつまみ上げては上から下から覗きこんでいる小山田にも向けつつ――小さめの声でこう告げる。
「やっぱクッキーかキャンディなのかなぁ、って思ってたんだけど、結構いろいろあるんだね」
「まあね。付き合ってる年数とか親密度とかによってもさ、何をあげるか違ってくるじゃん?」
たとえば――とつぶやいた室生は、ちょうど近くにあった小ぶりな小箱を取り上げた。
「このバスソルトとかはさ? まだ付き合いたての子に送ると、急ぎすぎなカンジするよね?」
ね? と問われた僕たちだったが、無言で顔を見合わせるだけでもう限界である。
「い、いやいやいや……。あのさ? お風呂に入る時って、誰でもハダカになるワケでしょ? そんなの想像してるの!? ってなっちゃいそうじゃない? ど……どう……わかる……?」
うんうんうん! と僕らが超高速赤べこのごとく首を縦に振ると、ようやく室生は息を吐く。
「よかった……。そんなカンジでさ? まだこれは……ってのがあるワケ」
だが――安心するのはまだ早かったようだ。
思いつめたような表情で小山田がこう言った。
「お、おい、ムロ? それよぉ、全部……教えてくれねぇか? このとおりだ! 頼む!」
「ぜ――全部!? いや、いくらなんでも無理だよ!」
「だってさ……僕ら、目隠しで地雷原歩いてるようなモンなんだって! これ、キツいって!」
「慣れて覚えるしかないってば! そのための今日じゃんか!」
マズい……もう少しソフトなところから連れていくべきだった――そう後悔する室生秀一であった。
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