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第497話 男たちのバンカー・アフター(2) at 1996/3/1
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「つまり、だな――?」
どこからか男の舎弟らしき若者が駆け寄ってきて、温かい缶コーヒーを四つ、手渡した。
「もしも――もしもだ。あそこでお前さんが勝っちまってたら、こっちもその筋のニンゲンとして、やるべきことをやらにゃならんところだった、ってことさ。……ほら、おごりだ。飲め」
「……い、いらねえ」
どこかの飲食店が使っているであろう青いポリバケツに我が物顔で座り込んだ男が缶コーヒーを差し出すが、硬い表情の小山田がぎりぎりのプライドをかき集めて首を振る。男は笑った。
「馬鹿。こういうモンは、たとえ飲めなくってもありがたく受け取っておくモンなんだよ。恩に着せようとか、ゆすろうってワケじゃねえ。中坊どもから巻き上げるほど困っちゃいねえよ」
「……わ、わかった。ありがとう――ございます」
「よし」
――ぱかり。
ほれ、とくわえタバコの男が急かすので、僕らもリングプルを引きおそるおそる缶に口をつけた――甘い。かなり甘いミルクコーヒーだ。見たことのない缶にはMAXと書いてある。
うげぇ、と内心思うものの、誰も顔に出せない。なにせ相手は、間違いなく裏社会のニンゲンなのだ。ヘタに機嫌を損ねようものならなにをされるかわかったものじゃない。
「よぅ、威勢のいい兄ちゃんよ? 俺ぁ聞いてみたかったんだ」
「な――なにをだよ?」
「今日のおめぇさんには勝ち運があった。単なる勘ってヤツだが、本職の勘ってのは、そんじょそこいらのケチな勘とは格が違う。あのままおめぇさんひとりで続けてれば、勝てたはずだ」
「なのに、どうして――そう言いたいのかよ?」
「そうだ」
小山田はふてくされ気味のむっつり顔をしながらも、しばし考え込んで、さっき僕らにしたものと寸分かわらぬセリフを、今度は口上売りの男に向けて言った。しばらく返事がない。
やがて――。
「……なるほど。泣かせるハナシじゃねえか。いろいろあったんだろうが……ま、興味ねえな」
くくく、と笑い、空いた左手で追い払うような身振りをしながらも、男の口元は笑んでいた。
「勝負は残念だったが、負けて正解だったんだ。そこの坊ちゃんのおかげだぞ? せいぜい感謝しとけ。おめぇらは痛い目を見ずに済んだ。俺たちはおめぇらが盛り上げてくれたおかげで手早くブツがさばけた。……くどいようだが、盗品じゃねえぞ。ま、これで貸し借りなしだな」
「じゃ――じゃあ、なんで俺たちを呼びつけたんだよ?」
「さっきも言ったろうが――」
男は敵意がないことを示すためか、タバコと缶コーヒーを持った両手でホールドアップした。
「お話ししたかったのさ。……いや、違うのかもな。ちょっとばっか……うらやましくってな」
「うらやましい?」
「俺にもな? おめえたちみてえなダチがいたんだ。こんな稼業に就くもっともっと昔な――」
男は僕らの顔をひとつひとつ眺め、満足そうに片眉を、くい、と引き上げて笑ってみせた。
「だからかもしんねぇ。ところでだ? 兄ちゃんは、どうしてアレ、ふたつ欲しかったんだ?」
「バッ――バレンタインのお返しだよ。ふたつあったら、ふたりでつけられんだろ?」
「ひゅう、面ぁに似合わずピュアだねぇ。……よう? そいつのこと、惚れてんのか?」
「なっ!? なんでそんなことてめぇに言わなきゃなんなんねえんだよ!?」
「へへへ、缶コーヒー、飲んだろ? ん?」
く、と小山田は歯噛みして黙り込んだが――やがて観念したように小さくつぶやいた。
「………………スキみてぇなんだよ。惚れちまったんだ」
「よし! はは、よく言った! ほれ、落とすなよ? それ持って、ガキはまっすぐ帰んな!」
――ぽすっ。
ゆるやかな軌道を描いて飛んできた小箱を、小谷田は反射的に受け止める。
その中には――。
どこからか男の舎弟らしき若者が駆け寄ってきて、温かい缶コーヒーを四つ、手渡した。
「もしも――もしもだ。あそこでお前さんが勝っちまってたら、こっちもその筋のニンゲンとして、やるべきことをやらにゃならんところだった、ってことさ。……ほら、おごりだ。飲め」
「……い、いらねえ」
どこかの飲食店が使っているであろう青いポリバケツに我が物顔で座り込んだ男が缶コーヒーを差し出すが、硬い表情の小山田がぎりぎりのプライドをかき集めて首を振る。男は笑った。
「馬鹿。こういうモンは、たとえ飲めなくってもありがたく受け取っておくモンなんだよ。恩に着せようとか、ゆすろうってワケじゃねえ。中坊どもから巻き上げるほど困っちゃいねえよ」
「……わ、わかった。ありがとう――ございます」
「よし」
――ぱかり。
ほれ、とくわえタバコの男が急かすので、僕らもリングプルを引きおそるおそる缶に口をつけた――甘い。かなり甘いミルクコーヒーだ。見たことのない缶にはMAXと書いてある。
うげぇ、と内心思うものの、誰も顔に出せない。なにせ相手は、間違いなく裏社会のニンゲンなのだ。ヘタに機嫌を損ねようものならなにをされるかわかったものじゃない。
「よぅ、威勢のいい兄ちゃんよ? 俺ぁ聞いてみたかったんだ」
「な――なにをだよ?」
「今日のおめぇさんには勝ち運があった。単なる勘ってヤツだが、本職の勘ってのは、そんじょそこいらのケチな勘とは格が違う。あのままおめぇさんひとりで続けてれば、勝てたはずだ」
「なのに、どうして――そう言いたいのかよ?」
「そうだ」
小山田はふてくされ気味のむっつり顔をしながらも、しばし考え込んで、さっき僕らにしたものと寸分かわらぬセリフを、今度は口上売りの男に向けて言った。しばらく返事がない。
やがて――。
「……なるほど。泣かせるハナシじゃねえか。いろいろあったんだろうが……ま、興味ねえな」
くくく、と笑い、空いた左手で追い払うような身振りをしながらも、男の口元は笑んでいた。
「勝負は残念だったが、負けて正解だったんだ。そこの坊ちゃんのおかげだぞ? せいぜい感謝しとけ。おめぇらは痛い目を見ずに済んだ。俺たちはおめぇらが盛り上げてくれたおかげで手早くブツがさばけた。……くどいようだが、盗品じゃねえぞ。ま、これで貸し借りなしだな」
「じゃ――じゃあ、なんで俺たちを呼びつけたんだよ?」
「さっきも言ったろうが――」
男は敵意がないことを示すためか、タバコと缶コーヒーを持った両手でホールドアップした。
「お話ししたかったのさ。……いや、違うのかもな。ちょっとばっか……うらやましくってな」
「うらやましい?」
「俺にもな? おめえたちみてえなダチがいたんだ。こんな稼業に就くもっともっと昔な――」
男は僕らの顔をひとつひとつ眺め、満足そうに片眉を、くい、と引き上げて笑ってみせた。
「だからかもしんねぇ。ところでだ? 兄ちゃんは、どうしてアレ、ふたつ欲しかったんだ?」
「バッ――バレンタインのお返しだよ。ふたつあったら、ふたりでつけられんだろ?」
「ひゅう、面ぁに似合わずピュアだねぇ。……よう? そいつのこと、惚れてんのか?」
「なっ!? なんでそんなことてめぇに言わなきゃなんなんねえんだよ!?」
「へへへ、缶コーヒー、飲んだろ? ん?」
く、と小山田は歯噛みして黙り込んだが――やがて観念したように小さくつぶやいた。
「………………スキみてぇなんだよ。惚れちまったんだ」
「よし! はは、よく言った! ほれ、落とすなよ? それ持って、ガキはまっすぐ帰んな!」
――ぽすっ。
ゆるやかな軌道を描いて飛んできた小箱を、小谷田は反射的に受け止める。
その中には――。
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