ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

文字の大きさ
499 / 539

第497話 男たちのバンカー・アフター(2) at 1996/3/1

しおりを挟む
「つまり、だな――?」


 どこからか男の舎弟らしき若者が駆け寄ってきて、温かい缶コーヒーを四つ、手渡した。


「もしも――もしもだ。あそこでお前さんが勝っちまってたら、こっちもその筋のニンゲンとして、ところだった、ってことさ。……ほら、おごりだ。飲め」

「……い、いらねえ」


 どこかの飲食店が使っているであろう青いポリバケツに我が物顔で座り込んだ男が缶コーヒーを差し出すが、硬い表情の小山田がぎりぎりのプライドをかき集めて首を振る。男は笑った。


「馬鹿。こういうモンは、たとえ飲めなくってもありがたく受け取っておくモンなんだよ。恩に着せようとか、ゆすろうってワケじゃねえ。中坊どもから巻き上げるほど困っちゃいねえよ」

「……わ、わかった。ありがとう――ございます」

「よし」


 ――ぱかり。


 ほれ、とくわえタバコの男が急かすので、僕らもリングプルを引きおそるおそる缶に口をつけた――甘い。かなり甘いミルクコーヒーだ。見たことのない缶にはMAXと書いてある。

 うげぇ、と内心思うものの、誰も顔に出せない。なにせ相手は、間違いなく裏社会のニンゲンなのだ。ヘタに機嫌を損ねようものならなにをされるかわかったものじゃない。


「よぅ、威勢のいい兄ちゃんよ? 俺ぁ聞いてみたかったんだ」

「な――なにをだよ?」

「今日のおめぇさんには勝ち運があった。単なる勘ってヤツだが、本職の勘ってのは、そんじょそこいらのケチな勘とは格が違う。あのままおめぇさんひとりで続けてれば、勝てたはずだ」

「なのに、どうして――そう言いたいのかよ?」

「そうだ」


 小山田はふてくされ気味のむっつり顔をしながらも、しばし考え込んで、さっき僕らにしたものと寸分かわらぬセリフを、今度は口上売りの男に向けて言った。しばらく返事がない。





 やがて――。





「……なるほど。泣かせるハナシじゃねえか。いろいろあったんだろうが……ま、興味ねえな」


 くくく、と笑い、空いた左手で追い払うような身振りをしながらも、男の口元は笑んでいた。


「勝負は残念だったが、負けて正解だったんだ。そこの坊ちゃんのおかげだぞ? せいぜい感謝しとけ。おめぇらは痛い目を見ずに済んだ。俺たちはおめぇらが盛り上げてくれたおかげで手早くブツがさばけた。……くどいようだが、盗品じゃねえぞ。ま、これで貸し借りなしだな」

「じゃ――じゃあ、なんで俺たちを呼びつけたんだよ?」

「さっきも言ったろうが――」


 男は敵意がないことを示すためか、タバコと缶コーヒーを持った両手でホールドアップした。


「お話ししたかったのさ。……いや、違うのかもな。ちょっとばっか……うらやましくってな」

「うらやましい?」

「俺にもな? おめえたちみてえなダチがいたんだ。こんな稼業にくもっともっと昔な――」


 男は僕らの顔をひとつひとつ眺め、満足そうに片眉を、くい、と引き上げて笑ってみせた。


「だからかもしんねぇ。ところでだ? 兄ちゃんは、どうしてアレ、ふたつ欲しかったんだ?」

「バッ――バレンタインのお返しだよ。ふたつあったら、ふたりでつけられんだろ?」

「ひゅう、面ぁに似合わずピュアだねぇ。……よう? そいつのこと、惚れてんのか?」

「なっ!? なんでそんなことてめぇに言わなきゃなんなんねえんだよ!?」

「へへへ、缶コーヒー、飲んだろ? ん?」


 く、と小山田は歯噛みして黙り込んだが――やがて観念したように小さくつぶやいた。


「………………スキみてぇなんだよ。惚れちまったんだ」

「よし! はは、よく言った! ほれ、落とすなよ? それ持って、ガキはまっすぐ帰んな!」


 ――ぽすっ。


 ゆるやかな軌道を描いて飛んできた小箱を、小谷田は反射的に受け止める。
 その中には――。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...