ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

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第531話 一〇〇パーセントのその先へ at 1996/3/30

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「で、でもっ……! あ、あたしがここで死ななければ……また、パパはひとりきりに……!」

「僕は……っ! ツッキーを忘れるなんて……ツッキーに忘れられるなんて……できません!」



 ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。

『――現在の現実乖離率:



 僕のスマートフォンは、さっきからずっと振動しっぱなしだった。例の謎のアプリ――『DRR』から届くひっきりなしの通知で、スクリーンはたちまち覆い尽くされていく。


「僕らを忘れないでくれ! 『未来』へ進むんだ、ツッキー! 自分の『可能性』を信じろ!」

「ツッキーパパだって応援してくれてるんだからね! 行こう、みんなで一緒に『未来』へ!」

「ああ……あああああああああああ……っ!!」


 水無月さんのカラダから突如白い光の奔流と、黒い闇がうねり出て、本殿の奥に飾られている水無月しょうえがいた『ふたりの少女』の絵へ引き寄せられていく。

 そして、絵が放つ二色の光と融合し、まるでそれが命を持った生き物であるかのように、『ふたり』が『ひとり』へと。


「あ、あたし……あたしだって……っ!」


 水無月さんの目から、涙があふれて、色素の薄い白い頬を伝い降りていく。


「み、みんなのこと、忘れたくありません! 忘れられるワケなんてないじゃないですかっ!」



 さらに『ふたりの少女』の絵は変化していく。
 もはやそれは『ひとりの少女』の絵だった。



「あたしは………………今のあたしじゃない、『未来』のあたしに……なりたい……ですっ!」


 水無月さんは精いっぱい声を張り上げ、そして僕を見て微笑んだ。


「そ、そうでした……! こ、古ノ森リーダーも言ってましたよね? あ、あたし自身が手を伸ばさなければ、どんなちっぽけなことすら叶わないんだ、って! あたしが……手を――!」

「そうだよ! 来い、ツッキー! そして、みんなで行こうぜ!」


 僕は夢中で手を伸ばす。

 そこにロコの手が。
 五十嵐君の手が。

 三人の手が水無月さんに向けて差し伸べられた。



 その指先と指先の距離は徐々に縮まり、あともう、ほんのちょっとで――。



 しかし、





『――現在の現実乖離率:110パーセント ※警告! 警告!』

 ――どくんっ!!

 その本殿をも震わす脈動の源は、あの『絵』だった。





「き、きゃあああああぁ! い、いや……やめて……! やめてぇえええええ!」


 油絵の中の少女がぬめりと動き出し、ツッキーから放たれる白と黒の光と闇のうねりをたぐり寄せ、水無月さんのカラダを引きずりこもうとする。もはや所有者のいない『リトライ・アイテム』が、抱え込んだ『願い』と『想い』をそのチカラとして暴走しているかのようだった。


「くそっ! 掴まれ、ツッキー! あと……もう少し……で……!」

「ツッキー、お願い! 手を……手を伸ばして……! 早く……!」


 どろりとした油絵具が渦を巻き、絵の中の少女まで巻き込んで吸い込んでしまった。平面であるはずの絵に底も果ても見えない永劫の深淵が生まれ出で、何もかもを吸い込んで漆黒を宿す。その渦の表面にときおり浮かんで消えるのは――あれは、ツッキーじゃないのか? しかしその姿は、赤子のようであったり、少女のようであったり、はたまた老婆のようにも見えた。



 そうか――。



『「可能世界」や「多元宇宙」だという考え方もあるが、恐らく「並行世界」なのだろう――』



 コトセがそんなことを言っていたはずだ。



 つまり――。



 僕らが戻るには、『ツッキーの死』によって世界が『リセット』されなければならないのだ。


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