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戦場の少年少女

3、人間

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 初の作戦から8日後。
 メンタルケア施設に入院していたフィリアがエデンに戻ってきた。人を殺めたという精神的な衝撃・苦痛と、それによる多大なストレスで自律神経を大きく乱していた。施設では投薬とカウンセリングを主に行われたようだった。
 
 その日の夜、いつかの作戦前の夜のように、デバイスにフィリアの文字が表示された。ソラはえも言われぬ感情に襲われた。作戦後に感じた、罪悪感。フィリアがいない日常に、あの時かけた言葉に後悔しそうになるが、自分のせいではないと目をつむる。
 どうしようもなかったし、どうすることもできない。
 家族に死んでほしくはなかった。失いたくはなかった。あの時のフィリアは、どこか危なっかしく、すぐに消えてしまいそうだった。まるで自分から死に近づいているような、そんな感じがした。
 昔から、フィリアが優しいのは知っていた。きっと今回もそうだろう。己の優しさが、戦争における殺人を割り切れずに、その後悔なんかを精神上に刻み込んでしまったのだろう。
 どうしようもなかったし、どうすることもできない。
 俺には、どうしようもなかったし、どうすることもできないんだよ……。
 ソラは独り言ちる。
 デコードの性質上、子供が戦場に出ることになるのは仕方のないことだ。倫理に極力反さぬように、戦場に送り込まれる子供たちの量を制限するためにエデンが設けられ、孤児だったソラ達が引き取られた。戦場に出てて戦うことを対価に、貧困層出身でありながら裕福な暮らしを送ることができた。対価、ただの対価に過ぎないのだ。
 俺たちの存在価値は端的に言ってしまえば戦って、人を殺して、勝って国の役に立つ。ただそれだけでしかない。
 作戦を終えて、そう思うことが増えていった。
 何でここにいるんだろうとか、なんで殺す必要があるのだろうとか、なんで戦争をしているのだろうとか。どうしようもない疑問が次々と浮かんでくる。こころが苦しくなる。
 フィリアも、この役目から逃れることはできない。どんなに嫌でも、手が震えようとも、それが俺たちの存在理由だから。

「あの時、最初は何の抵抗もなく撃墜することができたんだよ。シミュレーションのおかげだよね」

 デバイスからフィリアの声が聞こえた。

「ただ、最初に撃墜したとき、ほんのちょっとだけ、敵の動きが変だったの。迷ってるみたいな、そんな感じ。ほんの一瞬だったけどね。そこから、ああ、私が撃墜したのはシミュレーションのAIなんかじゃなくて、きっと自分の国には家族がいるんだよねって思ったら、自分がやったことが気持ち悪くなって、何もできなくなっちゃった。すごいよね、ソラは。ちゃんと戦えてるんだもん」
「俺は、ただ気にしてなかっただけだ。死にたくなかったから、全力で敵を倒した。それに俺が鈍感なのかはわからないけど、シミュレーションとの違いが判らなかったのもあるかもしれない」

 注意されている訳でもないのに、なぜだか耳が痛い。

「だから、俺は簡単に割り切れたのかもしれない。あと、あの時強い言葉で攻めるようなこと言ってすまん」
「大丈夫だよ。私があんな感じになってたなんて知らなかっただろうし。それに、なんとなく心配してくれてるのは伝わってきたから」

 フィリアはそういって、くすくすと笑った。久しぶりに見たその笑顔に安堵する。久しぶりに時間も忘れて誰かと話した気がする。
 夜が更けていく。真っ黒な夜空に浮かぶ大きな満月が、二人を照らしていた。
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