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シーズン1 魔法使いの塔
第五章 1)バルザの章1
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国境守備隊には大胆な挑発行為を繰り返していた隣国の兵も、バルザの名を聞いただけで逃げ出すのが常であった。
今回もバルザ到着の報と共に、隣国の兵は引き上げようとしていた。
しかし簡単に逃げ去ることを、バルザは許さない。
バルザは機動力に優れた選りすぐりの精兵だけを率いて、疾風のように国境を越え、ほとんど休まず荒野を駆け、後れを取った者は置き去りにし、何匹もの馬を乗り捨てて、敵軍に追いつくと同時に僅か五百の兵で相手の五千の兵に狼のように襲いかかり、ズタズタに切り裂いていった。
まさかここまで追ってくるとは思わなかった敵軍は、バルザの急襲に不意を突かれ、指揮系統は乱れに乱れ、本隊はガラ空きになった。
バルザはその隙を突いた。
敵の将の首を打ったのである。
敵軍は算を乱して逃げ、ほうほうの体でようやく城塞に逃げ込んでいった。
バルザは自軍の兵をまとめ上げ、悠々と引き上げていく。
バルザは強かった。
兵を自らの手足のように動かす才に長け、剣を持って戦っても無敵であった。
兵たちはバルザに全幅の信頼を寄せ、その命をバルザのために惜しみなく投げ出した。
四方を強国に囲まれ、常に周辺の国から脅かされ続けていた小国のパルが、ここ十数年に渡り絶対的な安泰を見せているのも、最高司令官バルザの率いる部隊が、一分の隙も見せずに大勝をおさめてきたからである。
今やバルザの名声は味方も恐れるほどで、心ない者はいつか国王の権力も越え、その地位を簒奪する日も近いのではないかと噂していた。
しかしバルザの名声を真に揺るぎないものにしているのは、バルザの騎士としての高潔な人柄にあった。
厳しい騎士の典範を守り、一度仕えた王に忠誠を誓い続け、部下を大切にし、決して私利私欲に走らないその人間性が、バルザの名をいっそう高めているのである。
騎士団団長の地位に、歴代最年少にして就任したバルザはまだ若く、これから先の長い活躍を嘱望されていた。
いつかバルザの率いる遠征軍が、パルの国の版図を広げるのではないかと臣民たちは期待し、彼もその期待に応えるため、綿密な戦略を練るのを怠らなかった。
そんなバルザが圧倒的な勝利をおさめて、都に凱旋したその夜、しかし彼は最悪な知らせを聞くことになる。
「バルザ様、至急、お屋敷お屋敷にお戻りくださいませ」
自分の屋敷で働く使用人が、血相を変えて宮殿に現れる姿を見た瞬間から、バルザは嫌な予感を覚えた。
「なぜだ?」
バルザはその使用人に尋ねた。
「奥様が何もかに拉致されました」
そう耳打ちされた瞬間、数々の修羅場をくぐり抜けてきたバルザの強靭な心臓は、その衝撃のあまり、止まりそうになった。
今回もバルザ到着の報と共に、隣国の兵は引き上げようとしていた。
しかし簡単に逃げ去ることを、バルザは許さない。
バルザは機動力に優れた選りすぐりの精兵だけを率いて、疾風のように国境を越え、ほとんど休まず荒野を駆け、後れを取った者は置き去りにし、何匹もの馬を乗り捨てて、敵軍に追いつくと同時に僅か五百の兵で相手の五千の兵に狼のように襲いかかり、ズタズタに切り裂いていった。
まさかここまで追ってくるとは思わなかった敵軍は、バルザの急襲に不意を突かれ、指揮系統は乱れに乱れ、本隊はガラ空きになった。
バルザはその隙を突いた。
敵の将の首を打ったのである。
敵軍は算を乱して逃げ、ほうほうの体でようやく城塞に逃げ込んでいった。
バルザは自軍の兵をまとめ上げ、悠々と引き上げていく。
バルザは強かった。
兵を自らの手足のように動かす才に長け、剣を持って戦っても無敵であった。
兵たちはバルザに全幅の信頼を寄せ、その命をバルザのために惜しみなく投げ出した。
四方を強国に囲まれ、常に周辺の国から脅かされ続けていた小国のパルが、ここ十数年に渡り絶対的な安泰を見せているのも、最高司令官バルザの率いる部隊が、一分の隙も見せずに大勝をおさめてきたからである。
今やバルザの名声は味方も恐れるほどで、心ない者はいつか国王の権力も越え、その地位を簒奪する日も近いのではないかと噂していた。
しかしバルザの名声を真に揺るぎないものにしているのは、バルザの騎士としての高潔な人柄にあった。
厳しい騎士の典範を守り、一度仕えた王に忠誠を誓い続け、部下を大切にし、決して私利私欲に走らないその人間性が、バルザの名をいっそう高めているのである。
騎士団団長の地位に、歴代最年少にして就任したバルザはまだ若く、これから先の長い活躍を嘱望されていた。
いつかバルザの率いる遠征軍が、パルの国の版図を広げるのではないかと臣民たちは期待し、彼もその期待に応えるため、綿密な戦略を練るのを怠らなかった。
そんなバルザが圧倒的な勝利をおさめて、都に凱旋したその夜、しかし彼は最悪な知らせを聞くことになる。
「バルザ様、至急、お屋敷お屋敷にお戻りくださいませ」
自分の屋敷で働く使用人が、血相を変えて宮殿に現れる姿を見た瞬間から、バルザは嫌な予感を覚えた。
「なぜだ?」
バルザはその使用人に尋ねた。
「奥様が何もかに拉致されました」
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