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シーズン1 魔法使いの塔
第六章 3)地下の更に地下
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この塔にもそれなりに慣れてきたので、私はあの護衛人代わりのバケモノ、カボチャの頭をした鎧の騎士、「ワ―」と「ギャー」を連れて歩くのを、先の旅から帰って以来もうやめていた。
別に大切な物を置いているわけでもないが、私の居室の前の守衛として立たせているだけだ。
しかしフローリアのいる牢獄に一人で行くのは心細くて、久しぶりに彼らを伴って行くことにした。
フローリアたちがいる牢獄は、北の塔の地下にある。
以前、彼女たちが閉じ込められていた地下の実験室の近くだ。
そういうこともあってその部屋をあてがったのだろうが、それにしても牢獄とは酷い話しである。
私は「ワー」と「ギャー」を従え、ランタンで足下を照らしながら地下への階段を下りていった。
やがて牢獄の並ぶエリアに到着した。
牢獄は廊下の両脇に十数室並んでいる。
しかしその牢獄に彼女たちはいない。更にその階下の牢獄に閉じ込めたそうである。
私はそこに向かうために、更に階段を下りる。
階段を下りるにつれて、先程までと様子が変わり始めていることに嫌でも気づかされる。
ネズミが足下を横切り、無数の蜘蛛が我がもの顔で巣を張り、天井を占有している。
空気もジメジメし出して、鼻をつく匂いも漂い始めた。
牢獄までの階段は掃除がそれなりに行き届いていたが、それより下は完全に見捨てられているようなのだ。
これは酷過ぎる。
私は顔を顰めながら首を振った。彼女たちが以前閉じ込められていた地下室より、もっと酷い環境ではないか。
さすがに、この部屋をフローリアたちにあてがった召使いを、咎めておかなければいけないと思った。
確かにあのグロテスクに改造された人たちを、塔の中心部に住ませておくわけにはいかないだろうけど、だからってこんなところまで追放しなくてもいいではないか。
どう考えても、この環境は人が暮らすところではない。
下まで降り切ると、すぐそこに木製の半分朽ちかけた扉があった。
それが彼女たちの暮らす部屋の扉のようだ。
下半分が腐っているような扉では、彼女たちが監禁されているとは言えないだろう。
しかしこれでは逆に、ネズミも冷たい風も防ぐことは出来ないに違いない。部屋としての体をなしていないのだから。
私は怒りで顔が熱くなってきた。
さっきまで彼女たちに会うことに怯えていたが、今はむしろここから助け出すことしか頭にない。
怒りと焦りの織り交ざった気持で扉を叩き、私は声を掛けた。
「フローリア、話しがある、開けてくれ」
しかしそうやって呼び掛けても返事が来なかった。
もう一度、強めに扉を叩いた。それでも返事がない。
私は少し迷ったが扉を押し開けてみた。
扉を開けた瞬間、あの独特の生臭い腐臭が、更に猛烈な勢いで嗅覚に襲いかかってきた。
私は吐き気を我慢しながら、ランタンの光で薄暗い部屋を照らした。
部屋の中は朽ちかけた扉以上に酷い状態だった。
中は意外に広いが、むしろ広過ぎて部屋と呼べるようなものではなくて、ただのガランとした空間という感じ。
足下に水溜まりがあり、私の足を濡らした。地下水がどこかから漏れているようだ。
窓はもちろんなく、部屋の端にベッドと椅子があるだけのようである。
部屋の隅に蝋燭や、ランタンがあって部屋の中をかすかに照らしている。
フローリアが部屋の中央に座っているのがすぐに見えた。
こちらに背を向けているが、あの少女の背中に間違いないだろう。
その膝の上にあのグロテスクに改造された人が横たわっているのも見える。
「勝手に部屋に入ってすまない」
彼女が無事に生きていることに安心しながら、私はゆっくり近づいた。
「フ、フローリア?」
私はそう呼び掛けながら、横から回り込み彼女の顔を覗きこもうとした。
長い髪の毛が垂れ下がって顔の表情がよく見えない。
もう一度声を掛けようと思ったとき、フローリアの身体が少し動いた。
「いま、最後の一人が死んでしまいました・・・」
フローリアが前を見つめたまま口を開いた。
「えっ?」
聞こえなかったわけではなかったが、私は聞き返した。
「この人が最後の一人でした。やっぱり皆、身体をこんなふうにされて、かなり生命力が弱っていたみたいです」
フローリアは膝の上の遺体を優しく撫でながら、こちらに顔を向けてきた。
彼女は前に会ったときと少しも変わりなく、まるで街角ですれ違って、挨拶でも返してくるときのような、爽やかな表情だった。
もちろん悲惨な死を前にして悲しげに見える。
しかしこの過酷な環境によって、彼女の表情は暗く汚されていないよう。
その事実に私は心を打たれた。
「・・・そうか、死んでしまったのか」
私は返事した。
「はい」
私は部屋をさっと見回した。遺体はフローリアの膝の上にいる者だけで、他にはいなかった。
確か数十体はいたはずだ。もしかしたら他の遺体はきちんと埋葬されたのかもしれない。そのために彼女は夜中、塔の中を歩いていたのではないか。
フローリアは膝の上の遺体を床に横たえると、さっと立ち上がり、私のほうを向いて何か言おうとした。
しかし突然、崖の上で強い風に煽られたかのように、彼女の身体はふわりと揺れた。
私は急いで彼女を抱き止めた。
フローリアの身体は燃えるように熱かった。
服は汗にしっとりと濡れていて、顔は紅潮し、息も荒い。
酷い風邪でもひいているようだ。
私はフローリアをしっかりと抱き上げ、部屋を飛び出た。
別に大切な物を置いているわけでもないが、私の居室の前の守衛として立たせているだけだ。
しかしフローリアのいる牢獄に一人で行くのは心細くて、久しぶりに彼らを伴って行くことにした。
フローリアたちがいる牢獄は、北の塔の地下にある。
以前、彼女たちが閉じ込められていた地下の実験室の近くだ。
そういうこともあってその部屋をあてがったのだろうが、それにしても牢獄とは酷い話しである。
私は「ワー」と「ギャー」を従え、ランタンで足下を照らしながら地下への階段を下りていった。
やがて牢獄の並ぶエリアに到着した。
牢獄は廊下の両脇に十数室並んでいる。
しかしその牢獄に彼女たちはいない。更にその階下の牢獄に閉じ込めたそうである。
私はそこに向かうために、更に階段を下りる。
階段を下りるにつれて、先程までと様子が変わり始めていることに嫌でも気づかされる。
ネズミが足下を横切り、無数の蜘蛛が我がもの顔で巣を張り、天井を占有している。
空気もジメジメし出して、鼻をつく匂いも漂い始めた。
牢獄までの階段は掃除がそれなりに行き届いていたが、それより下は完全に見捨てられているようなのだ。
これは酷過ぎる。
私は顔を顰めながら首を振った。彼女たちが以前閉じ込められていた地下室より、もっと酷い環境ではないか。
さすがに、この部屋をフローリアたちにあてがった召使いを、咎めておかなければいけないと思った。
確かにあのグロテスクに改造された人たちを、塔の中心部に住ませておくわけにはいかないだろうけど、だからってこんなところまで追放しなくてもいいではないか。
どう考えても、この環境は人が暮らすところではない。
下まで降り切ると、すぐそこに木製の半分朽ちかけた扉があった。
それが彼女たちの暮らす部屋の扉のようだ。
下半分が腐っているような扉では、彼女たちが監禁されているとは言えないだろう。
しかしこれでは逆に、ネズミも冷たい風も防ぐことは出来ないに違いない。部屋としての体をなしていないのだから。
私は怒りで顔が熱くなってきた。
さっきまで彼女たちに会うことに怯えていたが、今はむしろここから助け出すことしか頭にない。
怒りと焦りの織り交ざった気持で扉を叩き、私は声を掛けた。
「フローリア、話しがある、開けてくれ」
しかしそうやって呼び掛けても返事が来なかった。
もう一度、強めに扉を叩いた。それでも返事がない。
私は少し迷ったが扉を押し開けてみた。
扉を開けた瞬間、あの独特の生臭い腐臭が、更に猛烈な勢いで嗅覚に襲いかかってきた。
私は吐き気を我慢しながら、ランタンの光で薄暗い部屋を照らした。
部屋の中は朽ちかけた扉以上に酷い状態だった。
中は意外に広いが、むしろ広過ぎて部屋と呼べるようなものではなくて、ただのガランとした空間という感じ。
足下に水溜まりがあり、私の足を濡らした。地下水がどこかから漏れているようだ。
窓はもちろんなく、部屋の端にベッドと椅子があるだけのようである。
部屋の隅に蝋燭や、ランタンがあって部屋の中をかすかに照らしている。
フローリアが部屋の中央に座っているのがすぐに見えた。
こちらに背を向けているが、あの少女の背中に間違いないだろう。
その膝の上にあのグロテスクに改造された人が横たわっているのも見える。
「勝手に部屋に入ってすまない」
彼女が無事に生きていることに安心しながら、私はゆっくり近づいた。
「フ、フローリア?」
私はそう呼び掛けながら、横から回り込み彼女の顔を覗きこもうとした。
長い髪の毛が垂れ下がって顔の表情がよく見えない。
もう一度声を掛けようと思ったとき、フローリアの身体が少し動いた。
「いま、最後の一人が死んでしまいました・・・」
フローリアが前を見つめたまま口を開いた。
「えっ?」
聞こえなかったわけではなかったが、私は聞き返した。
「この人が最後の一人でした。やっぱり皆、身体をこんなふうにされて、かなり生命力が弱っていたみたいです」
フローリアは膝の上の遺体を優しく撫でながら、こちらに顔を向けてきた。
彼女は前に会ったときと少しも変わりなく、まるで街角ですれ違って、挨拶でも返してくるときのような、爽やかな表情だった。
もちろん悲惨な死を前にして悲しげに見える。
しかしこの過酷な環境によって、彼女の表情は暗く汚されていないよう。
その事実に私は心を打たれた。
「・・・そうか、死んでしまったのか」
私は返事した。
「はい」
私は部屋をさっと見回した。遺体はフローリアの膝の上にいる者だけで、他にはいなかった。
確か数十体はいたはずだ。もしかしたら他の遺体はきちんと埋葬されたのかもしれない。そのために彼女は夜中、塔の中を歩いていたのではないか。
フローリアは膝の上の遺体を床に横たえると、さっと立ち上がり、私のほうを向いて何か言おうとした。
しかし突然、崖の上で強い風に煽られたかのように、彼女の身体はふわりと揺れた。
私は急いで彼女を抱き止めた。
フローリアの身体は燃えるように熱かった。
服は汗にしっとりと濡れていて、顔は紅潮し、息も荒い。
酷い風邪でもひいているようだ。
私はフローリアをしっかりと抱き上げ、部屋を飛び出た。
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