私の邪悪な魔法使いの友人

ロキ

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シーズン1 魔法使いの塔

第八章 8)虐殺の戦場

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 しかし私たちの予想が覆される戦況がもたらされることになった。
 初めはこっちが優勢だった。
 整然とした隊列は崩れることなく、次々と蛮族を打ち取っていった。

 まあ、確かにバルザ殿のいない部隊は、いつもの戦い方をしていなかったと思う。
 バルザ殿が指揮しているときは、敵が勢い良く向かってくると軽やかにかわし、敵が怯むと一気に襲いかかる。
 見ているだけでも力量の違いがわかる戦い方で、結果的にもこちらの被害を最小限に抑えて圧倒的な勝利を収めていた。

 一方、この部隊は敵に真っ向からぶつかっているようだ。
 そのせいか味方の兵も負傷して倒れる者が散見された。
 細やかな駆け引きなどせず、とにかく強い者が勝つという戦い方。

 だけどその分、勝負は早々につきそうであった。
 我が軍は圧倒的な勢いで、こちらよりも数の多い相手に押し勝っている。
 この部隊はバルザ殿がいなくても充分に戦えることを証明するのかと思われた。

 しかし、そんな戦況が少しずつ変わっていったのだ。
 この部隊を暫定的に指揮している副長が、蛮族の矢で負傷した頃から様子は変わっていった。
 彼は落馬して身体を強く打ち、意識を失って倒れ込んだ。
 味方が助けに入り、何とか敵の渦に巻き込まれずに済んだが、その辺りからこちらも押され始めた。

 高いところから見下ろしていたせいか、その様子はよく見て取れた。
 それを期に、勢いを取り返した蛮族を前にして、我が軍は少しずつ押されていく。
 じりじりと後退するうちはまだ良かったようだ。
 しかしひとたび一角が崩れると、あっという間に全軍の統制が失われた。

 そこからは本当に脆かった。
 陣形は乱れ、もう戦うという状況ではない。ただ虐殺から逃げ乱れているだけという状態。

 「プラーヌス! このままでは!」

 「ああ、面倒だが助けにいってくる」

 プラーヌスが苦い表情で言った。そして何かの魔法の言葉を唱えようとした。
 しかしそのときであった。その虐殺の戦場に、馬で駆け入る者がいた。
 長い槍を振り回しながら、ただ一騎、蛮族に向かって突進していく。

 その者は、我が部隊と蛮族が戦っている前線に沿って、馬を走らせていく。
 彼が通ったあと、蛮族の首だけが四方八方に飛んでいった。
 さっきまで蛮族に組み敷かれていた我が部隊の傭兵たちは、命からがらそこから脱していく。

 この圧倒的な強さ。まるで踊るように槍を振り回す、身のこなし。

 「バルザ殿!」

 私は思わず声を上げた。

 その戦場にいるのは、間違いなくあのバルザ殿だ。
 この世界で、これほど武芸に秀でた者は彼の他にそうはいない。
 しかし私はそれを確かめるために、謁見の間のほうを振り向いて、彼の姿を探した。
 バルザ殿はもうそこにはいなかった。
 さっきまでまるで腑抜けのようになって、泣いていたバルザ殿。その彼の姿は既に消えていた。
 私はまた見張り台のほうにとって返す。

 「さすがにバルザ殿だ。自分の仕事が何なのか、思い出してくれたようだね」

 プラーヌスが彼の戦いぶりを満足げに見ながらそう言った。

 「見ろよ、あの強さ! 子供と大人のような実力の違い。いや、それ以上だ、凡庸な人間と神! 彼がいれば、もう何の心配もない。蛮族が何百何千と押し寄せてこようが、バルザ殿が間違いなく撃退してくれるであろう」

 その言葉を証明するかのように、バルザ殿は単騎で蛮族の群れの中に突入していく。
 その戦いは鬼気迫るものがあった。
 槍で蛮族たちを突き刺し、彼らの剣を奪って、その首を跳ね上げていく。
 さっきまで虐殺する側であった蛮族は、ただ一騎の騎士によって虐殺される側に立場が逆転したようだ。

 しかし、その戦い方はいつものバルザ殿らしくなかった。
 いくら戦いとはいえ、敵すらも無用に殺めない、それが彼の戦い方だったはず。
 しかしバルザ殿は逃げる敵であっても容赦せず、次々とその命を刈り取っていく。

 鬼気迫る戦い、そんな言葉では生ぬるい。
 これはまるで死神その者の振る舞い。

 「やはり恐ろしいお方だよ。敵にすればこれほど怖い者はいない。しかし味方であれば本当に頼もしい。そうだ、シャグラン!」

 「え?」

 「もっと多くの騎士や戦士を雇おう。世界の各地から、戦いに熟達した者を集めるんだ。バルザ殿の下、最強の部隊を作りあげようではないか!」

 プラーヌスは少し興奮しながら、そんなことを言った。
 彼はバルザ殿の闘いを見ながら、そのような夢を見ているようだった。

 しかし私からすればバルザ殿は、「もう、うんざりだ」「これ以上、奴の言い成りにはなりたくない」そんなことを全身から発しておられる気がする。
 バルザ殿は蛮族と戦いながら、その実、プラーヌスに向かって恨みを申し立てているかのよう。

 バルザ殿の戦いは、殺す相手がいなくなって、ようやく終わった。
 生き残った兵士たちが、バルザ殿のほうに駆け寄っていく。バルザ殿も馬を降り、心配そうに部下たちの傷を思いやる。
 ようやく、いつもの彼の優しい表情を覗かせた。
 私はそれを見て、少しは安心することが出来た。風が吹き上がり、血の匂いが私たちの鼻をつく。
 プラーヌスはその血の匂いのする風を受け止めるように、両手を大きく広げる。黒いローブが今、大きく風に翻った。

 「シャグラン、旅に出よう。ルーテティアにも行く。しかしそこだけじゃない。世界中から腕利きの傭兵が集まるフィルグランデにも。とても長い旅になるかもしれないぞ。新しい料理人、新しい召使い、工芸家、建築家、大工、仕立て屋、傭兵、騎士。世界中から優秀な人材をこの塔に集結させる。どこよりも素晴らしい塔を作り上げるんだ。一時はこの塔を買ったことを後悔しかけたけど、大丈夫だ。いずれはどんな問題であっても解決する。ここを最高の塔にするんだよ!」

 プラーヌスは興奮しているようだ。
 まるで子供のように浮かれている。自分の生きている意味を見出したかのように嬉しそうだ。

 「あ、ああ・・・」

 しかしプラーヌスのあまりに大それた望みを聞いて、私はただ呆気にとられるばかりであった。
 もしかしたら私は、彼と同じ夢を見られそうにない。

 「シャグラン、君もすぐに準備するだ」

 しかし私の気も知らず、プラーヌスは無邪気に言ってくる。

 「えっ? 今からいくのかい?」

 「ああ、今すぐさ」

 プラーヌスはそう言って、まるで「旅」に向かって歩んでいくかのように、ぐんぐんと歩き始めた。
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