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28)アルゴ <指令2>
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その日、ついに「そのような質問に答えるくらいならば死んだほうがマシ」と受け取れる類の返事を女の子は返してきたので、どうやらアルゴの最初の任務は完了したようであった。
――アルゴ、よくやった。君は大きな仕事をやり遂げた。
ダンテスクがそう言ってくる。この程度で大きな仕事というのは言い過ぎに決まっているが、こうやって健闘を称えられて悪い気持ちはしない。
とにかく仕事が終わったことは事実だ。
本番の戦いはまだ先なので、それまでの間、魔法の訓練に打ち込もうとアルゴは考える。今の実力では、仲間の役に立ちそうにない。
そのための計画が、彼にはあった。
いくつかの戦闘に参加するのだ。一度の戦いの経験もないまま、このような大規模な戦闘に参加するのは、どう考えても無茶である。
報酬は低いが、リスクの低い戦闘の仕事というものが存在する。それをいくつかこなして、場慣れしておくのである。
もしかしたらそのとき、初めて人を殺すこともあるかもしれない。逆にアルゴが傷を負うこともあるかもしれない。しかしそれはとても貴重な経験になるであろう。
――ではもう一つ、重要な仕事を任せたい。敵の魔法使いに会いに行ってもらいたいのだ。
しかしダンテスクの言葉を聞いて、アルゴのその計画は吹き飛んでしまった。
「な、何だって?」
――敵の魔法使いのゲシュタルトも、解析しておかなければ意味がない。彼女を操っただけでは、この作戦は成功しないんだ。君には申し訳ないが、直接、我々の標的となる敵の魔法使いに会って来て欲しい。
「ちょっと待ってくれよ!」
アルゴが文句を言おうとする前に、ダンテスクが返してきた。
――君に危険が及ぶことはない。敵の魔法使いだって、それほど凶暴ではない。近づいてくる魔法使い全てを殺すはずがない。まして君は奴にその身分を明かすことはない。正体を偽って、彼に会えばいいのだ。ただ我々のために有用な情報を入手してもらいたいだけ。
「有用な情報とは?」
言いたいことは他に色々とあったが、アルゴは冷静を装って尋ねた。
――敵の魔法使いのゲシュタルトを正確に、かつ深いところまで読むためには、さっきの女の子のように上手く誘導して、幾つかの言葉を言わせて欲しい。そうやってチューニングを合わせる。
「チューニング?」
ダンテスクと話していると、よくわからない言葉が頻出する。
――敵の魔法使いのゲシュタルトを正確に読むための作業の一つだ。
「わかった。それはよく理解した。それにダンテスク、あんたの魔法は本当に特別だと思う。しかし、どうして俺なんだ? あんたが直接、その魔法使いに会いに行けばいいではないか? それともこのような危険な仕事は、遣いの者にやらせておくという発想なのか」
――その街まで遠い。それに俺には、自由に動き回る時間も余裕もない。
「あんたは優秀な魔法使いだ。あんたが忙しいのも理解した。しかしそれも仕事の一部ではないか?」
――怖がることはないんだ、アルゴ。君に危険が及ぶことは絶対にない。
「別に怖がってはいないさ。ただ単に、あんたが直接赴けばいいのではないか、そう考えているだけだよ!」
――冷静に考えるんだ。敵の魔法使いだってその街で普通に生活している。彼も依頼人と会い、仕事を請け負っているのだ。彼と会うこと自体、何の危険もない。
「だから、それほど簡単な仕事ならば、あんたが行けばいいではないかと俺は言ってるのさ!」
――敵のゲシュタルトを正確に読むことが出来れば、もしかすれば直接戦わずして勝てる可能性も生じる。俺の魔法で、奴の息の根を止められるのだ。そうなれば、君と俺の手柄になる。他に七人の魔法使いが参加する予定だが、我々二人でその手柄を独占出来るかもしれない。君は一夜にして大富豪になるぞ。
(俺の質問に答えずして、利で説得するつもりか)
「わかった」
わかったよ、ダンテスクさん。またもや、俺は彼に呆気なく説得されてしまったようだ。
アルゴは溜息混じりであるが、そう返事した。これ以上、ダンテスクに抵抗をしても時間の無駄だろう。いずれにしろ、彼からの依頼を断ることは出来ないのだ。
それに実際のところ、最初に思ったほど危険な任務でもないような気もする。
ただ会うだけではないか。彼が実はその魔法使いの命を狙っているなんてこと、相手に察知されるはずがない。
アルゴにも好奇心がある。敵の魔法使いという男に、会ってみたくもあった。
九人もの魔法使いが束となって、その男を殺そうというのだ。いったいどれだけの魔法使いなのだろうか? 何だかその男に会うのが楽しみになってきた。
――どのようにしてその敵の魔法使いに近づくか、計画は用意してある。君にはそれに従ってもらうだけだ。
ダンテスクが続けてきた。
「では、その計画を聞かせて欲しい」
――その魔法使いにも弱点がある。とても大きな弱点が。彼には頭痛という持病があるようなのだ。彼はそれを緩和するため、様々な薬草を取り寄せている。彼のため、薬を用立てている医師を突き止めた。君はその医師の助手として、しばらくそこで働いて欲しい。いずれ、その魔法使いは薬のため、その医師の許にやってくるだろう。そのとき医師に代わって、君がその応対をするのだ。怪しまれないため、それなりに薬の知識や技術を学ぶ必要があるかもしれない。
「わかった」
その話しを聞いて、アルゴは更に安心を深めた。このやり方ならば、敵の魔法使いに怪しまれることはないはずだ。
しかしこれでアルゴが立てた計画が潰えたことは確実。戦いの経験を深めるために、他の戦闘に参加する時間はなくなっただろう。
――その医師の心を操り、君を助手として採用したくなるように仕向ける。明日一日、休養をやる。しかし次の日、すぐに現地に向かってもらう。後の指示は、その度に出すつもりだ。そのイヤーカフは外さないように願う。
「了解している」
(薬草か)
幸いにもアルゴは健康で、何一つ持病もない。これまで薬草のお世話になったことはなかった。
とはいえ、新しい知識を吸収するのは嫌いじゃない。むしろアルゴは、魔法使いのような仄暗い職業よりも、医師のような堅実な職業のほうが似合っていたかもしれない。性格、容姿とも、そちらのほうに向いている気がする。
アルゴは医師という職業に思いを馳せながら、そのとき、ふと思いついたことがあった。
――なあ、ダンテスク、彼の薬を調達する立場にあるのならば、そこに毒を混ぜることも可能ではないだろうか?
毒殺である。アルゴの頭にそのようなアイデアがはひらめいたのだ。
古来より、毒殺されたという魔法使いの話しはあまり聞かないが、毒殺された王や騎士は数え切れないほどにいる。毒が有効であることは事実だ。
(何という冴えたアイデアだろうか。これなら何一つ、危険を冒すことなく、巨大な敵を殺すことが出来るではないか!)
しかしアルゴの興奮が愚かしく思えるほど、ダンテスクはとても冷静な口調で返してきた。
――我々ももちろん、まずその可能性について考えた。しかし無理であろう、敵も用心深い。奴にもかなりの薬の知識があると判断していい。この医師が用意するのは原材料までだ。調合は自ら行っているらしいのだ。それにそれがばれたとき、君の死が確定する。危険な任務となるのだぞ。
(ああ、そうか・・・)
それは当然のことかもしれない。それなりに高名な魔法使いならば、これまで多くの人間を殺してきたはずだし、多くの恨みを買ってきたに違いない。
それでも生き残っているということは、それだけ用心深いからだ。そのような相手に毒殺など通用するはずがない。
そもそも自分には、毒殺など性に合わない。
敵の用心深さについてまるで考慮せず、毒殺などという暗殺法を提案した間抜けさだけではなく、そのような卑怯な作戦を思いついたことまでも恥ずかしくなった。
(そして思わずそんなアイデアにはしゃいでしまったことも。またもや、ダンテスクに馬鹿にされたかもしれない)
――それでは作戦の成功を願っている。連絡はまた明日後日する。
ダンテスクはこれまでと変わらない口調でそう言ってくるが、アルゴはそれを冷静に聞いていられなかった。
(このまま馬鹿にされたままでは悲し過ぎる。絶対にこの任務を成功させてやる)
彼はこんなふうに、決意を新たにする。
(そしてダンテスクを見返したい。この任務を成功させれば、俺への評価は一変するはずだから)
――アルゴ、よくやった。君は大きな仕事をやり遂げた。
ダンテスクがそう言ってくる。この程度で大きな仕事というのは言い過ぎに決まっているが、こうやって健闘を称えられて悪い気持ちはしない。
とにかく仕事が終わったことは事実だ。
本番の戦いはまだ先なので、それまでの間、魔法の訓練に打ち込もうとアルゴは考える。今の実力では、仲間の役に立ちそうにない。
そのための計画が、彼にはあった。
いくつかの戦闘に参加するのだ。一度の戦いの経験もないまま、このような大規模な戦闘に参加するのは、どう考えても無茶である。
報酬は低いが、リスクの低い戦闘の仕事というものが存在する。それをいくつかこなして、場慣れしておくのである。
もしかしたらそのとき、初めて人を殺すこともあるかもしれない。逆にアルゴが傷を負うこともあるかもしれない。しかしそれはとても貴重な経験になるであろう。
――ではもう一つ、重要な仕事を任せたい。敵の魔法使いに会いに行ってもらいたいのだ。
しかしダンテスクの言葉を聞いて、アルゴのその計画は吹き飛んでしまった。
「な、何だって?」
――敵の魔法使いのゲシュタルトも、解析しておかなければ意味がない。彼女を操っただけでは、この作戦は成功しないんだ。君には申し訳ないが、直接、我々の標的となる敵の魔法使いに会って来て欲しい。
「ちょっと待ってくれよ!」
アルゴが文句を言おうとする前に、ダンテスクが返してきた。
――君に危険が及ぶことはない。敵の魔法使いだって、それほど凶暴ではない。近づいてくる魔法使い全てを殺すはずがない。まして君は奴にその身分を明かすことはない。正体を偽って、彼に会えばいいのだ。ただ我々のために有用な情報を入手してもらいたいだけ。
「有用な情報とは?」
言いたいことは他に色々とあったが、アルゴは冷静を装って尋ねた。
――敵の魔法使いのゲシュタルトを正確に、かつ深いところまで読むためには、さっきの女の子のように上手く誘導して、幾つかの言葉を言わせて欲しい。そうやってチューニングを合わせる。
「チューニング?」
ダンテスクと話していると、よくわからない言葉が頻出する。
――敵の魔法使いのゲシュタルトを正確に読むための作業の一つだ。
「わかった。それはよく理解した。それにダンテスク、あんたの魔法は本当に特別だと思う。しかし、どうして俺なんだ? あんたが直接、その魔法使いに会いに行けばいいではないか? それともこのような危険な仕事は、遣いの者にやらせておくという発想なのか」
――その街まで遠い。それに俺には、自由に動き回る時間も余裕もない。
「あんたは優秀な魔法使いだ。あんたが忙しいのも理解した。しかしそれも仕事の一部ではないか?」
――怖がることはないんだ、アルゴ。君に危険が及ぶことは絶対にない。
「別に怖がってはいないさ。ただ単に、あんたが直接赴けばいいのではないか、そう考えているだけだよ!」
――冷静に考えるんだ。敵の魔法使いだってその街で普通に生活している。彼も依頼人と会い、仕事を請け負っているのだ。彼と会うこと自体、何の危険もない。
「だから、それほど簡単な仕事ならば、あんたが行けばいいではないかと俺は言ってるのさ!」
――敵のゲシュタルトを正確に読むことが出来れば、もしかすれば直接戦わずして勝てる可能性も生じる。俺の魔法で、奴の息の根を止められるのだ。そうなれば、君と俺の手柄になる。他に七人の魔法使いが参加する予定だが、我々二人でその手柄を独占出来るかもしれない。君は一夜にして大富豪になるぞ。
(俺の質問に答えずして、利で説得するつもりか)
「わかった」
わかったよ、ダンテスクさん。またもや、俺は彼に呆気なく説得されてしまったようだ。
アルゴは溜息混じりであるが、そう返事した。これ以上、ダンテスクに抵抗をしても時間の無駄だろう。いずれにしろ、彼からの依頼を断ることは出来ないのだ。
それに実際のところ、最初に思ったほど危険な任務でもないような気もする。
ただ会うだけではないか。彼が実はその魔法使いの命を狙っているなんてこと、相手に察知されるはずがない。
アルゴにも好奇心がある。敵の魔法使いという男に、会ってみたくもあった。
九人もの魔法使いが束となって、その男を殺そうというのだ。いったいどれだけの魔法使いなのだろうか? 何だかその男に会うのが楽しみになってきた。
――どのようにしてその敵の魔法使いに近づくか、計画は用意してある。君にはそれに従ってもらうだけだ。
ダンテスクが続けてきた。
「では、その計画を聞かせて欲しい」
――その魔法使いにも弱点がある。とても大きな弱点が。彼には頭痛という持病があるようなのだ。彼はそれを緩和するため、様々な薬草を取り寄せている。彼のため、薬を用立てている医師を突き止めた。君はその医師の助手として、しばらくそこで働いて欲しい。いずれ、その魔法使いは薬のため、その医師の許にやってくるだろう。そのとき医師に代わって、君がその応対をするのだ。怪しまれないため、それなりに薬の知識や技術を学ぶ必要があるかもしれない。
「わかった」
その話しを聞いて、アルゴは更に安心を深めた。このやり方ならば、敵の魔法使いに怪しまれることはないはずだ。
しかしこれでアルゴが立てた計画が潰えたことは確実。戦いの経験を深めるために、他の戦闘に参加する時間はなくなっただろう。
――その医師の心を操り、君を助手として採用したくなるように仕向ける。明日一日、休養をやる。しかし次の日、すぐに現地に向かってもらう。後の指示は、その度に出すつもりだ。そのイヤーカフは外さないように願う。
「了解している」
(薬草か)
幸いにもアルゴは健康で、何一つ持病もない。これまで薬草のお世話になったことはなかった。
とはいえ、新しい知識を吸収するのは嫌いじゃない。むしろアルゴは、魔法使いのような仄暗い職業よりも、医師のような堅実な職業のほうが似合っていたかもしれない。性格、容姿とも、そちらのほうに向いている気がする。
アルゴは医師という職業に思いを馳せながら、そのとき、ふと思いついたことがあった。
――なあ、ダンテスク、彼の薬を調達する立場にあるのならば、そこに毒を混ぜることも可能ではないだろうか?
毒殺である。アルゴの頭にそのようなアイデアがはひらめいたのだ。
古来より、毒殺されたという魔法使いの話しはあまり聞かないが、毒殺された王や騎士は数え切れないほどにいる。毒が有効であることは事実だ。
(何という冴えたアイデアだろうか。これなら何一つ、危険を冒すことなく、巨大な敵を殺すことが出来るではないか!)
しかしアルゴの興奮が愚かしく思えるほど、ダンテスクはとても冷静な口調で返してきた。
――我々ももちろん、まずその可能性について考えた。しかし無理であろう、敵も用心深い。奴にもかなりの薬の知識があると判断していい。この医師が用意するのは原材料までだ。調合は自ら行っているらしいのだ。それにそれがばれたとき、君の死が確定する。危険な任務となるのだぞ。
(ああ、そうか・・・)
それは当然のことかもしれない。それなりに高名な魔法使いならば、これまで多くの人間を殺してきたはずだし、多くの恨みを買ってきたに違いない。
それでも生き残っているということは、それだけ用心深いからだ。そのような相手に毒殺など通用するはずがない。
そもそも自分には、毒殺など性に合わない。
敵の用心深さについてまるで考慮せず、毒殺などという暗殺法を提案した間抜けさだけではなく、そのような卑怯な作戦を思いついたことまでも恥ずかしくなった。
(そして思わずそんなアイデアにはしゃいでしまったことも。またもや、ダンテスクに馬鹿にされたかもしれない)
――それでは作戦の成功を願っている。連絡はまた明日後日する。
ダンテスクはこれまでと変わらない口調でそう言ってくるが、アルゴはそれを冷静に聞いていられなかった。
(このまま馬鹿にされたままでは悲し過ぎる。絶対にこの任務を成功させてやる)
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