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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 17)当然の礼儀にして、人の道
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今度こそ、これでカルファルとはお別れのはずだ。もう彼と顔を合わすことはないだろう。
それはつまり、彼の派手で悪趣味な服装を二度と見ないで済むということであり、彼の嫌味なのか本気なのかわからない際どい話しに惑わされずに済むということであり、彼の女性に対する厚かましい態度を目にしなくて済むということであり、本当に最高なことである。
カルファル、苦手な男だった。彼の言葉と行動で、私は右に左にへと振る舞わされ、精神的に嬲られ続けた気分だ。プラーヌスやアリューシアも、私の精神を疲労させる何かがあるが、その我儘な二人と居るときとは別種の疲労感で身体が重い。
しかし、どこか憎めない男なのである。この先、彼と会うことはないのかと思うと、一致末の寂しさを覚えなくもない、まあ、それはほんの少しだけであるが。
私は昼食を食べるのをすっかり忘れていたようだ。だからといって、もはや食堂まで行って食事をする時間もない。謁見の間でのプラーヌスとの会合の時間が迫っている。
もちろん、プラーヌスだって事情を話せば理解してくれるだろうし、何ならば昼食を食べながら、彼と仕事の話しをすることだって不可能ではない。
しかし私はその疲れた心と身体のまま、謁見の間に向かう。あまりに疲れ果てて、思考能力が低下しているのだ。ただただ、やらなければいけない義務をこなすことだけにしか頭が回らない。
謁見の間は無人であった。プラーヌスもまだ到着していない。いや、プラーヌスは魔法の力で私が来たことを確認してから、その椅子に瞬間移動してくるのであろう。
やはり、そうだ。彼の椅子まであと数歩というところでプラーヌスの姿が現れた。
「おはよう、シャグラン、何か楽しいことがあったのか? まるでスキップするような足取りではないか」
彼は私と目が合うや否や、そんなことを言ってきた。
「プラーヌス、それは嫌味かい? 僕は本当に疲れ果てている。疲労が顔に出ているはずだけど?」
「そうは見えないよ。君はいつだって明日への希望に溢れた表情をしている。そんな君だから僕は好きなんだ」
「ああ、そうかい」
プラーヌスから、本当にそんな私が見えているのだろうか。それとも一切の疲れを見せるなというプラーヌスからの申し渡しかもしれない。いずれにしろ、私はため息をつきながら頷く。
「カルファルが明日にでも、この塔を去りそうだ」
朝の挨拶もそこそこに、私は報告した。「ようやくここを出ることを決心してくれたようだ」
「何だって、カルファルが? それは看過出来ない。上手く引き留めておいてくれ」
「はあ?」
プラーヌスのその言葉に本当に驚かされた。プラーヌスはカルファルを嫌っていたではないか。
彼と顔を合わせれば、二言目には、さっさとこの塔から出ていけと言っていたくらい。それなのに、いったいどういうことだ。
「カルファルを農夫として使うと、君に言ったはずだけど?」
プラーヌスが言ってくる。
「あ、ああ。そういえば言っていたね」
「森の開拓は順調に進んでいるんだろ? それが終われば農地の開墾だ。農作物を育てるとき、カルファルの魔法が役に立つ」
「彼がそのような仕事に興味を持つとも思えないけど」
魔法を使った仕事だとはいえ、土埃にまみれて、雨の日でも寒い日でも、農地に赴いて仕事をしなければいけないなんて、どう考えてもカルファルには不向きな仕事。
「しかし彼はその仕事を勤めなければいけない。それが定めなんだ。寝る場所も提供した。食事も馳走した。この僕から大変な恩義を受けたんだ。何も返すことなく、このまま塔から出られるはずがないではないか」
これが当然の礼儀にして、人の道だと言うように、プラーヌスは一切の迷いも見せずにそう語ってくる。もちろん彼が語る礼儀は、どこか常識と違っていることは言うまでもない。しかしこの塔は彼の塔なのだ。
「カルファルは君に受けた恩義を返すどころか、アリューシアを連れてこの塔を出るつもりのようさ」
「アリューシアを? ほう、僕の知らないところで何が起きているというんだ?」
プラーヌスが本当にその事実を知らなかったのか、それとも知らない振りをしているだけなのか定かではない。しかしそれが演技だとすれば、それなりに板についているかもしれない。
「彼は彼女を自分の妻にするらしい」
「なるほど、ボーアホーブの財産を狙っているわけか。それは困ったことだ。あれほどの財産を手に入れたなら、農夫なんて勤めようとは思わないはずだ。で、アリューシアの返事は?」
「いや、別に財産だけが狙いというわけでもなさそうだ。アリューシアは揺れている。真剣に検討しているようさ。だって彼女は君からの課題をクリアー出来そうにない。アリューシアが直面している選択肢はこの二つさ。カルファルと一緒に塔を出るか、それとも独りで、君に塔を追い出されるか。いずれにしろ、この塔を出ざるを得ない、だとすれば前者を選ぶかもしれない」
「なるほど、君の言う通りかもしれない。仕方がない。二人が塔を出るのを見送ることにしようか」
「え? 彼を農夫として使うつもりだったんだろ? それはもういいのかい?」
「もういいさ」
プラーヌスはアリューシアにもカルファルにも興味を失ったといった態度で、あくび混じりに言う。
それはつまり、彼の派手で悪趣味な服装を二度と見ないで済むということであり、彼の嫌味なのか本気なのかわからない際どい話しに惑わされずに済むということであり、彼の女性に対する厚かましい態度を目にしなくて済むということであり、本当に最高なことである。
カルファル、苦手な男だった。彼の言葉と行動で、私は右に左にへと振る舞わされ、精神的に嬲られ続けた気分だ。プラーヌスやアリューシアも、私の精神を疲労させる何かがあるが、その我儘な二人と居るときとは別種の疲労感で身体が重い。
しかし、どこか憎めない男なのである。この先、彼と会うことはないのかと思うと、一致末の寂しさを覚えなくもない、まあ、それはほんの少しだけであるが。
私は昼食を食べるのをすっかり忘れていたようだ。だからといって、もはや食堂まで行って食事をする時間もない。謁見の間でのプラーヌスとの会合の時間が迫っている。
もちろん、プラーヌスだって事情を話せば理解してくれるだろうし、何ならば昼食を食べながら、彼と仕事の話しをすることだって不可能ではない。
しかし私はその疲れた心と身体のまま、謁見の間に向かう。あまりに疲れ果てて、思考能力が低下しているのだ。ただただ、やらなければいけない義務をこなすことだけにしか頭が回らない。
謁見の間は無人であった。プラーヌスもまだ到着していない。いや、プラーヌスは魔法の力で私が来たことを確認してから、その椅子に瞬間移動してくるのであろう。
やはり、そうだ。彼の椅子まであと数歩というところでプラーヌスの姿が現れた。
「おはよう、シャグラン、何か楽しいことがあったのか? まるでスキップするような足取りではないか」
彼は私と目が合うや否や、そんなことを言ってきた。
「プラーヌス、それは嫌味かい? 僕は本当に疲れ果てている。疲労が顔に出ているはずだけど?」
「そうは見えないよ。君はいつだって明日への希望に溢れた表情をしている。そんな君だから僕は好きなんだ」
「ああ、そうかい」
プラーヌスから、本当にそんな私が見えているのだろうか。それとも一切の疲れを見せるなというプラーヌスからの申し渡しかもしれない。いずれにしろ、私はため息をつきながら頷く。
「カルファルが明日にでも、この塔を去りそうだ」
朝の挨拶もそこそこに、私は報告した。「ようやくここを出ることを決心してくれたようだ」
「何だって、カルファルが? それは看過出来ない。上手く引き留めておいてくれ」
「はあ?」
プラーヌスのその言葉に本当に驚かされた。プラーヌスはカルファルを嫌っていたではないか。
彼と顔を合わせれば、二言目には、さっさとこの塔から出ていけと言っていたくらい。それなのに、いったいどういうことだ。
「カルファルを農夫として使うと、君に言ったはずだけど?」
プラーヌスが言ってくる。
「あ、ああ。そういえば言っていたね」
「森の開拓は順調に進んでいるんだろ? それが終われば農地の開墾だ。農作物を育てるとき、カルファルの魔法が役に立つ」
「彼がそのような仕事に興味を持つとも思えないけど」
魔法を使った仕事だとはいえ、土埃にまみれて、雨の日でも寒い日でも、農地に赴いて仕事をしなければいけないなんて、どう考えてもカルファルには不向きな仕事。
「しかし彼はその仕事を勤めなければいけない。それが定めなんだ。寝る場所も提供した。食事も馳走した。この僕から大変な恩義を受けたんだ。何も返すことなく、このまま塔から出られるはずがないではないか」
これが当然の礼儀にして、人の道だと言うように、プラーヌスは一切の迷いも見せずにそう語ってくる。もちろん彼が語る礼儀は、どこか常識と違っていることは言うまでもない。しかしこの塔は彼の塔なのだ。
「カルファルは君に受けた恩義を返すどころか、アリューシアを連れてこの塔を出るつもりのようさ」
「アリューシアを? ほう、僕の知らないところで何が起きているというんだ?」
プラーヌスが本当にその事実を知らなかったのか、それとも知らない振りをしているだけなのか定かではない。しかしそれが演技だとすれば、それなりに板についているかもしれない。
「彼は彼女を自分の妻にするらしい」
「なるほど、ボーアホーブの財産を狙っているわけか。それは困ったことだ。あれほどの財産を手に入れたなら、農夫なんて勤めようとは思わないはずだ。で、アリューシアの返事は?」
「いや、別に財産だけが狙いというわけでもなさそうだ。アリューシアは揺れている。真剣に検討しているようさ。だって彼女は君からの課題をクリアー出来そうにない。アリューシアが直面している選択肢はこの二つさ。カルファルと一緒に塔を出るか、それとも独りで、君に塔を追い出されるか。いずれにしろ、この塔を出ざるを得ない、だとすれば前者を選ぶかもしれない」
「なるほど、君の言う通りかもしれない。仕方がない。二人が塔を出るのを見送ることにしようか」
「え? 彼を農夫として使うつもりだったんだろ? それはもういいのかい?」
「もういいさ」
プラーヌスはアリューシアにもカルファルにも興味を失ったといった態度で、あくび混じりに言う。
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