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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 26)オオツノオオカミが
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部屋の空気は引き締まっている。それを引き締めているのはバルザ殿の存在だ。その眼差しで、態度で、キリリと、限界まで強く。まるで隣国との戦争に挑む前の、重要な軍議会議に臨席しているような気にさせられる。
しかしこれは別に嫌な感じではない。私は自分が偉い高官にでもなったようで、少し良い気分なのだ。
「これからこの会合に、スザンナを参加させたいと思います」
バルザ殿は言われた。
「彼女は昨日、我が部隊に合流したばかりですが、もっともその役に適任と判断しました」
「は、はい、受けたまわりました」
プラーヌスが街で適当に雇った、傭兵とは名ばかりのゴロツキや、この塔の住人の中の力自慢が集まっているだけ。これがバルザ殿の部隊の実態だ。
バルザ殿の指導で、皆が見間違えるように優秀な兵士になったかもしれないが、そもそも読み書きも出来ないような者ばかり。
そのような者たちと比べると、スザンナは自らの傭兵部隊を率いる責任者。学もあり、経験も豊か。すぐさま副官に抜擢されるのも当然なのかもしれない。
彼女もその役割を勤めることに不満はないようだ。むしろ誇らしげな表情で、バルザ殿の隣に立っている。彼女もすっかりバルザ殿人柄に魅了されたのかもしれない。
「スザンナは僕が街でスカウトした傭兵です。バルザ殿に評価していただき嬉しい限りです」
バルザ殿はコクリと頷いて、私の仕事を認めてくれる。それだけで私は嬉しさのあまり涙ぐみそうになる。バルザ殿はそういう御方。その眼差しだけで、全てが報われた想いがするのである。
「ところで森林開拓についてですが、基本的には順調に進んでいます。伐採した樹木の質も良く、その土地も肥沃。きっと豊かな農耕地になるでしょう。しかし一つだけ問題があります」
バルザ殿はさっそく、本題に入られた。
「問題ですか?」
「はい、狼たちに殺された部下がいます。オオツノオオカミです。どうやら我々のせいで森の秩序が狂ってしまったよう。森の境界辺りに住んでいた小動物たちは森の外に逃げ、オオツノオオカミたちがそれを追いかけるようにして、こちら側に現れた」
「オオツノオオカミが!」
オオツノオオカミほど恐ろしい生き物は存在しない。一匹一匹は小柄であるが、とても凶暴で、大集団で行動して、飢えていなくても、獲物に襲い掛かる。
奴らに追い掛けられると逃げ切ることは出来ない。噛みつかれ、肉を食われ、骨までしゃぶられる。これほどに恐ろしい生き物なのに、我々の身近に出没する猛獣。
「そ、それは大問題です。どう対処しましょう」
オオツノオオカミが出没するとなると、森林開拓の事業は少し危険な土木工事なんかではなくなって、その日、無事に生きて帰ることが出来るかわからない命懸けの仕事となってしまう。この仕事に携わる者たちの動揺は大きいだろう。
「はい、オオツノオオカミ対策にそれなりの人数を割く必要があります。具体的に言えば、作業中に見張りの数を増やし、常に武装している兵を配備するということ。そちらに人数を取られ、森の仕事の進捗が遅れてしまうということです」
当然、バルザ殿はその対処法も考えておられたよう。よどみなく、私に語ってこられる。
「そうですね」
「その事実を、塔の主にご理解して頂きたい」
森に住むオオツノオオカミを根絶やしにすることなんて不可能だろう。それは魔法使いプラーヌスにだって成し得ないこと。
こちらが出来ることは、我々の前に現れたオオツノオオカミの群れに、イチイチ対処していくだけ。それ以外に方法はない。
「森の王が嘆いている、そういうことらしいです」
バルザ殿がふと、そのような言葉を漏らされた。
「な、何ですか、それは?」
「森の奥のどこか、この森を統べる大木があるのです。その大木こそ森の王。何の断りもなく森を犯し始めた我々に、森の王は不興を覚えている。出来ることならば、我々は森の王に挨拶に行かなければいけない」
「そ、それはいったい?」
この言葉に驚いたのは私だけではない。バルザ殿の話しに黙って耳を傾けていたサンチーヌたち、アビュですら静かにざわついた。バルザ殿ともあろう方が、いったい何を言われるのか、そのような驚きだ。
「伝説、迷信。さあ、わかりませぬ。部下の一人が言っておったのです。森の王が怒り、我々に死を運ぶ狼を差し向けてきたと」
「ああ、そういうことですか」
「本当にそのような大木があり、話しが通じるのならば簡単ですが、実際のところ、そうはいかない。我々は地道にオオツノオオカミと戦わなければいけない」
確かに森に人格があれば、我々に怒りしか感じないことであろう。突然、こちらの都合だけで森を切り払い、田畑にしようとしてくるのである。オオツノオオカミを差し向けて、我々を懲らしめたくなるのも理解出来る。
しかし私たちはそれを跳ね返し、森を開拓していかなければいけない。それがプラーヌスの命令だから。
というのも大きな理由ではある。プラーヌスが望まなければ、私自身はこのような大変なことに手を出しはしない。
とはいえ、こうやって森を切り払い、食料のために田畑を開拓する、それが私にとって生きるということでもある。それも事実なのだ。
安定的に食料を生産するためには、やり遂げなければいけない事業なのだと思う。
しかしこれは別に嫌な感じではない。私は自分が偉い高官にでもなったようで、少し良い気分なのだ。
「これからこの会合に、スザンナを参加させたいと思います」
バルザ殿は言われた。
「彼女は昨日、我が部隊に合流したばかりですが、もっともその役に適任と判断しました」
「は、はい、受けたまわりました」
プラーヌスが街で適当に雇った、傭兵とは名ばかりのゴロツキや、この塔の住人の中の力自慢が集まっているだけ。これがバルザ殿の部隊の実態だ。
バルザ殿の指導で、皆が見間違えるように優秀な兵士になったかもしれないが、そもそも読み書きも出来ないような者ばかり。
そのような者たちと比べると、スザンナは自らの傭兵部隊を率いる責任者。学もあり、経験も豊か。すぐさま副官に抜擢されるのも当然なのかもしれない。
彼女もその役割を勤めることに不満はないようだ。むしろ誇らしげな表情で、バルザ殿の隣に立っている。彼女もすっかりバルザ殿人柄に魅了されたのかもしれない。
「スザンナは僕が街でスカウトした傭兵です。バルザ殿に評価していただき嬉しい限りです」
バルザ殿はコクリと頷いて、私の仕事を認めてくれる。それだけで私は嬉しさのあまり涙ぐみそうになる。バルザ殿はそういう御方。その眼差しだけで、全てが報われた想いがするのである。
「ところで森林開拓についてですが、基本的には順調に進んでいます。伐採した樹木の質も良く、その土地も肥沃。きっと豊かな農耕地になるでしょう。しかし一つだけ問題があります」
バルザ殿はさっそく、本題に入られた。
「問題ですか?」
「はい、狼たちに殺された部下がいます。オオツノオオカミです。どうやら我々のせいで森の秩序が狂ってしまったよう。森の境界辺りに住んでいた小動物たちは森の外に逃げ、オオツノオオカミたちがそれを追いかけるようにして、こちら側に現れた」
「オオツノオオカミが!」
オオツノオオカミほど恐ろしい生き物は存在しない。一匹一匹は小柄であるが、とても凶暴で、大集団で行動して、飢えていなくても、獲物に襲い掛かる。
奴らに追い掛けられると逃げ切ることは出来ない。噛みつかれ、肉を食われ、骨までしゃぶられる。これほどに恐ろしい生き物なのに、我々の身近に出没する猛獣。
「そ、それは大問題です。どう対処しましょう」
オオツノオオカミが出没するとなると、森林開拓の事業は少し危険な土木工事なんかではなくなって、その日、無事に生きて帰ることが出来るかわからない命懸けの仕事となってしまう。この仕事に携わる者たちの動揺は大きいだろう。
「はい、オオツノオオカミ対策にそれなりの人数を割く必要があります。具体的に言えば、作業中に見張りの数を増やし、常に武装している兵を配備するということ。そちらに人数を取られ、森の仕事の進捗が遅れてしまうということです」
当然、バルザ殿はその対処法も考えておられたよう。よどみなく、私に語ってこられる。
「そうですね」
「その事実を、塔の主にご理解して頂きたい」
森に住むオオツノオオカミを根絶やしにすることなんて不可能だろう。それは魔法使いプラーヌスにだって成し得ないこと。
こちらが出来ることは、我々の前に現れたオオツノオオカミの群れに、イチイチ対処していくだけ。それ以外に方法はない。
「森の王が嘆いている、そういうことらしいです」
バルザ殿がふと、そのような言葉を漏らされた。
「な、何ですか、それは?」
「森の奥のどこか、この森を統べる大木があるのです。その大木こそ森の王。何の断りもなく森を犯し始めた我々に、森の王は不興を覚えている。出来ることならば、我々は森の王に挨拶に行かなければいけない」
「そ、それはいったい?」
この言葉に驚いたのは私だけではない。バルザ殿の話しに黙って耳を傾けていたサンチーヌたち、アビュですら静かにざわついた。バルザ殿ともあろう方が、いったい何を言われるのか、そのような驚きだ。
「伝説、迷信。さあ、わかりませぬ。部下の一人が言っておったのです。森の王が怒り、我々に死を運ぶ狼を差し向けてきたと」
「ああ、そういうことですか」
「本当にそのような大木があり、話しが通じるのならば簡単ですが、実際のところ、そうはいかない。我々は地道にオオツノオオカミと戦わなければいけない」
確かに森に人格があれば、我々に怒りしか感じないことであろう。突然、こちらの都合だけで森を切り払い、田畑にしようとしてくるのである。オオツノオオカミを差し向けて、我々を懲らしめたくなるのも理解出来る。
しかし私たちはそれを跳ね返し、森を開拓していかなければいけない。それがプラーヌスの命令だから。
というのも大きな理由ではある。プラーヌスが望まなければ、私自身はこのような大変なことに手を出しはしない。
とはいえ、こうやって森を切り払い、食料のために田畑を開拓する、それが私にとって生きるということでもある。それも事実なのだ。
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