灰墟になった地方都市でペストコントロールやってます 世界に必要な3つのこと (仮)

@taka29

文字の大きさ
25 / 58
2.5 side note

ex2#前編

しおりを挟む
さっきは起こしちゃってゴメンね……じゃあ、行ってきま~す」
「いってらっしゃいませ、クロエ様。これは大切にに使わせて頂ます」
そう言ってワカはカードをパジャマのポケットに入れた。
ガチャン、重い玄関ドアの閉じる音。あの子が出かけて行った。まるで自身の影を追いかける如く不毛なイタチごっこを繰り返すために。

(……やれやれ)
わたしはため息をひとつ吐き
「うえ~ん、クロエさんが仕事に行っちゃったよ~、ワカおうちに一人は怖いよ~」
とりあえず無意味に薄っぺらい泣き真似をしてみる。
(…………)
うん、設定年齢が下過ぎたかな?……というか、そもそもわたし、別に寂しくないし。
わたしはリビングに引き返すとテレビのスイッチを入れた。
適当にチャンネルを変えていくけど、今日に限ってどこの番組も似たようなニュースばかりだ。
『先日発生した○○市における連続放火事件において、犯人と思われる男が逮捕されました』
『今月に入り××市で起きた一家心中事件の容疑者として逮捕された女は、警察の調べに対し、犯行を認めた上で、「この世に生を受けたことが間違いだったのだ」などと意味不明な供述をしており―――』
(面白い要素がひとつも見当たらないな……)
冷蔵庫からあの子の飲みさしのリンゴジュースを取り出しコップに注ぐ。一口飲んでみる。うん、さっぱりして美味しい。
再びチャンネルを変える。今度はニュース番組が映っている。キャスターが何か喋っている。どうやら新しい法案が成立したらしい。
(……)
まったく興味ない。わたしはリモコンを置く。そして今朝あの子が掃除したソファに寝転ぶ。クッションを抱き枕代わりにする。
(このクッションもちもちで気持ちいいなぁ……)
いきなりで恐縮だが、わたしがあの子に名乗った名前は、アンザガワ・ワカは偽名だ。本当の名前は違う。わたしの名前は―――
(……そうだ)
そういえば、あの子から
『これを渡しておこう 退屈で苦痛に耐えられぬ時使うがよい』
なんて言われて渡されたものがあったっけ。何だろう? わたしはその小さな紙袋を開ける。すると中には――
『ワカちゃんへ 日中クロエさんがお仕事に出ている間、滅茶苦茶暇だと思うので、これあげる。良かったら作ってみてね。ボトルを切ったり難しい道具を使わなくても出来るんだよ。楽しんでね。クロエより』
……ボトルシップの組立キット?しかも手作りっぽい。
えっと……これは、つまり、アレか。わたしのためにわざわざ用意してくれたということか。
(うひゃー……)
正直ちょっと引く。わたしのためにそこまでしてくれるとか、いくらなんでもやり過ぎ感がある。正直重いわ。まだ出会って一日の家出風少女にここまでされるとか、わたしはいったいどういう風に思われているんだろう。普通なら引いてドン引きドドン引きしているところだけど……。
(……)
わたしは紙袋をダイニングテーブルに置いて中身を広げる。少し楽しくなってきた。こういう作業って嫌いじゃない。
紙袋の中には手書きの組み立て説明書(怖い……)、ガラスのビンと接着剤。それからピンセットとハサミ、細い糸。後は細かいパーツ類と厚紙が入ってる。
「……あれ?」
船の部品がもう出来上がって色が塗ってある……ということは、あの子は昨晩のうちにこの状態まで手を入れてたのか
。凄いな……。
説明書には船の名前も書いてあった。『大型連休号』だって。大型連休かよ。あの子のネーミングセンスはどこかおかしいと思う。まあそれはともかく。
まずは接着剤を使って船の本体を組み立てる
(こう……か?)
何故か指に接着剤がついてガビガビになる。
(うゎ……)
でも大丈夫、こんなことくらい想定済みだ。わたしは予め用意したティッシュペーパーで手を拭くと、また作業に戻る。
説明書を見ながらパーツを切り取り貼りつけていく。この辺までは特に問題なし。

次はセイルの部分だ。このセイル、一番複雑そうに見えるが、実はそれほどでもない。というか、むしろ簡単だ。寸法さえ間違えなければ小学生にだって作れるレベルだ。
まず、あの子の引いたセイルの型紙に添って厚紙をハサミで切り抜いていく。
(三角形の方が前のセイル、四角っぽいのは後ろか……)
後は三角形の斜め辺(斜辺というらしい。説明書に書いてあった)に切り揃えた木綿糸を『二つ』折りにしてボンドで接着。後ろのセイルは向かって正面の角、真後ろ1/3より少し少なめ二箇所、ボンドを塗りすぎないように……と、はい、出来た。

次にわたしは、セイルの帆桁(ほげた)に取りかかる『帆桁(ほげた)』とは、セイルの上や下の辺に入れる支柱のことだ。この船では後ろのセイルに取り付ける……らしい。あの子の指示通り白く塗られた爪楊枝をカットして……あっ、切り過ぎた!……と思ったけどこれ大丈夫か……危ない危ない。カットした帆桁(ほげた)をセイルに
張り付ける。
帆桁は気持ち長め、はみ出させるのがコツだ(……あの子のお尻みたいに)
「……よし!いい感じ」
どうやら上手く行ったようだ。これでセイルを張ることが出来る。

わたしは更にあの子の手書き説明書を眺める。もしもわたしが吸血鬼だったら目から発射したビームで紙に穴が空いていたかもしれない。
(ふむふむ)
なになに……『マストの作り方』?
「えっと……」
毎度お馴染み、白く塗られたようじを取り出す。これがマストです。
但このマスト用のようじは根本が薄く削られて溝が入っています、重要な部品なので間違えないように。と注意書きがある。
(……用心します)
用意できたら、マストの真ん中より少し上に木綿糸をしっかり結びつけます。
(はい、ここね)
結び終わったら、糸がずれないようにボンドをつけます。
(ボンドはつけすぎないのがコツ……と)
最後にマストの根元の溝に適当な長さに切った金属線を当ててセロテープで巻いてください。テープは二回巻いて固定するのがコツです。
(ふ~ん……なるほど)
わたしは言われた通りにやってみる。
するとどうでしょう。小振りだが立派なマストが完成です。
(おお!)
わたしは思わず声を上げる。
(すごい……)
本当に自分で作ったんだ。パーツははあの子が用意てくれたものだけど、わたしが作ったんだ。そう思うとなんだか嬉しくなってくる。
「よーし、じゃあ次行ってみよー」
わたしは気合いを入れるようにそう言うと、次の工程に移る。
最後はマストにセイルを結びつけます。
前後のセイルがどちらもずれないように結び目に少しボンドを塗って、乾いたら余分な糸を慎重に切ってください、これでマストの完成です。
(ほい完成……っと)
テレビでは緊急速報のテロップが流れはじめた。数日前から行方不明だった男子高校生が廃都市の『駅前』で発見されたらしい。
(そういえばあの子今頃、何やってんだろ……)
わたしがそんなとりとめのないことを考え始めたとき、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。
(なんだよ……驚かすなっての!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...