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2.5 side note
ex2#前編
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さっきは起こしちゃってゴメンね……じゃあ、行ってきま~す」
「いってらっしゃいませ、クロエ様。これは大切にに使わせて頂ます」
そう言ってワカはカードをパジャマのポケットに入れた。
ガチャン、重い玄関ドアの閉じる音。あの子が出かけて行った。まるで自身の影を追いかける如く不毛なイタチごっこを繰り返すために。
(……やれやれ)
わたしはため息をひとつ吐き
「うえ~ん、クロエさんが仕事に行っちゃったよ~、ワカおうちに一人は怖いよ~」
とりあえず無意味に薄っぺらい泣き真似をしてみる。
(…………)
うん、設定年齢が下過ぎたかな?……というか、そもそもわたし、別に寂しくないし。
わたしはリビングに引き返すとテレビのスイッチを入れた。
適当にチャンネルを変えていくけど、今日に限ってどこの番組も似たようなニュースばかりだ。
『先日発生した○○市における連続放火事件において、犯人と思われる男が逮捕されました』
『今月に入り××市で起きた一家心中事件の容疑者として逮捕された女は、警察の調べに対し、犯行を認めた上で、「この世に生を受けたことが間違いだったのだ」などと意味不明な供述をしており―――』
(面白い要素がひとつも見当たらないな……)
冷蔵庫からあの子の飲みさしのリンゴジュースを取り出しコップに注ぐ。一口飲んでみる。うん、さっぱりして美味しい。
再びチャンネルを変える。今度はニュース番組が映っている。キャスターが何か喋っている。どうやら新しい法案が成立したらしい。
(……)
まったく興味ない。わたしはリモコンを置く。そして今朝あの子が掃除したソファに寝転ぶ。クッションを抱き枕代わりにする。
(このクッションもちもちで気持ちいいなぁ……)
いきなりで恐縮だが、わたしがあの子に名乗った名前は、アンザガワ・ワカは偽名だ。本当の名前は違う。わたしの名前は―――
(……そうだ)
そういえば、あの子から
『これを渡しておこう 退屈で苦痛に耐えられぬ時使うがよい』
なんて言われて渡されたものがあったっけ。何だろう? わたしはその小さな紙袋を開ける。すると中には――
『ワカちゃんへ 日中クロエさんがお仕事に出ている間、滅茶苦茶暇だと思うので、これあげる。良かったら作ってみてね。ボトルを切ったり難しい道具を使わなくても出来るんだよ。楽しんでね。クロエより』
……ボトルシップの組立キット?しかも手作りっぽい。
えっと……これは、つまり、アレか。わたしのためにわざわざ用意してくれたということか。
(うひゃー……)
正直ちょっと引く。わたしのためにそこまでしてくれるとか、いくらなんでもやり過ぎ感がある。正直重いわ。まだ出会って一日の家出風少女にここまでされるとか、わたしはいったいどういう風に思われているんだろう。普通なら引いてドン引きドドン引きしているところだけど……。
(……)
わたしは紙袋をダイニングテーブルに置いて中身を広げる。少し楽しくなってきた。こういう作業って嫌いじゃない。
紙袋の中には手書きの組み立て説明書(怖い……)、ガラスのビンと接着剤。それからピンセットとハサミ、細い糸。後は細かいパーツ類と厚紙が入ってる。
「……あれ?」
船の部品がもう出来上がって色が塗ってある……ということは、あの子は昨晩のうちにこの状態まで手を入れてたのか
。凄いな……。
説明書には船の名前も書いてあった。『大型連休号』だって。大型連休かよ。あの子のネーミングセンスはどこかおかしいと思う。まあそれはともかく。
まずは接着剤を使って船の本体を組み立てる
(こう……か?)
何故か指に接着剤がついてガビガビになる。
(うゎ……)
でも大丈夫、こんなことくらい想定済みだ。わたしは予め用意したティッシュペーパーで手を拭くと、また作業に戻る。
説明書を見ながらパーツを切り取り貼りつけていく。この辺までは特に問題なし。
次はセイルの部分だ。このセイル、一番複雑そうに見えるが、実はそれほどでもない。というか、むしろ簡単だ。寸法さえ間違えなければ小学生にだって作れるレベルだ。
まず、あの子の引いたセイルの型紙に添って厚紙をハサミで切り抜いていく。
(三角形の方が前のセイル、四角っぽいのは後ろか……)
後は三角形の斜め辺(斜辺というらしい。説明書に書いてあった)に切り揃えた木綿糸を『二つ』折りにしてボンドで接着。後ろのセイルは向かって正面の角、真後ろ1/3より少し少なめ二箇所、ボンドを塗りすぎないように……と、はい、出来た。
次にわたしは、セイルの帆桁(ほげた)に取りかかる『帆桁(ほげた)』とは、セイルの上や下の辺に入れる支柱のことだ。この船では後ろのセイルに取り付ける……らしい。あの子の指示通り白く塗られた爪楊枝をカットして……あっ、切り過ぎた!……と思ったけどこれ大丈夫か……危ない危ない。カットした帆桁(ほげた)をセイルに
張り付ける。
帆桁は気持ち長め、はみ出させるのがコツだ(……あの子のお尻みたいに)
「……よし!いい感じ」
どうやら上手く行ったようだ。これでセイルを張ることが出来る。
わたしは更にあの子の手書き説明書を眺める。もしもわたしが吸血鬼だったら目から発射したビームで紙に穴が空いていたかもしれない。
(ふむふむ)
なになに……『マストの作り方』?
「えっと……」
毎度お馴染み、白く塗られたようじを取り出す。これがマストです。
但このマスト用のようじは根本が薄く削られて溝が入っています、重要な部品なので間違えないように。と注意書きがある。
(……用心します)
用意できたら、マストの真ん中より少し上に木綿糸をしっかり結びつけます。
(はい、ここね)
結び終わったら、糸がずれないようにボンドをつけます。
(ボンドはつけすぎないのがコツ……と)
最後にマストの根元の溝に適当な長さに切った金属線を当ててセロテープで巻いてください。テープは二回巻いて固定するのがコツです。
(ふ~ん……なるほど)
わたしは言われた通りにやってみる。
するとどうでしょう。小振りだが立派なマストが完成です。
(おお!)
わたしは思わず声を上げる。
(すごい……)
本当に自分で作ったんだ。パーツははあの子が用意てくれたものだけど、わたしが作ったんだ。そう思うとなんだか嬉しくなってくる。
「よーし、じゃあ次行ってみよー」
わたしは気合いを入れるようにそう言うと、次の工程に移る。
最後はマストにセイルを結びつけます。
前後のセイルがどちらもずれないように結び目に少しボンドを塗って、乾いたら余分な糸を慎重に切ってください、これでマストの完成です。
(ほい完成……っと)
テレビでは緊急速報のテロップが流れはじめた。数日前から行方不明だった男子高校生が廃都市の『駅前』で発見されたらしい。
(そういえばあの子今頃、何やってんだろ……)
わたしがそんなとりとめのないことを考え始めたとき、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。
(なんだよ……驚かすなっての!)
「いってらっしゃいませ、クロエ様。これは大切にに使わせて頂ます」
そう言ってワカはカードをパジャマのポケットに入れた。
ガチャン、重い玄関ドアの閉じる音。あの子が出かけて行った。まるで自身の影を追いかける如く不毛なイタチごっこを繰り返すために。
(……やれやれ)
わたしはため息をひとつ吐き
「うえ~ん、クロエさんが仕事に行っちゃったよ~、ワカおうちに一人は怖いよ~」
とりあえず無意味に薄っぺらい泣き真似をしてみる。
(…………)
うん、設定年齢が下過ぎたかな?……というか、そもそもわたし、別に寂しくないし。
わたしはリビングに引き返すとテレビのスイッチを入れた。
適当にチャンネルを変えていくけど、今日に限ってどこの番組も似たようなニュースばかりだ。
『先日発生した○○市における連続放火事件において、犯人と思われる男が逮捕されました』
『今月に入り××市で起きた一家心中事件の容疑者として逮捕された女は、警察の調べに対し、犯行を認めた上で、「この世に生を受けたことが間違いだったのだ」などと意味不明な供述をしており―――』
(面白い要素がひとつも見当たらないな……)
冷蔵庫からあの子の飲みさしのリンゴジュースを取り出しコップに注ぐ。一口飲んでみる。うん、さっぱりして美味しい。
再びチャンネルを変える。今度はニュース番組が映っている。キャスターが何か喋っている。どうやら新しい法案が成立したらしい。
(……)
まったく興味ない。わたしはリモコンを置く。そして今朝あの子が掃除したソファに寝転ぶ。クッションを抱き枕代わりにする。
(このクッションもちもちで気持ちいいなぁ……)
いきなりで恐縮だが、わたしがあの子に名乗った名前は、アンザガワ・ワカは偽名だ。本当の名前は違う。わたしの名前は―――
(……そうだ)
そういえば、あの子から
『これを渡しておこう 退屈で苦痛に耐えられぬ時使うがよい』
なんて言われて渡されたものがあったっけ。何だろう? わたしはその小さな紙袋を開ける。すると中には――
『ワカちゃんへ 日中クロエさんがお仕事に出ている間、滅茶苦茶暇だと思うので、これあげる。良かったら作ってみてね。ボトルを切ったり難しい道具を使わなくても出来るんだよ。楽しんでね。クロエより』
……ボトルシップの組立キット?しかも手作りっぽい。
えっと……これは、つまり、アレか。わたしのためにわざわざ用意してくれたということか。
(うひゃー……)
正直ちょっと引く。わたしのためにそこまでしてくれるとか、いくらなんでもやり過ぎ感がある。正直重いわ。まだ出会って一日の家出風少女にここまでされるとか、わたしはいったいどういう風に思われているんだろう。普通なら引いてドン引きドドン引きしているところだけど……。
(……)
わたしは紙袋をダイニングテーブルに置いて中身を広げる。少し楽しくなってきた。こういう作業って嫌いじゃない。
紙袋の中には手書きの組み立て説明書(怖い……)、ガラスのビンと接着剤。それからピンセットとハサミ、細い糸。後は細かいパーツ類と厚紙が入ってる。
「……あれ?」
船の部品がもう出来上がって色が塗ってある……ということは、あの子は昨晩のうちにこの状態まで手を入れてたのか
。凄いな……。
説明書には船の名前も書いてあった。『大型連休号』だって。大型連休かよ。あの子のネーミングセンスはどこかおかしいと思う。まあそれはともかく。
まずは接着剤を使って船の本体を組み立てる
(こう……か?)
何故か指に接着剤がついてガビガビになる。
(うゎ……)
でも大丈夫、こんなことくらい想定済みだ。わたしは予め用意したティッシュペーパーで手を拭くと、また作業に戻る。
説明書を見ながらパーツを切り取り貼りつけていく。この辺までは特に問題なし。
次はセイルの部分だ。このセイル、一番複雑そうに見えるが、実はそれほどでもない。というか、むしろ簡単だ。寸法さえ間違えなければ小学生にだって作れるレベルだ。
まず、あの子の引いたセイルの型紙に添って厚紙をハサミで切り抜いていく。
(三角形の方が前のセイル、四角っぽいのは後ろか……)
後は三角形の斜め辺(斜辺というらしい。説明書に書いてあった)に切り揃えた木綿糸を『二つ』折りにしてボンドで接着。後ろのセイルは向かって正面の角、真後ろ1/3より少し少なめ二箇所、ボンドを塗りすぎないように……と、はい、出来た。
次にわたしは、セイルの帆桁(ほげた)に取りかかる『帆桁(ほげた)』とは、セイルの上や下の辺に入れる支柱のことだ。この船では後ろのセイルに取り付ける……らしい。あの子の指示通り白く塗られた爪楊枝をカットして……あっ、切り過ぎた!……と思ったけどこれ大丈夫か……危ない危ない。カットした帆桁(ほげた)をセイルに
張り付ける。
帆桁は気持ち長め、はみ出させるのがコツだ(……あの子のお尻みたいに)
「……よし!いい感じ」
どうやら上手く行ったようだ。これでセイルを張ることが出来る。
わたしは更にあの子の手書き説明書を眺める。もしもわたしが吸血鬼だったら目から発射したビームで紙に穴が空いていたかもしれない。
(ふむふむ)
なになに……『マストの作り方』?
「えっと……」
毎度お馴染み、白く塗られたようじを取り出す。これがマストです。
但このマスト用のようじは根本が薄く削られて溝が入っています、重要な部品なので間違えないように。と注意書きがある。
(……用心します)
用意できたら、マストの真ん中より少し上に木綿糸をしっかり結びつけます。
(はい、ここね)
結び終わったら、糸がずれないようにボンドをつけます。
(ボンドはつけすぎないのがコツ……と)
最後にマストの根元の溝に適当な長さに切った金属線を当ててセロテープで巻いてください。テープは二回巻いて固定するのがコツです。
(ふ~ん……なるほど)
わたしは言われた通りにやってみる。
するとどうでしょう。小振りだが立派なマストが完成です。
(おお!)
わたしは思わず声を上げる。
(すごい……)
本当に自分で作ったんだ。パーツははあの子が用意てくれたものだけど、わたしが作ったんだ。そう思うとなんだか嬉しくなってくる。
「よーし、じゃあ次行ってみよー」
わたしは気合いを入れるようにそう言うと、次の工程に移る。
最後はマストにセイルを結びつけます。
前後のセイルがどちらもずれないように結び目に少しボンドを塗って、乾いたら余分な糸を慎重に切ってください、これでマストの完成です。
(ほい完成……っと)
テレビでは緊急速報のテロップが流れはじめた。数日前から行方不明だった男子高校生が廃都市の『駅前』で発見されたらしい。
(そういえばあの子今頃、何やってんだろ……)
わたしがそんなとりとめのないことを考え始めたとき、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。
(なんだよ……驚かすなっての!)
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