灰墟になった地方都市でペストコントロールやってます 世界に必要な3つのこと (仮)

@taka29

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3 二つの影

#1α

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日もとっぷり暮れた廃都市は真っ黒に近い濃い藍色に包まれていた。
都市の周囲には薄い光の壁が突き立っている。結界の中は薄ぼんやりと明るい。何の変哲もない風景。
地下深く埋設られた拡散阻害装置、通称『結界』が今夜も咳き込むように光を揺らめかせながら景気よくクレベーを撒き散らしている。本来ここは人間が来る空間ではないのだ。
ビシャーーーン!!
その一角で突如、遠雷を何千万倍にもしたような轟音が鳴り響いた。
「シアちゃぁあああん!」
「……エミサン そんなに大声出さないで下さい 兄上が怯えマス」
港から戻ってきた『ランナー』とマツムラ兄妹の兄が結界に体当たりを掛けたのだ。
「おい、エミ!アタシ達の心配もしろ!痛たたぁ……フラフラするぅ……なぁ、これって本当に大丈夫なのですにゃ?」
「大丈夫って何が?」
衝突のショックで呂律が回らないクロエがクマに詰問する。
「『結界』が……れす!」
「ああ、あの程度じゃ装置は壊れないよ 一度に大きな負荷がかかると自動的に再起動する仕組みになってるんだ」
「い、一体誰がそんな設定に……」
「さあね。それより……」
クマが『ランナー』の前足、強襲モードでは双胴になるボディの方に声をかける。
先ほどバーシアの身体を入念に検査していたエミが、クマの指示で車体を軽く叩いている。
「どうだ?動きそうか?」
「んー無理っぽい。修理するより歩いた方が早いかも」
「はっはっはっ」
「なに笑てんねん」
「だって、歩くって言ったって、この通りを真っ直ぐ行くと駅前だよ?」
「いい運動になるじゃん、クロエもこの間、ウエストを細くするマシン、買ったんだよね?」
「なんで知ってる?」
クロエは思った。最近たまに郵便受けが空いてるけど、まさかコイツ、勝手に部屋に入ってるんじゃないだろうな?
「お前のしわざか!」
「えー違うしぃー」
「とにかく、歩いて行けば『病院』に着く。もしかしたら捜索隊が出動していて合流できるかもしれん」
クマが言う。
「ちょっといいですか?兄上ガ車を引っ張ってくれるって言ってますケド……」
バーシアが会話に割って入る。
「いや、それはダメだ。そもそも君たち……というか兄上はT大の警備網に引っかかってるはずだから、見つかると面倒くさい事になる」
「え?なんか不都合でもあるんですか?」
リョウスケが聞く。
「つまんないこと聞くね、君。例えばオクショウ君がお隣さんだったらどう思う?」
「……それは、おっぱ……嫌ですね!」
「そういうこと」
唐突にクマは『ランナー』を指差す。
「アレはね、今現在、世界中でたった一台しかないんだよ」
「はあ……」
「それに、あれには大事tなデータが入ってるから、万が一盗まれでもしたら大変だ」
「エグザクトリィ……」
「だから私はここで君たちが呼んでくる救援隊か、もう出動しているはずの捜索隊を待つことにする。何、心配はいらない私は空手を習得している」
「えぇ……(困惑)」
そう言うとクマは道端に転がっている昔の道路表示の金属板をパンチでぶち抜いた。
耳障りな音のあと案内板の真ん中より少し上、『○×県庁』と書かれていた箇所にぽっかりと穴が空く。
「ほら、これでわかっただろう?」
「えぇ……(ドン引き)」
「じゃあまた後で、諸君、ラボで会おう」
クマは腕を組んで『ランナー』の上にどっかりと腰を降ろした。
「わたしも異形です。通してください」
「だめ!通さない!」
「そこをなんとか!お願いします!!」
「通せない!」
『病院』を抜け出したわたしは駅前で『10人』の一体『ラブラクラ』と押し問答をしていた。
「どうして通してくれないんですか?」
「どうしてもこうしても!証拠を見せろ!」
「しょうこ?」
「そうだ!見せてみろ!」
ラブラクラは言う。彼?(彼女?)は普段はこの地域の異形を統率しているらしいのだが、今夜に限ってなぜか機嫌が悪いようだ。理由はわからないが、とてもピリピリした雰囲気なので、とりあえず謝っておくことにした。
「ごめんなさい」「えっ?」
突然の謝罪に面食らうラブラクラ。
「ごめんなさい。でも言葉が通じるのは仲間って証拠ですよね?通してください」
「ダメダ、脱げ」
「ぬぐ?」
「脱いで証拠を出せッ!」
「んぅ……」
「…………?なぜ躊躇する?」
「恥ずかしいもので」
「お前……ヒトみたいだな、恥ずかしいのか?」
「『ツガイ』のいないアンタに何が分かる?!」
わたしはあの子を馬鹿にされたみたいで、ついムキになって言い返してしまった。
「なに?」
「あんたみたいな徘徊ヤローにはその風船モドキがお似合いよ」
「……!」
「おい!キサマ!今なんと言った!」
「え?」
「この私になんと言ったのだ!」
「えっと、風船モンドセレクション受賞……?」
「なにぃ!」
「ひぃ!」
「何が風船なのだ!」
「だって、それ……」
わたしはラブラクラがいつも左手に握っているクラゲタイプの異形を指さす。
「これは『アクリ』といってだな、私の大事なパートナーだぞ!」
「あぁ……」
「なんだ?その哀れむような目は?お前ぶん殴られたいのか?」
「いえ……まだ何もいってませんけど……?」
「……?じゃあ、ナゼそんな目でワタシを見る?」
ラブラクラは今にも掴みかからんばかりの勢いで右腕をぐるりと回す。
「ああ、すみませんでした。実は、あなたの容姿が、あまりにダサくて……」
「……ッ!?」
「失礼しましたっ!でも、よく見ると格好いいですね!何かイタリアでギャングの入団テストとかしてそう!」
「……ッ!!?」
いかんいかん。名は体を表すというけど、ついメスガキムーブをかましてしまうところだった。
「あ、でも、その帽子はダサいですね」
「あ、あ、あっ、あー!!!」
ラブラクラが絶叫する。いけない、わたしとしたことが。ついに怒らせてしまった。
「き、貴様ァ!!貴様ァ!!!」
ラブラクラは怒り心頭の様子で右手をカッと開いて腕を振り上げた。
今のわたしはチビだ。背丈はアイツの鳩尾ぐらいしかない。
「うわ!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「お前はもう終わりだぁ!」
ラブラクラの風船が地上にゆっくりと降りてくる。
「お前は私達を侮辱したんだよぉ!」
「あわわ……」
ラブラクラの風船が裂けて捲れあがり内側にびっしりと歯のついた口が無数に現れる。
「ひぃ……こわい……」
「クらエぇ!!」
風船ががわたしに向かってふわりと飛びかかってきた。
「がばぁ!」
咄嵯に身を屈めて避けたわたしの視界の隅、ひび割れた駅ロータリーの石畳の上に
コロンと何かが転がった。それは一瞬の間をおいて緑色の煙を勢いよく噴き出した。
「な、なんだ?!」
ガスが辺り一面を覆い尽くす。
「けほっ、ごほ」
わたしは咳込んでしまった。
(まずい、毒かもしれない)
「くそ!誰だ!」
その時、靄の向こうから足音が聞こえてきた。数は7人。
自慢じゃないけど、わたしは聴力と容姿には自信があるのだ。だからすぐに分かった。あいつらだ。
「散開しろぉッ!」
リーダーらしき金色の『スーツ』の人影が叫ぶ。
追手は蛙の頭のようなデザインのメットと寸胴な『スーツ』を身に纏った異形の集団だった。
頭の上の二対の目玉(サーチライト?)が眠たそうな目に見えて少し可愛い、だが見かけに騙されてはいけない。彼らは邪悪な存在だ。
集団は駅舎の壁や床を縦横無尽に跳ね回りながらこちらに迫ってくる。その実のこなしまるでニンジャ。ちなみにリーダー核以外の6人は小豆色のスーツを身に纏っていた。
(敵に角みたいなアンテナとか生えてない?、と思った方はアニメの見すぎです。色んな映画や本を読んで勉強してください)
「このガキャアアアッ!つけられてたなぁあ~!」
ラブラクラが激昂し『アクリ』大きく膨らんだ、直感的にそれは攻撃の予備動作だと悟る。
(危ない!)
わたしは咄嗟に数メートル先の交番の廃墟に飛び込んだ。遮蔽物がないとあれは防げない。ミォン! 直後、背後で空気が焦げついた様な嫌な臭いがした。
振り返るとラブラクラの風船が放った電磁波のようなものが街路樹をジュワッと焦がし、音を立てて消えていくところだった。
「うっ」
熱気で頬がチリリと痛む。わたしは慌ててその場を離れる。
「どこへ行ったぁ!」
ラブラクラがわたしを探している。何で向こうじゃなくてわたしを最優先で狙ってくるんですか!
(くっ)
わたしは必死で大通りを避けながらあの子の元へ急ぐ。
実をいうと、あの子の影響なのか大人の怒鳴り声が凄く怖い。だからさっきラフラクラが怒鳴った時、わたしは恐怖で一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
幸いなことにラブラクラはわたしを殺すつもりはないみたいだったけど、それでも捕まったら何をされるかわかったもんじゃない。
(ぜぇ……ぜぇ)
さっき撒かれたガスの影響か?頭がくらくらしてきた。でも反対に心臓だけはバクバクいっている。わたしは走ったせいだけでない息苦しさに喘ぎながらクロエの元へ急……ごう、としたけど限界のようだ。目の前が暗くなってきた。
(もうダメだ、ここで一旦休……)
わたしは咄嗟に両腕で頭をガードし崩れかけたビルの壁に寄りかかった。そのままズルズルと倒れこむ。壁と地面ががひんやりと冷たい。意識を失う直前の記憶は遠くから近付いてくる四つの光る目だった。
***
***
廃都市に角笛の妖しい音色が響く。
「うぅ……」
わたしの脳裏に忌まわしい光景がフラッシュバックする。
わたしの身体を弄ぶおぞましい指先。振り上げたられた拳……
「うわぁあああっ!」
「!?、クロエサン、どうされました!この曲がお気に召されませデ!?」
「え?」
クロエはハッとして辺りを見回す。
「……」
そこは見慣れた廃都市。クマと別行動を取ったクロエ達は駅前に向かっている途中だった。
「あ、ごめん……ちょっと聞き惚れちゃってて」
「恐れ入りマス。この角笛は兄上の角から作りました。毎年6月、兄上の角切をやりまス。伸びた角で薬を作ったりするのです。外国人に売れます。この角笛はその特に落とした角から作りました。曲はインターネットで調べて練習しましタ。多分ろしあ民謡デス」
「へー」
苦笑しつつ適当に相槌をうつクロエ。子供は苦手だ。突飛な行動で自分のペースを乱すから。
「大丈夫デスか?体調が悪いなら無理しないでくださいネ」
「ありがとう、平気だよ」
再び苦笑して誤魔化すクロエ。
「それにしても何でこんな曲を?もっと明るい曲もあるんじゃないの?」
エミが不思議そうに尋ねる。
「角笛は魂の象徴です。なのでこれは大切な人に捧げる歌なのデース」
「そうなのね。ところで……」
エミがバーシアに突っ込んだ質問をしようとした瞬間、 遠くから甲高いサイレンの音が聞こえて来た。
「あの音、あれはアンビュランス!」
「病院ノ連中!駅前のホウデス!?」
バーシアが表情を一変させる。
「異形避けのサイレン、久々に聞いたわー」
「病院が緊急車両を出動させた?」
「んー、なんだろうねぇ。なんか嫌な雰囲気」
それぞれが疑問の声を上げる。
ブルル、兄上が鼻を鳴らした。
「……兄上も何か感じてるみたいです」
「ヨシ!みんな、警戒を厳重にして今のペースで進むぞ!」
「「「「おー!!!」」」
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