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4 デイオフ
#2α
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「……ですからインド株肺炎は第五類、奇病は第1類感染相当の分類ですわ」
オソレが新商品の、はちみつレモンおはぎを頬張りながら早口で講義を続ける。
オソレとワカは廃都市の北を見渡せる眺めのいい和風カフェテリアで駄弁っていた。
(なんかこれ普通の街ブラだよね、思ってたやつと違う……)と思いつつ、ワカはその風光明媚な景色に見とれていた。
遠くのN山には雪が残っている。もうすぐ5月だというのに北のほうからやってきた寒波が未だに残っているのだ。
とはいえ日差しはかなり強いのだが。
「……ちょっと、聞いていますか!?私の講義が退屈だったならはっきりと仰ってくださいまし!」
「ち、違くて……」
みたらし団子を頬張っていたワカの手が止まる。
「ごめん、景色に見とれてて……」
「はぁ、ここはお気に入りの場所なのです。ところでワカ、何か質問はありまして?」
「いえ、特に……」
「……ふーん、まあいいですけれど」
彼女はふっと息をつく。
「でも不思議ですよね、何であの山だけ自然が残ってるんでしょうね」
ワカがふむふむといった感じに興味深げにしている。
「ねぇ」
唐突にオソレが切り出した。
「例えばの話ですけれど、人類の歴史が滅んだとしたなら、次はどんな文明が栄えると思いますか?」
そうですね……ワカはほうじ茶を一口啜ると。
「まず間違いなく魔法が発展した世界になりますかね……ファンタジーみたいな」
……へぇ、意外。という表情を浮かべてオソレが先を促す。
「だって科学文明が発達したとしてもエネルギー問題、環境問題が解決できなければいずれ人類が衰退するのは目に見えています。その点、魔法の使える世界でしたら燃料の枯渇も、大気汚染も無いわけです。地球環境への負担が少ないんです」
ふぅと一呼吸置いて
「要するに現代社会の問題をすべて克服した理想的な世界を想像すれば良いんですよ。そんな世界に今の人間たちが生まれ変われるのかはわかりませんけど……可能性としては充分にあるんじゃないかなって思います」
と締めくくった。
なるほど……感服しましたわ……!とオソレがポーチからメモ帳を取りだして一言一句、書き綴っているように見える。
「やっぱりワカさんは、私(わたくし)と同志になれるかも知れませんわ~!」
嬉々としながらメモ帳のページをめくっていくオソレ。
「あんな安月給の公務員おばさんと同棲しないで、私のところに来れば良いですのに……」
独り言なのかこっちに向けて言った言葉なのかわかんないくらい小さな声で呟いたオソレの声は聞き取れなかった。
「え?なんて言いました?」
「いいえ!何でもありませんわ。さて……」
パタンとメモ帳を閉じるオソレ。
「日本人の100人に一人は自転車に乗れない、という統計データがありますけれど……ワカはどうですの?」
突然なに?と思う暇もなく答えさせられる。
「えーと普通に乗れますよ」
ほぉ……と言いながら眼鏡をクイッとする彼女。
「ではアナタが運転なさって?わたくしは後ろに乗らせていただきます。さぁ、出発ですわ!」
オソレが涼やかな声で宣言した。
つづく
オソレが新商品の、はちみつレモンおはぎを頬張りながら早口で講義を続ける。
オソレとワカは廃都市の北を見渡せる眺めのいい和風カフェテリアで駄弁っていた。
(なんかこれ普通の街ブラだよね、思ってたやつと違う……)と思いつつ、ワカはその風光明媚な景色に見とれていた。
遠くのN山には雪が残っている。もうすぐ5月だというのに北のほうからやってきた寒波が未だに残っているのだ。
とはいえ日差しはかなり強いのだが。
「……ちょっと、聞いていますか!?私の講義が退屈だったならはっきりと仰ってくださいまし!」
「ち、違くて……」
みたらし団子を頬張っていたワカの手が止まる。
「ごめん、景色に見とれてて……」
「はぁ、ここはお気に入りの場所なのです。ところでワカ、何か質問はありまして?」
「いえ、特に……」
「……ふーん、まあいいですけれど」
彼女はふっと息をつく。
「でも不思議ですよね、何であの山だけ自然が残ってるんでしょうね」
ワカがふむふむといった感じに興味深げにしている。
「ねぇ」
唐突にオソレが切り出した。
「例えばの話ですけれど、人類の歴史が滅んだとしたなら、次はどんな文明が栄えると思いますか?」
そうですね……ワカはほうじ茶を一口啜ると。
「まず間違いなく魔法が発展した世界になりますかね……ファンタジーみたいな」
……へぇ、意外。という表情を浮かべてオソレが先を促す。
「だって科学文明が発達したとしてもエネルギー問題、環境問題が解決できなければいずれ人類が衰退するのは目に見えています。その点、魔法の使える世界でしたら燃料の枯渇も、大気汚染も無いわけです。地球環境への負担が少ないんです」
ふぅと一呼吸置いて
「要するに現代社会の問題をすべて克服した理想的な世界を想像すれば良いんですよ。そんな世界に今の人間たちが生まれ変われるのかはわかりませんけど……可能性としては充分にあるんじゃないかなって思います」
と締めくくった。
なるほど……感服しましたわ……!とオソレがポーチからメモ帳を取りだして一言一句、書き綴っているように見える。
「やっぱりワカさんは、私(わたくし)と同志になれるかも知れませんわ~!」
嬉々としながらメモ帳のページをめくっていくオソレ。
「あんな安月給の公務員おばさんと同棲しないで、私のところに来れば良いですのに……」
独り言なのかこっちに向けて言った言葉なのかわかんないくらい小さな声で呟いたオソレの声は聞き取れなかった。
「え?なんて言いました?」
「いいえ!何でもありませんわ。さて……」
パタンとメモ帳を閉じるオソレ。
「日本人の100人に一人は自転車に乗れない、という統計データがありますけれど……ワカはどうですの?」
突然なに?と思う暇もなく答えさせられる。
「えーと普通に乗れますよ」
ほぉ……と言いながら眼鏡をクイッとする彼女。
「ではアナタが運転なさって?わたくしは後ろに乗らせていただきます。さぁ、出発ですわ!」
オソレが涼やかな声で宣言した。
つづく
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