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4 デイオフ
#3α
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ペダルに乗せた足がひとりでに動く感覚にワカは戸惑う。
まるで自分の足ではないかのようだ。
「初めてにしては結構上手ですわ」
背中ごしにオソレの弾んだ声が飛び込んでくる。
「この子はT大が開発した新技術を使った最新鋭e-バイクですもの」
e-バイク?そういえば、『昔』ニュースで見た気がする。確か電気で走る自転車だったかな?
「わたくし、普通の自転車は10歳の頃に乗れるようになりましたが、こぉ~のeバイクのぬるっと動く感じがどうも苦手で……」
オソレは何故か少し不機嫌そうだ。
「わたしもです。なんか、こう、ぐにゅぐにょぐにゃーっとしてて気持ち悪いですよね」
「ワカさんはなかなか良いセンスをお持ちみたいですわ」オソレは満足げに笑った。
旧市内は先日の異形の大発生が嘘のように静まりかえっている。
異形は何故か二人の乗ったeバイクを無視した。
川沿いの道で急に猫のようなシルエットの異形が目の前に飛び出して来たので、ワカが咄嗟にブレーキをかけると異形がペコリと頭を下げて通りすぎた。
「何なんですかね、無視されちゃいましたよ」
ワカが拍子抜けといった声を出すと、
「恐らくですけれど、」とオソレの声が続く。
「彼奴らも今日はお休みみたいですね」
……なるほど、そういうことなのか!ワカは納得した。
ヒトと異形が廃都市で奇妙な共存関係にあった背景には、あたかも孤島のように全国の県庁都市が点在している点が大きい。
孤島同士の交流が稀なように両種の生存圏が比較的離れていることも、ヒトと異形の全面衝突が少ない理由の一つだった。特に郊外での遭遇率の低さはその傾向が顕著であると言えるだろう。
そして、これは完全に余談であるが、かつて各地で起きた一連の現象によって、当時の政府及び都道府県庁が下した決断とは? 【地方都市或いは郊外への積極的な避難勧告】であった―――結果から言うと、これが結果的に功を奏したのである。
まず、政府が出したその結論の根拠とは何かというと……これまた全くの偶然により導き出されたものであったのだ。
後に、この現象が世界規模で起きている事に気付いた一部の学者や識者が、各地の共通点について調べると、そこにはある共通の事象があった事が判明する……
「ところで……」
「はい?」
「今日はオソレさんの大切な場所で昼ごはんをご馳走してくれる、ということで間違いはありませんよね?」
「えぇ……もちろん」
「じゃあ、どうしてどんどん山の中に入っていってるんですか!」
ワカの疑問にオソレは事もなげに応じる。
「決まっていますでしょう。『大切な場所』だからですわ!」
えぇ……そんな、答えになってないような……。ワカは困惑しつつ、ハンドルを強く握る。…………、脳裏にほんの少し嫌な予感と、豆腐屋がよぎる。
「一応言っておきますけど変なこと考えていませんわね?
途中で帰るとか」
まるで心を読んだかのようなタイミングだ。
「そ、それってどういう意味でしょうか~♪」
ワカの声が思わず上ずる。
ふぅん、怪しい……
オソレは鼻を鳴らし
「まぁ、いいですけど。あれをご覧くださいませ」と
タンデムシートの前側に跨がるワカの腰を強く掴む。
「……わ!?」
オソレの指差す方向を見て、ワカは驚きに息を飲む。
それはまさに圧巻としか言いようのない光景だった。
峠の高台からは眼下の廃都市が一望できた。
かつての繁栄の面影を残しつつ、荒れ果てた街並みがそこにあった。市の中心のオフィス街と隣接する商業区の廃墟、そこを抜けると市の運営していた公園跡の緑地帯が広がっている。
「どうですの、滅茶苦茶つまらない景色でしょう?それより、もう少し山奥に『お化けの木』っていう古木の生えたヤバいスポットがありまして……ちょっとワカ!聞いているのですか?」
オソレの声を無視してしばらく放心の状態に陥っていたワカだったが やがて我に返って呟く。
「すごいな……」“わたしが住んでいた”街、こんな風になったんだ……
「……本当のお楽しみはこれからですわ~」
「うん?何か言いました?」
「なんでもありませんわ~、さ、行きましょう♪」
オソレは飲みかけの水筒から口を離すと目を細めてちろり、小さな舌で唇を舐めた。
まるで自分の足ではないかのようだ。
「初めてにしては結構上手ですわ」
背中ごしにオソレの弾んだ声が飛び込んでくる。
「この子はT大が開発した新技術を使った最新鋭e-バイクですもの」
e-バイク?そういえば、『昔』ニュースで見た気がする。確か電気で走る自転車だったかな?
「わたくし、普通の自転車は10歳の頃に乗れるようになりましたが、こぉ~のeバイクのぬるっと動く感じがどうも苦手で……」
オソレは何故か少し不機嫌そうだ。
「わたしもです。なんか、こう、ぐにゅぐにょぐにゃーっとしてて気持ち悪いですよね」
「ワカさんはなかなか良いセンスをお持ちみたいですわ」オソレは満足げに笑った。
旧市内は先日の異形の大発生が嘘のように静まりかえっている。
異形は何故か二人の乗ったeバイクを無視した。
川沿いの道で急に猫のようなシルエットの異形が目の前に飛び出して来たので、ワカが咄嗟にブレーキをかけると異形がペコリと頭を下げて通りすぎた。
「何なんですかね、無視されちゃいましたよ」
ワカが拍子抜けといった声を出すと、
「恐らくですけれど、」とオソレの声が続く。
「彼奴らも今日はお休みみたいですね」
……なるほど、そういうことなのか!ワカは納得した。
ヒトと異形が廃都市で奇妙な共存関係にあった背景には、あたかも孤島のように全国の県庁都市が点在している点が大きい。
孤島同士の交流が稀なように両種の生存圏が比較的離れていることも、ヒトと異形の全面衝突が少ない理由の一つだった。特に郊外での遭遇率の低さはその傾向が顕著であると言えるだろう。
そして、これは完全に余談であるが、かつて各地で起きた一連の現象によって、当時の政府及び都道府県庁が下した決断とは? 【地方都市或いは郊外への積極的な避難勧告】であった―――結果から言うと、これが結果的に功を奏したのである。
まず、政府が出したその結論の根拠とは何かというと……これまた全くの偶然により導き出されたものであったのだ。
後に、この現象が世界規模で起きている事に気付いた一部の学者や識者が、各地の共通点について調べると、そこにはある共通の事象があった事が判明する……
「ところで……」
「はい?」
「今日はオソレさんの大切な場所で昼ごはんをご馳走してくれる、ということで間違いはありませんよね?」
「えぇ……もちろん」
「じゃあ、どうしてどんどん山の中に入っていってるんですか!」
ワカの疑問にオソレは事もなげに応じる。
「決まっていますでしょう。『大切な場所』だからですわ!」
えぇ……そんな、答えになってないような……。ワカは困惑しつつ、ハンドルを強く握る。…………、脳裏にほんの少し嫌な予感と、豆腐屋がよぎる。
「一応言っておきますけど変なこと考えていませんわね?
途中で帰るとか」
まるで心を読んだかのようなタイミングだ。
「そ、それってどういう意味でしょうか~♪」
ワカの声が思わず上ずる。
ふぅん、怪しい……
オソレは鼻を鳴らし
「まぁ、いいですけど。あれをご覧くださいませ」と
タンデムシートの前側に跨がるワカの腰を強く掴む。
「……わ!?」
オソレの指差す方向を見て、ワカは驚きに息を飲む。
それはまさに圧巻としか言いようのない光景だった。
峠の高台からは眼下の廃都市が一望できた。
かつての繁栄の面影を残しつつ、荒れ果てた街並みがそこにあった。市の中心のオフィス街と隣接する商業区の廃墟、そこを抜けると市の運営していた公園跡の緑地帯が広がっている。
「どうですの、滅茶苦茶つまらない景色でしょう?それより、もう少し山奥に『お化けの木』っていう古木の生えたヤバいスポットがありまして……ちょっとワカ!聞いているのですか?」
オソレの声を無視してしばらく放心の状態に陥っていたワカだったが やがて我に返って呟く。
「すごいな……」“わたしが住んでいた”街、こんな風になったんだ……
「……本当のお楽しみはこれからですわ~」
「うん?何か言いました?」
「なんでもありませんわ~、さ、行きましょう♪」
オソレは飲みかけの水筒から口を離すと目を細めてちろり、小さな舌で唇を舐めた。
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