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なつまつり
弍
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日が傾いてくると祭りに繰り出すケモノの数は増え、浴衣姿も多くなる。
私たちは茜色に染まる雲を眺めながら手を繋いで歩いていた。キヌコはお気に入りの狐面に綿あめ片手に上機嫌である。
その姿を見ているだけでこっちまで楽しくなってきたわね、なんて考えていると人ごみの中から見知った顔を見つけてしまった。
思わず苦笑いしてしまう……。どうしようかなと思い悩んでいる間にもどんどん距離が縮まってゆく。
「あらキツナじゃないの」「やっぽー」
向こうも私たちに気付いたらしく声を掛けてきた。彼女たちは私の幼なじみのリスとハクビシンで名前はそれぞれヒダとマリ。
私たちは小学校から高校まで一緒に通った仲で中学、高校と吹奏楽部に入っていたこともあり部活仲間としてとても親しい間柄なのだが……。二人とも今年8歳という節目を迎えてついに大人の階段へと足を踏み入れたようだ。
「こんばんわ」
二人に軽く会釈をする。
「久々やんなぁ」
「キヌコちゃん、お姉ちゃんとお揃いの着物めっさ可愛ええなぁ」
そう言って二匹はキヌコの周りに集まって来た。妹は二匹にもみくちゃにされるのを警戒してなのか私の後ろに隠れてしまった。
私はそれとなく妹の盾になるような位置をキープしつつ
「そういえばこの先のふわふわお揚げの露店に行った?」と話の矛先を変えた。すると彼女達は一瞬目をぱちくりさせたあと思い出したように口を開いた。ちなみにお揚げの店というのは通称であり正式な屋号は『つるや』という。
老舗のお揚げ屋さんの出張店舗ということだ。
ドラえもんがどら焼きを好きなように。日本中のお狐様はお揚げが大好物なのだ。うん、説明長くなったね。
案の定と言うべきか、お揚げは開店30分で売り切れで、二匹が言うには現在は追加の分を大急ぎで作っているらしい。
なんにせよ、いま屋台に行ってもお目当てのものは手に入らないということだけは分かった。「じゃな~」私たちは二匹と別れて祭りを見て回ることに。
とはぐれないように手を握って進む。
しばらく歩くと神社の境内が見えてきた。そこには既に沢山の橙色に輝く御神灯が見えた。それらは夕闇に灯され幻想的な雰囲気を生み出している。そして辺りを見渡すと所狭しと様々な出店が軒を連ねていた。定番のものから変わり種、ちょっと気恥ずかしいが手作りの一点物といった感じで多種多様な品揃えが並んでいる。
妹はそれらを興味深げにキョロキョロと見回していて、まるでぬいぐるみのように可愛いくてつい頬が緩んでしまう。
「あっ金魚すくいがある!」妹が指差す方向に視線を向けると、水の入った大きな桶の中にたくさんの赤い小さな影が見える。
「やっていきますか?お嬢ちゃん」
おじいさんのネコに声をかけられ妹は元気よく「はい!」と答えた。
「じゃあ一回200円ね、お椀はこれ使ってね」
「ありがとうございます!お姉ちゃんは?やるよね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?」
ハイハイわかりましたやりますよ。
妹に押される形で私は400円を支払ってポイを受け取る。
隣では妹が鼻息荒くやる気満々の様子だ。私はそれを確認すると紙を貼ったお碗を右手に持ち、左手を水面へ伸ばした。すると私の手のひらを合図にしたかのように一匹の真っ黒な出目金の奴が現れ私の目の前を悠々と泳いでいく。
(……逃すかッ!!)
私はすぐさま狙いを定め一気に水中へと腕を沈めた。だが相手も中々に手強い。私が1つの穴に2本の棒を差し込むと素早くそこを通り抜けてしまうのだ。その後も幾度となく挑戦してみるのだが結果は同じだった。
そんなことを数回繰り返していくうちに段々熱が入ってきて
思わず声を上げてしまった。
「もう怒った!!」
ザバァっと音を立てて立ち上がると、周りの人たちは驚いて私に注目したが気にしない。
「あの黒いの捕まえるわ」
そう宣言すると同時に私は先ほどよりも強く水を掻いた。
すると狙っていたあいつは突如現れた水流に戸惑う暇もなく呆気無く捕まり水の外へ引っ張り出された。
「おおっお見事!」
周りからは称賛の声が上がった。私はそれに得意になって「ま、こんなもんかな」と呟きながら出目金を掬っていた小鉢の上に下ろしてやった。
すると妹が興奮気味に話しかけてくる。
「お姉ちゃん凄かったね」
「まぁね」
「ところで何を狙っていたの?」
と聞かれたので素直に答えようと思ったけど寸での所で言葉を飲み込んだ。だってねぇ……。まあいっか。
「出目金って縁起が良いんだよ」
「そうなんだぁ、いいことあるといいね」
まぁその良い事がこの子の笑顔なんだけれどね。
「はいこれあげる」私は妹に袋に入れてもらった出目金を渡してあげた。
「わぁっありがとー」
妹は嬉しそうに受け取った袋を眺めている。袋の中の金魚はヒレを優雅に動かしている。
それは 夜祭りを往く私たちのようだ。
さて、次はどこに行こうか。
私たちは茜色に染まる雲を眺めながら手を繋いで歩いていた。キヌコはお気に入りの狐面に綿あめ片手に上機嫌である。
その姿を見ているだけでこっちまで楽しくなってきたわね、なんて考えていると人ごみの中から見知った顔を見つけてしまった。
思わず苦笑いしてしまう……。どうしようかなと思い悩んでいる間にもどんどん距離が縮まってゆく。
「あらキツナじゃないの」「やっぽー」
向こうも私たちに気付いたらしく声を掛けてきた。彼女たちは私の幼なじみのリスとハクビシンで名前はそれぞれヒダとマリ。
私たちは小学校から高校まで一緒に通った仲で中学、高校と吹奏楽部に入っていたこともあり部活仲間としてとても親しい間柄なのだが……。二人とも今年8歳という節目を迎えてついに大人の階段へと足を踏み入れたようだ。
「こんばんわ」
二人に軽く会釈をする。
「久々やんなぁ」
「キヌコちゃん、お姉ちゃんとお揃いの着物めっさ可愛ええなぁ」
そう言って二匹はキヌコの周りに集まって来た。妹は二匹にもみくちゃにされるのを警戒してなのか私の後ろに隠れてしまった。
私はそれとなく妹の盾になるような位置をキープしつつ
「そういえばこの先のふわふわお揚げの露店に行った?」と話の矛先を変えた。すると彼女達は一瞬目をぱちくりさせたあと思い出したように口を開いた。ちなみにお揚げの店というのは通称であり正式な屋号は『つるや』という。
老舗のお揚げ屋さんの出張店舗ということだ。
ドラえもんがどら焼きを好きなように。日本中のお狐様はお揚げが大好物なのだ。うん、説明長くなったね。
案の定と言うべきか、お揚げは開店30分で売り切れで、二匹が言うには現在は追加の分を大急ぎで作っているらしい。
なんにせよ、いま屋台に行ってもお目当てのものは手に入らないということだけは分かった。「じゃな~」私たちは二匹と別れて祭りを見て回ることに。
とはぐれないように手を握って進む。
しばらく歩くと神社の境内が見えてきた。そこには既に沢山の橙色に輝く御神灯が見えた。それらは夕闇に灯され幻想的な雰囲気を生み出している。そして辺りを見渡すと所狭しと様々な出店が軒を連ねていた。定番のものから変わり種、ちょっと気恥ずかしいが手作りの一点物といった感じで多種多様な品揃えが並んでいる。
妹はそれらを興味深げにキョロキョロと見回していて、まるでぬいぐるみのように可愛いくてつい頬が緩んでしまう。
「あっ金魚すくいがある!」妹が指差す方向に視線を向けると、水の入った大きな桶の中にたくさんの赤い小さな影が見える。
「やっていきますか?お嬢ちゃん」
おじいさんのネコに声をかけられ妹は元気よく「はい!」と答えた。
「じゃあ一回200円ね、お椀はこれ使ってね」
「ありがとうございます!お姉ちゃんは?やるよね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?」
ハイハイわかりましたやりますよ。
妹に押される形で私は400円を支払ってポイを受け取る。
隣では妹が鼻息荒くやる気満々の様子だ。私はそれを確認すると紙を貼ったお碗を右手に持ち、左手を水面へ伸ばした。すると私の手のひらを合図にしたかのように一匹の真っ黒な出目金の奴が現れ私の目の前を悠々と泳いでいく。
(……逃すかッ!!)
私はすぐさま狙いを定め一気に水中へと腕を沈めた。だが相手も中々に手強い。私が1つの穴に2本の棒を差し込むと素早くそこを通り抜けてしまうのだ。その後も幾度となく挑戦してみるのだが結果は同じだった。
そんなことを数回繰り返していくうちに段々熱が入ってきて
思わず声を上げてしまった。
「もう怒った!!」
ザバァっと音を立てて立ち上がると、周りの人たちは驚いて私に注目したが気にしない。
「あの黒いの捕まえるわ」
そう宣言すると同時に私は先ほどよりも強く水を掻いた。
すると狙っていたあいつは突如現れた水流に戸惑う暇もなく呆気無く捕まり水の外へ引っ張り出された。
「おおっお見事!」
周りからは称賛の声が上がった。私はそれに得意になって「ま、こんなもんかな」と呟きながら出目金を掬っていた小鉢の上に下ろしてやった。
すると妹が興奮気味に話しかけてくる。
「お姉ちゃん凄かったね」
「まぁね」
「ところで何を狙っていたの?」
と聞かれたので素直に答えようと思ったけど寸での所で言葉を飲み込んだ。だってねぇ……。まあいっか。
「出目金って縁起が良いんだよ」
「そうなんだぁ、いいことあるといいね」
まぁその良い事がこの子の笑顔なんだけれどね。
「はいこれあげる」私は妹に袋に入れてもらった出目金を渡してあげた。
「わぁっありがとー」
妹は嬉しそうに受け取った袋を眺めている。袋の中の金魚はヒレを優雅に動かしている。
それは 夜祭りを往く私たちのようだ。
さて、次はどこに行こうか。
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