お転婆令嬢の執事は天寿を全うする…「何故…儂が、お嬢様の弟なのじゃ?」爺やは転生し姉を教育する!

ke-go

文字の大きさ
17 / 30

17 いっけね〜・出逢ってしまった狂乱

しおりを挟む
「おはようございます。モラフ様…プッ!」

廊下を掃除している使用人のレミアは朝から仕事に精を出す。

(笑ったじゃろ?レミアよ。)

公爵家の嫡子として、屋敷内でも正装をするモラフ。

またの名を、珍獣モラフ!

容姿で判断する様では、人は成長出来ぬものよ!

プッ!

堂々たる歩き姿を見送るレミア。駄目だと分かってはいるものの、幼き珍獣の後ろ姿…尻尾に吹き出してしまうレミアだった。

「あの尻尾…微妙に地面に着かないのよね…プッ!」

外は、少しだけ肌寒く感じる。夏が終わり秋が近づいているのだろ。

「お師匠!おはようです。」

挨拶するのは暑い日も雨の日も、そして寒い日も毎日正門を守る駄目な門番のゴンタとマサエモンだ。

「冷え込んで来ましたな!」

良かった…。寒暖の違いは分かる様だ。ゴンタの剣術試合を見た後だと…どうしても、普通じゃないと疑いが先に出てしまう。

「めちゃくちゃ格好いいじゃねぇですか!」

珍獣モラフを初めて見たゴンタ。目ヤニの付いている瞳は、ゴマすりやお世辞には見えない。

やはり…普通ではないのかもしれない。


「反則だ!」

今日も地べたに倒れ込むゴンタ。またモラフにシゴカれたのだろうか?

「納得出来ん!!」

倒れたゴンタに、木剣の先を向けているのはユッカだった。モラフ様が出るまでも無いとゴンタの剣術稽古に名乗り出してくれたのだが…力の差は歴然だった。

「小娘の力じゃないぞ!」

「えい!」

「痛い!」

木剣で、少しだけ…本当に少しだけ髪の毛が後退したゴンタの額を小突くユッカ。

「小娘じゃないの!アタシは専属騎手~!」

(ユッカよ、自分の役目に誇りを持つのは良いことじゃぞ!頑張るのだ。)

その後も、ゴンタの斬撃はことごとく弾かれ何度も地ベタに這いつくばる。

「師範代!オラに二刀流を教えてくだせぇ~!!」

完敗だ!村ではそれなりに力自慢だったが、こうもコテンパンに伸されたら認めるしかない。

オラの剣術に彼女の力は必要だ!

後に語られる、狂い咲きのマッドピエロゴンタ…
その男は戦場で常に両手に刃の無い剣を2本握っていたのだった!

「お前ら、先程から何してるんだ?」

一人で門番をしているマサエモンが、通りの木の裏から覗いている二人組に近寄る。

あれは…二人組の正体はモラフが剣術大会で対戦した、
魚屋のマグロンとカツオンだ。

モラフも二人に気が付き近づく。公爵家の嫡子とバレたのだ。兄弟達は、嘸かし緊張しただろう。

「やあ!この前はごめんね!」

優しい言葉をかけるモラフに兄弟は背筋を伸ばす。嫡子を目の前にしながら弟のカツオンが、勇気を出して口を開いた。

「…カッコいいです!」

珍獣モラフを見て、憧れの眼差しを向ける兄弟。どうしてそんなにカッコ良く着こなせるのか気になる様だ。

「はは~ん!お前ら、お師匠の強さに惚れた口だな?」

後退した額を押さえるゴンタも近づいて来た。その言葉に小さく頷く兄弟。

「弟子か?弟子になりたいのだろう?だがな小僧共よ良く聞け!この『夜な夜な娼館団』に入団するにはな、信念が無ければ駄目だ!入団希望なら、己の力をオラに示してみろ!」

何…言ってるのかな?ゴンタ君は…。

夜な夜な娼館団?初めて聞きました!

兄弟は互いに顔を見て覚悟を決める!その顔を見たゴンタ…良い顔だと木剣を構えた!

「ちょっと!ゴンタ君!」

モラフの声は届かぬまま、二人の入団試験が始まった!

…………

激闘…何とも言えない…それはそれは激しい戦い攻防が繰り広げられた。

無表情で拳を振り回すマグロンを何発か被弾しながらも
ケツの肉厚で壁際に押し込むゴンタ。
喚き散らしながら石を投げるカツオンを、また被弾しながら近づき首筋に、ねっとりとした舌でペロるゴンタ。

兄弟は連携し左右からドロップキックをするのだが、瞬時に鼻ほじりをしたゴンタの人差し指に取り付けた、解せぬ塊が兄弟の動きを鈍らせる。

2対1…

数だけなら不利なのはゴンタだ。縦横無尽な兄弟の攻撃に次第に劣勢となるゴンタ。

「ちっ!やるじゃねぇか小僧共…」

地面に膝を着くゴンタから異様な闘気を感じ取るモラフは叫ぶ!

「駄目だゴンタ!自分を見失うな!」

お師匠の叫びは届かなかった。

幼き兄弟達の衣服が宙に舞う。舞い上がる衣服が地に落ちた頃には、兄弟はまるで魚屋に陳列された魚の様に並んでいた。異様な輝きを魅せるゴンタの瞳は並べられた兄弟の下半身に向けられた。

汚く荒々しい手が兄弟の下半身に向かう。

!!

ゴンタの動きが止まった!
汚い手を遮る様に2本の木剣が腕の動きを封じる。
喉仏には木剣の剣先が今にも襲いかかりそうな程、迫っていた。

そして幼き者達からは想像出来ない位の、鋭い殺気がゴンタに向けられていた。

その殺気の主はモラフとユッカだ。

「ゴンタ!帰ってこい。お前は変質者じゃないだろう!ベルモンド公爵家の駄目な門番だろうが!」

届いた!モラフの叫びは確かに届いた…。

禍々しい瞳の輝きが薄れて、何時もの淀んだ瞳に戻ったゴンタは、陳列された裸の兄弟を見る。

「いっけね~!またやっちまった!」

必死に謝るゴンタ。

しかし兄弟達の反応はゴンタ達の想像を超えて来た。

確かに、狂い咲きのマッドピエロは恐かった!しかし、その強さは兄弟の心に刺さった!

「ゴンタ師匠……僕達を弟子にしてください。」

後に語られる。狂い咲きのマッドピエロゴンタ。
その狂乱の傍らには、何時も二人の若者がいたのだ…

陸地の船乗りカツオン。

そして…

無喜怒哀楽のサイレントサビキ釣りマスターマグロン。

彼らは肌寒い日の朝に…出逢ってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...