お転婆令嬢の執事は天寿を全うする…「何故…儂が、お嬢様の弟なのじゃ?」爺やは転生し姉を教育する!

ke-go

文字の大きさ
19 / 30

19 棘と愛

しおりを挟む
「痛い!痛いよ!」

モラフの正装の尻尾の付け根に緑色の棘が刺さる!
地面には大量のランの実の殻が落ちていた。

森に入り、ユッカに案内されて行き着いた場所には、確かにランの木が5本あった。あったにはあったのだが、残念ながら採り尽くされた後だった。

ユッカは、その光景に公爵家の御子息達に無駄足をとらせたと落ち込むのだが、二人は絶対に責めなかった。
嘘ではなかった。この場所は良い場所なのは間違いないのだから…ただタイミングが悪かっただけなのだ。

昨日、訪れていたら実が存在したのかもしれないのだ。

ユッカは何も悪くは無い。

しかし、この悔しい気持ちは何処に向ければ良いのだろうか?

ドレアが出した答えは…盗み食いしたモラフだった。

「お前が食べるから悪いんだ!待て逃げるな珍獣!」

森の中を必死に逃げ回る珍獣モラフ。しかし、姉上のランの実の殻を投げるスピードはケタ違いだ。お尻を痛がる珍獣は、程なくして確保された。

「確保!」

以前と同じ様に抱きかかえる珍獣。足をバタつかせ抵抗するが、はっきり言って絶望的だ。

「はい!モラフ君の専属騎士ののユッカちゃ~~ん!」

2人の、追走戦を見ていたユッカはドレアの言葉に寒気がした。本能が、コイツはヤバいと告げている。

「私はこれから、この盗っ人珍獣君に罰を与えますが貴女は、珍獣を守りますか?守りませんか?」

「絶対に守りません!!」

即答…モラフの希望が一瞬で潰えた。

「守らない理由は何ですか?」

(儂も理由を聞きたいのじゃ!)

抱きかかえられているモラフは必死の形相で専属騎士のユッカを見る。

「アタシは…珍獣の騎士じゃない!だから…お姉ちゃんの味方なの!」

確かに…珍獣の騎士では無い。
(今の儂は…何なのじゃ?)

お姉ちゃん?私はお姉ちゃんなのね!妹が居ないドレアの胸が熱くなる。服を選んでいた時からだったのかも知れない。この五つ下の女の子は、私をお姉ちゃんと呼んでくれた。

「この子…可愛いわ!」

この騒動以降、姉ドレアはユッカを本当の妹の様に溺愛する。弟には、お転婆悪戯。ユッカには最上の愛を注ぐのだった。

姉の指示に従い。殻を地面の片隅に集めだしたユッカ。さすが木こりの娘。あっという間に殻の山を築く。

「おい!四つん這いになれよ珍獣…。」

 え?

言葉の真意を確かめる間もなくユッカに取り押さえられて渋々四つん這いの体勢になるモラフは、何かを感じとり覚悟を決める。

(本当に無念じゃ…)

「えい!」「…あ~!」「えい!」「…あ~!」

「えい!」「…あ~!」「えい!えい!えい!えい!」

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

どこぞの獣が叫んでいるかの様な奇声を発するモラフ。

そのお尻には大量の棘が刺さっていた。

「お姉ちゃん!近くから投げると面白いよ!」

(止めろユッカ!至近距離はいかんぞ!至近距離はいかんのだ!)

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

至近距離では殻の速度が落ちない、ダイレクトに伝わる痛みにモラフは、お尻を突き上げたまま痙攣してしまった。

「ふ~スッキリした!さぁ帰りましょう。」

来た道を戻る二人と珍獣。珍獣はお尻に突き刺さった棘を丁寧に一本ずつ抜いて行く。歩きながら手探りで、お尻に手を伸ばし外す時は一度立ち止まり、お尻に気合いを入れる。それでも抜き痛みはあるのだ。どうしても踵が浮いてしまう。しかし、二人は歩くのを止めない。必死に着いて行くモラフの動き方は正に珍獣だ。

「ちょっと待って下さい。」

歩くのを止めたのは、ユッカだった。その場にしゃがみ込み、窪んだ地面に手を当てている。

「マズイです…奴が近くにいます。」

奴?モラフにとってマズイと言えば姉のドレアだ。捕まれたら最後!毎回、苦汁を舐めるはめになる。しかし、
姉は目の前だ。

「もしかして奴って、あいつ?」

ドレアが指差す方向に棘々しい毛を見せびらかし、此方を見ながら細長い舌を出している灰色と黒色が混ざり合った生物がいる。

「はい…この森の主、悲愴ヤマアラシです。」

ヤマアラシと言うが体長は2メートル以上ある。爪の鋭さも熊以上だ。

これはヤバいかも知れない。襲われたら無事で済まない気がする。
(前世でも見たことは無いのじゃ…)

変異種?

モラフは2人の身の安全を最優先にする。
(儂の剣は、お嬢様を守る為にあるのじゃ!)

2人に後ろに下がる様に指示を出し、モラフは腰の短剣を抜き構える。
(今の身体で致命傷を与えれれば良いのだが…)

「ハイ!珍獣がカッコつけてますよ!」

下げた2人が再び前に出て、既に剣を抜いていた。

(何をしておるのじゃ!お嬢様。逃げて下され。)

モラフを塞ぐ様に二人は前で、抜いた剣をヤマアラシに向けているのだが、ヤマアラシから溢れ出る異様な気に当てられたのか、構える剣がカタカタと小刻みに震えている。

(怖いなら…何故出る!お嬢様。)

生唾を飲むドレアが、振り向きモラフを見て微笑む。
そして、ドレアの微笑む意味を直ぐにモラフは知る事になる。

「ベルモンド公爵家は代々男系の家系。我が弟は、公爵家を継ぐもの成り。得体の知れぬ化物よ!ベルモンド公爵家の嫡子を簡単に喰えると思うなよ。お前の相手は私だ!脚が喰われたら剣を脚にする。腕が喰われたら噛み付いてやる。頭を喰ったら未来永劫呪ってやるからな!私はしつこいんだ。覚悟しろよ化物が!五体満足で居れると思うなよ!」

何を言っているのじゃ…お嬢様。

「ユッカ…下がりなさい。下がりなさいユッカ!!」

剣先が震えていたユッカは、ドレアの叫びで震えが止まり後ろのモラフの前で再び剣を構え直した。

「良い子ね…。ユッカ!私が死んだら貴女がモラフを守るのよ。しっかり守ってあげてよ。」

だから…何を言っておるのじゃ…お嬢様。

何時もの、お転婆姿はどこにもない。こんな真剣な顔のお嬢様を見るのは初めてじゃ…。

「モラフ…何時も悪戯して、ごめんなさいね!」

そう言いながら、ドレアは単身でヤマアラシに突撃して行く。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...