お転婆令嬢の執事は天寿を全うする…「何故…儂が、お嬢様の弟なのじゃ?」爺やは転生し姉を教育する!

ke-go

文字の大きさ
20 / 30

20 愛と棘

しおりを挟む
「姉上!」

ヤマアラシに向かい鋭い突きを繰り出すドレア。しかし外皮に有る棘が其れを防ぐ。ドレアも一撃で致命傷を与えられるとは端から思ってはいない。

連撃!

その細腕からは想像出来ない程のスピードで突きの連続攻撃がヤマアラシに襲いかかる。流石に嫌がるヤマアラシは身体を捻り尾でドレアを威嚇する。尾の棘を躱し距離を取るドレアに対してヤマアラシは背中を見せる。

敵に背中を見せる。人ならば、それが意味するのは敗北だ…。しかし今戦っているのは人では無く獣だ。人の常識など通用はしない。

背中から尾にかけて大量に生えている棘が、まるで自立しているかの様に起き上がりドレアの方を向く。

それは…巨大な棘の壁だ。ゆらゆらと棘が蠢いている。
棘一本の長さはドレアの剣の刃より長いだろう。突きを放てば自身がダメージを喰らう。

「だったら顔!!」

ドレアはヤマアラシの側面に走り出し、近くの太い木の幹に向かい飛び跳ねた。垂直な木の幹に脚を着け膝を曲げて力を溜めるドレアは、突きの構えから対角線上に有るヤマアラシの顔めがけ渾身の突きを放つ。

木の幹に抉れた跡が残る。恐らく彼女は全力を出したのだろう。

モラフを守る為の全力を…

その渾身の突きは、ヤマアラシの体格には似つかわしく無い小さな左目を捕らえた!

実に見事だ!

断末魔の様な呻き声を上げるヤマアラシ。間違い無く、
致命傷だろう。左目を庇う様に巨体を揺らす。

本当はこのまま残りの右目も突き刺し完全に視界を奪いたかったドレアだが、その巨体を揺らす衝撃は大事な剣を手から放す程だった。

剣を奪われた形になってしまったドレアは攻撃の術を失ってしまう。

「援護します!」

ヤマアラシの尾を斬りつけるのはユッカだ。下がれと言われたのに加勢するユッカ…当然、ドレアは激怒する。

ヤマアラシを前後で挟む形になった二人。視覚が万全では無いヤマアラシも、後方からの殺気には気が付いていたのだろう。

「え?」

咄嗟の判断だった。考える時間は無かったが、無意識に身体が反応してくれた。ヤマアラシは自分の尾を振り、器用に棘をユッカに向かい飛ばして来た。両手の剣を交差し何とか弾くのだが、衝撃でモラフの方まで吹き飛んでしまう。

仰向けになるユッカの左耳の近くに弾いた棘が風を切り裂く様に落ち真横の地面に突き刺さる。

目を見開き、倒れたまま空を見るユッカ。

あと数センチ…横に落ちていたら…。

「ビビるな…ちびるな…アタシ!!」

再び立ち上がるユッカにモラフが叫ぶ。

「ユッカ!その刺さっている棘をアイツに思い切り投げつけてやるんだ!」

指示?命令?…御主人様の声!

自分の身長より長い棘を掴む。常人…いや10歳の女の子が投げれる分けがない。
(儂は試合でユッカの力に驚いたのじゃ…出来る!)

「ありったけ!!」

勢いよくトゲをヤマアラシに投げ返してやるユッカ。口を膨らまし、顔を赤くしながら右腕を振り抜く!

コントロールは?

確かにヤマアラシに投げ返したのだが失速する事無く、
ヤマアラシの頭上を超えて…

「良くやった!!」

ヤマアラシの頭上を超える程、高く舞い上がるドレア。
放たれた棘を両手で掴み、勢いに抗いながらヤマアラシの右目に棘を突き刺す!

「私の剣を…返しなさい!!」

ヤマアラシは両目の視力を失う。何時も自分を見た者は逃げ出すのに、この小さな人間共は、何故…向かってくる?俺は森の頂点にいるのだぞ!誰も勝てないはずなのに…

痛みと暗闇がヤマアラシの足取りを重くする。真っ直ぐ歩けるだろ?森の奴らは道を何時も開けるだろ?今日もそうなるのではないのか?

誰だ!お前は誰だ!何故俺の前に立ち塞がるんだ!邪魔するなら俺の棘で身体を刳ってやるぞ!

知ってるだろ?……俺は、この森の王だぞ…

ああ…何だか腹が痛むし眠いな……家まで帰るのが面…

普段から見慣れた雑木達がヤマアラシの行く手を阻み、
白毛の腹部には…自分の棘が深々と刺さっている。

誰もが近づく事を避け、彼もまた、鋭く成長した棘を纏う者として他者を避けた。

1人で良いんだ…

でも、母だけは違った。自身の針毛が息子の針毛とぶつかり愛情を注ぐには痛みを伴わないといけない。それでも母は寄り添ってくれたんだ!

必死に寄り添い傷つく親子…

遥か昔に忘れた温もりが…恋しくなる。

今日は寒いな…あぁ…また冬がくるんだ……

こんな棘が無ければ…

ヤマアラシの…ジレンマ。

(すまんのう…眠ってくれ。)

ヤマアラシの腹部に折れた棘を突き刺したモラフ。

……狩る側の責任を果たす。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処理中です...