異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1803【順来来】

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 ――ときおり、

「好き勝手に暴れやがって!」
 と、逃げ回る連中と違って気骨ある面子が仕掛けてくるけども、

「ふんっ!」
 仕掛けてきても高順氏を中心とした騎兵たちを前にすれば、ろくに反撃も出来ずに散っていく。
 混乱する軍勢の中を挑んでくることに高順氏の評価は高い。
 高くても挑んでくる以上は躊躇なく屠っていくところは、前戦で戦う者として節義ってところか。

 トゲトゲ装備のカズンもそうだけど、挑んでくる気骨ある面子はラダイゴロスの周囲を守護する馬廻の連中かもしれない。
 多分だけど、ハリエットの報告にあった負傷して戻ってきたメッサーラの周りに集まった面々がこういった連中だろう。
 
 その面子の中には混乱した者達の収拾に励む者もいるんだけども……、

「あの者を」

「はっ!」
 高順氏が穂先を向ければ――、

「討ち取りました」
 と、ロンゲルさんを中心とした騎兵達の騎射により、収拾に奔走する者達が射殺されていく。
 これにより相手方が混乱から回復することが難しくなっている。
 どうにもならないな。
 完全にこちらがイニシアチブを握っている。
 攻撃を加えても反撃をすることなく逃げ惑うだけ。
 大軍勢ゆえに逃げたところで互いにぶつかり合って動きが止まり、そこを騎兵達に刈り取られていく。
 拠点内は阿鼻叫喚。
 嘆きからくる叫びが方々ほうぼうから尽きることなく上がる。

「圧倒的!」
 魔法を放ち吹き飛ばしていくコクリコはご満悦。
 自分の力で十万の軍勢を恐怖のどん底に叩き落としていることに悦に入っている。

姑娘クーニャンに遅れることなく」
 先頭で指揮官がそう言えば、瞬く間に騎兵全体に伝播し、一切の慈悲もなく攻撃を繰り出す。
 脅える敵兵は逃げ惑いながらも必ず目を向ける場所がある。
 それはこちらの先頭。
 白銀の鎧兜に棚引かせる真紅の外套。
 得物の穂先と兜の頭頂部には赤毛からなる意匠。
 目立つ存在が振るう力に恐れ戦く者達。

「遼来来ならぬ――」

「順来来ですね」
 俺が言おうとしたのに……。先生が俺から発言を奪うとは……。
 よほど言いたかったのだろうか。

「順来来か――」
 お! なにやら高順氏も気に入ったご様子。

「張遼の二番煎じとなってしまうが、それもまた良し!」
 二番煎じとか言いつつも笑みを見せて喜ぶあたり、張遼のことを気に入っているようだな。
 呂布を支えていた武の二枚看板みたいなものだしな。

「順来来!」
 普段あまり大声を出さない高順氏の代わりに俺が腹式呼吸をきかせて声を張る。
 逃げ惑うオーク達が俺の声に体をビクリと振るわせる。
 声を上げつつ俺が高順氏へと手を向けてからの順来来発言。
 俺がなにをしているのかジェスチャーで理解したようで、一人のオークの口が俺と同じ動きを見せていた。
 俺は高らかに。オークは恐怖で震える口で。
 同じ発言をしても真逆の感情だ。

「順来来!」
 再び発せばこれに戦意高揚中のロンゲルさんたちも――、

「「「「ジュンライライ!!!!」」」」
 と、唱和。
 喚声が一帯を支配すれば、

「なんともむず痒い」
 高順氏は照れくさそうだったが、白銀の鎧兜を纏う存在が先頭で大立ち回りをし、周囲からはその人物の推参を相手方へと伝える大合唱。
 
 この気迫に気圧されてしまい蜘蛛の子を散らすようにして逃げ惑う。
 戦う気もない。
 消火作業も行えない。
 心がぽっきりと折れた模様。

「素晴らしい」
 先生、大満足。
 十万からなる軍勢が戦うことを止めて寡兵相手に逃げ惑う。
 後方で策を練り相手をその策にて沈める時の達成感とは違い、前線で力にて場を支配する光景には高揚感を覚えるということだった。

「合肥の戦いの後、文遠君は泣く子も黙ると称されたということでしたが、これは蹂躙王ベヘモト軍にも言えることですね」

「張遼と肩を並べられるのは光栄だな」
 油断が許されない戦闘中だが知者こと先生に、一緒に戦っていたことのある存在と比肩されれば嬉しかったようで、俺が見た中で一番に顔をほころばせていた。
 
 だがしかし、

「訂正ですよ先生」

「訂正ですか?」

「高順氏は泣く子も黙るじゃないです。泣いている子たちを笑顔にして笑い声を上げさせる存在です」

「――ふむふむ。なるほど」
 要塞トールハンマーの背後には人々の営みがある。
 魔王軍の脅威にさらされていた一年前と違い、今は一年前よりも安息の地となっている。
 安息の地を与えているのが要塞の守護者たちとその中心である高順氏だ。
 高順氏と守護者たちがいるからこそ、子供たちが笑顔で日々を過ごせている。 
 と、中々にクサい発言を継いでしまう。

「知者の言うように、勇者は人垂らしの才能に秀でている」

「そうでしょう」

「ですから誑しではなく本心ですから」

「本心で言えるから分かる者には分かる。裏が無いからこそその言葉に絆されるんだろう。立派な人誑しだ」
 俺なんかの言葉でそうは――、

「然り然り! 公爵様の今のお言葉を耳に出来ただけでも最高の誉れ」
 大喜びのロンゲルさん。
 でもって、ロンゲルさんを初めとして騎兵の皆さんがキラキラと目を輝かせて俺を見てくる。
 俺の言葉がよほど嬉しかったご様子。
 そんな目で見られたら、俺こそむず痒くなるってもんだよ。
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