異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1804【嘘くさい】

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「本音で人心を掴むことが出来る主のソレは天稟と言ってもよいでしょう。その結果、従う者たちは潜在する力を十全に引き出すことができ、良い働きをします。いま正に眼前の光景のように」
 逃げ惑う敵。
 対してこちらは今まで以上に活気づく。
 闘気の籠もった鏃と穂先が次々と背中を見せる敵を無慈悲に屠っていく。

 言葉をかけるってのは大事なんだな。

「さて陥陣営殿」

「分かっている」
 言葉が少なくても分かってしまう。
 やはり相性が良いなこの二人。
 喊声が順来来で統一される中、先生の指揮棒がここで空へと向けらる。
 次には大きな円を一度描く。
 これに目を向ける騎兵たち。
 次には指揮棒が右側へと倒される。
 同時に高順氏が手綱を引けば、ワーグの大きな頭が右へと傾く。
 傾く先からは拠点内の設置物を巧みに躱しながらこちらへと迫ってくる連中の姿。
 慌てふためいているここの連中とは違って落ち着いていた。
 
 とはいえ――、

「そこまで練度が高そうには見えない増援だな」
 と、零してしまう。
 勢いはあるが、勢いだけだった。
 一応、隊列を組んではいるが、そう見せているだけ。
 ほころびを見せている箇所も多々ある。
 体を成しているだけってのが正直な感想だ。
 
 設置物を躱しながらってのがあるから隊列にズレが生じるというのは理由にはならない。
 だってこっちは乱れることがないからね。
 単純に技量による差が浮き彫りになっている。先頭に対して後列が追従できていない。

「ホウホウホウホウッ!」
 俺が心底で評価をしていれば、その相手側からは喊声が上がる。

「まるで遊牧の民のような鬨の声だな」
 勢いよく攻めてくる連中に高順氏は些か楽しげ。
 迫り来る相手はワーグに跨がったオーク達。
 報告にあったガガドムサが後方から率いてきた二万の内の二千からなる騎獣隊だろう。
 拠点の周囲を警邏していた連中のお仲間だな。
 臆せずこちらへと勢いよく攻めることが出来るのは、要塞戦を経験しているここの面子と違い、高順氏や騎馬兵の強さを目の当たりにしていない無知さが原因だろう。

「陥陣営の恐ろしさをちゃんと叩き込んでやらないとですね」

「自分よりも勇者の威光こそ知らしめないとな」

「確かに」
 一応は俺が代表だからな。俺を覚えてもらわないとね。
 ここは高順氏と一緒に前へ――、

「しばし」
 打って出ようと思えば先生に止められる。

「分かっている」
 そう返す高順氏。

「威光を知らしめるのはまた別の機会だな」
 次には俺を見つつそう言ってきた。
 今はその時ではないということか?
 なぜに? と、問おうとしたところで、

「突撃する!」

「御意!」
 高順氏が声を張り上げるという珍しい姿。これにロンゲルさんが続き、角笛を勢いよく吹く。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
 またも珍しい高順氏の咆哮を思わせる喊声。
 次には喊声による唱和が俺たちの背後から続き、馬たちの脚の動きが激しさを増す。
 大地を震わせての突撃。
 この勢いを見ても相対する騎獣兵は止まることなくこちらへと迫ってくる。

「馬と違って巨狼は飛びかかってきますよね」

「それは問題ない」
 高順氏もワーグを駆っているからその辺は抜かりがないといったところ。
 こちらのドドドドドッ――! という迫力ある蹄の音とは違い、相対する方からはダダダダッ! と、こちらよりも軽やかな音。
 直進的な馬と違い、ジグザグに体を左右に振りながら迫ってくる騎獣兵。

「来ます!」

「対処する」
 向こうの先頭がワーグの腹を踵で叩けば、それに従い巨狼が跳躍。
 先頭に続いて次々と同じ動きをしてくる。
 統一性のないポールウェポンを構え、跨がっているワーグは牙を剥いて躍りかかってくる。
 
 相手の動きを見極めたところで、

「跳べ」
 の、一言。
 次には、

「おう!?」
 高順氏に続く後続の騎馬がシンクロしたかのように同時に跳躍。
 俺のダイフクもこれに合わせて跳ぶ。
 七千が一つの生き物を彷彿とさせる動きを見せてくれる。
 なめてたよ。
 馬ってこんなに跳ぶんだね。
 それでもやはりワーグの方が跳躍力じゃ勝っている。
 あえて後手を選択した高順氏。
 オーク騎獣隊の落下時に合わせて跳ぶことで高さを互角にした。
 高さが互角となったところで――、

「叩け!」
 そう発せば、騎兵の皆さんが手にした槍の柄で思いっきりワーグの頭部へと打擲。
 ギャイン!? といった鳴き声が耳朶へと届く。
 
 なんとまあ、

「見事な打擲を見舞ってやりましたね」

「こちらの兵と馬は優秀なのでな」
 存じてますとも。
 騎兵たちだけでなく高順氏の駆るワーグも仕掛けて来た相手方のワーグを前脚で見事に叩き伏せていた。
 鋼鉄の爪を装備していたがその部分を見舞うのではなく、肉球辺りで叩くだけに留めていたようだった。

 相手先頭部隊の出鼻を挫いてやれば、後続は勢いが削がれた様子。
 
 ここが攻め時――なのだが、

「ぬぅぅぅ……。こ、これは驚異! 皆の者! これより……て、敵陣より脱する!」
 口を開いた高順氏の声には焦燥があった。
 ――……うむ。
 なんというか……。嘘くさくて仕方なかったけども……。
 
 この高順氏の発言に先生は腹を抱えて笑っているし。
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