異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,811 / 1,861
視線は南へ

PHASE-1811【強力若本】

しおりを挟む
「どうなのさトール!」

「頼りにしてるよ。俺たちが苦戦している中でもきっちりとフォローしてくれるから心強いよ。死にかけた時も救われてるし。これから先も頼らせてほしい」

「へ~頼りたいんだ」

「おうよ。頼らせてよ」

「ふんふん。いいですとも」
 笹の葉のような長い耳がご機嫌に動いている。
 凄く喜んでくれているようでなにより。

「きぃぃぃぃぃぃ! お尻と尻尾の付け根部分がムズムズするぅぅぅぅう!」

「本当に大丈夫なのかミルモン!」

「ここは、ここはなんとも気持ちの悪い場所だよぉぉぉぉぉぉお!」

「「ミルモン静かに!!」」
 二人してミルモンに言うも、車座から離れて壁上の通路を転げ回るミルモンは体中が痒いとばかりに全身をカキカキしながら奇声を上げる。

「大丈夫か!? あれか!? 食べ物にアレルギーでもあったのか!?」

「違うよ。そうじゃないよ! そういった問題はないんだよ!」
 元気に返事はしてくれるので大丈夫そうだが、

「静かにしてくれないと話ができないでしょ!」

「そうですよ。ミルモンは離席したほうがいいですよ」
 なんだ? まだなんか話すことあんのか?

「しんどい、しんどいよ!」

「五月蠅いってばミルモン」

「静かにしなさい! ゆっくりトールと話が出来ないでしょう! こっちはまだ話したりないんですからね」

「はわわ……陽の気持ちが入ってくるよ! ひぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

「本当に大丈夫かミルモン!?」

「ブ……」

「ブ?」

「――ヴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!」

「「ミルモン五月蠅い!!」」
 いつもの愛らしい声からかけ離れた強力若本を彷彿とさせる迫力ある雄叫びが夜空へと轟いたことで、何事か!? と、立哨の兵が集まってきた。
 褒め称えたくなるほどに素早い現着だった。
 
 その後も狂いっぷりが凄かったので要介護と判断し、立哨さん達にも迷惑だったので壁上での食事はお開きとなった。
 ――本当に急にどうしたってんだよ……。
 なんか疲れた……。

 ――。

「おお!」
 翌朝の壁上から北側を見る。
 整然とした隊列で多くの兵達が要塞とその側に設けられた宿所へと入っていく。
 俺たちが不仲兄弟の所へと攻めた時にも心の友とナブル将軍が励んでくれている後方から直ぐに要塞へと派兵されてきたけども、更なる兵が集結してくる光景を目にすればいよいよって感じだな。

「多くの兵や協力者を収容しても余裕のあるこの要塞って凄いよね」

「気分はどうだ?」

「大丈夫」

「なんだったんだあの叫びは」

「いや~。体中どころか心の中までたまらなくむず痒くなってね。あんなのは二度とゴメンだね」

「なにが?」

「兄ちゃんは一人だけを見とけばいいの。オイラは兄ちゃんの忠実な使い魔だからね。余計な繋がりは阻止するよ。まあ保険は必要って時もあるだろうけどね。全ては兄ちゃんのため。でもあのむず痒さだけは本当に勘弁だよ……」

「?」
 何を言っているんだミルモン。
 本人がすっきりしているならいいですけども。

「さて、先生は王都に帰ったし、ここに戻ってくる間なにをすべきか」
 要塞の補強を手伝うってのもいいだろう。黒鍬を中心とした建築特化組が南へと向かったからその分、要塞の働き手が少なくなっているしな。

「兄ちゃんがすることじゃないよね」

「とはいえ、俺には頭を使うようなことは出来ないからな」
 王様や先生、各地の頼れる面々が合流したら直ぐに南伐へと移行できるように少しでも手間を省くため、軍編制は高順氏やゲッコーさん、ベルが中心となって行ってくれている。
 俺が横から口を出せるような場所じゃない。
 となれば驚異の対処だが、この辺で驚異になりそうなモンスターはいないようだし、大型ワームのウォーターサイドなんかは要塞防衛のために利用するって考えもあるようだから討伐対象外。

 ――うむん。

「以外とやることがないな」

「休めってことだよ」

「そうだな」
 ゆっくり出来るのはありがたいが、この世界に来てからずっと動き続けているせいか、何かしらをやっておかないと不安になってくるんだよな。
 サラリーマンなんかが定年退職後にやる事がなくなって、心が病んでしまうのに近いのがあるな。

「時間があるならば、ここは鍛練でしょう」

「おうジージー」
 飛行能力があるってのは重宝するね。
 シャルナだけでなくジージーも空からの監視を担当してくれている。
 要塞にとって早期警戒は重要だから大助かりだ。

「普通にグレートヘルム取るんだな」
 中々にインパクトのある顔なんだよな。

「取って行動してもここの面々は気にしないようですので」

「いろんな種族が集まっているから顔が虫でも気にしないようだね」

「そういう事ですな」
 無遠慮なミルモンの言葉を全く気にすることなく返すジージーの懐の深さよ。
 正直トラウマを克服したとはいえ、まだまだジージーのセミの頭部を直視するってのは俺には難しい。
 その点ではこの地の面々の受け入れていくスタイルを見習わなければならない。

「新しい技などの習得も今後の戦いには必要となるでしょう」

「そうなんだよな」

「ならば習得してみてはいかがでしょう。南への進軍が近いことから時間が限られ習得までは至らないかもしれませんが、天啓を得るきっかけになるかもしれません」

「なに言ってんのさジージー。兄ちゃんは勇者だよ。この短い期間でも強力な技を習得するさ」

「確かに!」
 確かに! じゃないよ。
 そんなに簡単にできたら苦労しないんだよ。
 こちとら天才とはほど遠いTHE・凡人だぞ。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...