異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1810【夜空の下で圧を受ける……】

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 ――夜空の下、壁上で車座になって二人が準備してくれた食事をいただく。
 自分の顔を隠せるくらいのドーム状からなるパンを小動物みたいにもしゃもしゃと食べつつ、シャルナがよそってくれたクリームスープをスプーンも使わずに豪快に飲み干す様は酒豪の如し。
 俺とミルモンのために準備してくれたんじゃないのかな?

「どうですか要塞の食事は」

「最高だな。味もよければゴロゴロと大きな具材も豊富に入ってる。パンも一人でデカいのが食える」
 前線の地でこれだけの食事を取れるのは喜ばしいことだ。
 これなら兵士たちの士気も高い状態を維持できる。

「このパンの材料はトールの領地であるミルドから常に届けられています。ミルドからの物資だけでもここと後方の拠点の兵達の胃袋を十二分に満たせていますよ」

「流石は戦火を免れて、且つ王領に次いでデカい領地なだけはあるな」
 爺様と荀攸さんの指示の元、人々が懸命になってくれているってことだな。
 これに加えてこのリオスの収穫も今年、来年と右肩上がり。
 戦火に見舞われないかぎり収穫も増え続ける。

「空腹に困らない世の中にしていかないとね」

「いいこと言うね」

「自分、勇者なんで」

「そんな勇者様には御代わりをあげましょう」
 言いつつまたもよそってくれる。

「ではこちらも」
 コクリコからもパンを手渡される。どんだけ持ってきてんだ……。

「ところで――」

「どうしたシャルナ?」
 言いたいことがありそうなのになぜか途中で止めたな。
 なんかモジモジしてるし。

「ロイル領での事を詳しく聞きたいですね」
 シャルナに代わってコクリコがズイッとこちらに近づいての発言。
 なんか圧が怖いよ……。

「ロイル領での話ってなると――ゴロ太を無事に救出して、母親のシュネーとも再会できたことだろう?」

「それは本当に良かった」

「まったくです」

「それくらいだな」

「違うでしょう! もっとこう――あるでしょう!」

「何がだよ! なんもねえよ。難敵と戦って勝つ事ができたことくらいだな」

「それは本当に良かった」

「まったくです」
 ――……なんなんだ……。
 なんで二人揃って同じ内容で返してくるんだよ……。

「でも、もっとあるよね」

「だから何が?」

「ベルと一緒に行動してたんだから、なんかこう……あるでしょ?」

「ロイル領から戻った後、どうも二人の仲がいいようですからね」

「え、そう見えるのか? それはそれで嬉しいじゃないンッ!?」
 えっ!? なんでぇ!?
 凄い衝撃が俺の右頬に走る……。
 あまりの手の速さに見切ることが出来なかったよ……。

「嬉しがってどうするんですか!」
 痛い……。

「お前はなんで俺を平手で打つんですかね。しかもそこそこの威力だったよ! ツッコミとしては0点だよ! 痛くなく音が大きいからこそのツッコミの妙ってやつだろうが!」

「トールがふざけたことを言うからです」

「今のは殴られても仕方ないね」

「はぁ!? なんだ二人揃って。サービスいいと思った矢先にひどい仕打ちじゃねえか!」

「距離が近くなっていることを聞いているのですよ」
 怖いよ……。声のトーンが輩みたいだよコクリコ……。

「別に近くなってねえよ! なってるように見えてんのかよ」

「見えてますね」

「見えてるのぉぉぉぉぉぉお!」

「興奮しないの!」

「だいっ!?」
 今度はシャルナからの一撃。左頬に平手打ち……。
 こいつらなんなんだよ……。
 なんて危ない暴力系なんだ……。
 ――……あ、そうだった……。初対面時にコイツ等は俺の大切な股間を殴ってるじゃねえか。
 そもそもが危ない奴等だったんだ……。

「どうなんです!」

「だから何もねえよ。一緒に行動はしたし、一緒に戦いもしたけどいつも通りの旅でしかなかったっての!」
 むしろ距離感がもっと縮まってほしいくらいだよ! と、言うのは格好が悪いので心の中でしか継がない俺氏。

「それにしてはベルの対応が柔らかいよね」

「その通りです」

「あのさ、一年以上一緒に行動してんだから少しくらいは態度を軟化させても問題ないだろう。二人だって俺に対して軟化してるだろう。ベルも二人くらいもっと和らいでもいいと思うんだけどね」

「そんなに私たちって和らいでるかな?」

「頬は殴られても股間が無事ってのは初対面の時と違ってだいぶ軟化してると思うぞ」

「それはトールが生意気だったのが問題なんですよ」

「人様の家に入り込んで盗み食いしていた野盗まがいの相手に対応するのに生意気なんてあるかよ」

「それは確かにその通りですね。生きるためだったので」

「そう言われるとなにも言えねえよ。まあ、あの出会いがあったから今は頼りになる存在になってくれているけどな」

「ほ、ほほおぅぅぅぅぅう!」
 なんだその獣のような声は……。
 美少女の出す声じゃねえよ……。

「ああ……うぅぅ……」

「どうしたミルモン?」

「き、気持ち悪い……」

「へ? 気持ち悪いってなんで?」
 なにがどうしたミルモン。なぜ尻部分を激しく擦ってるんだ?

「私はどうなのよ!」
 今度はシャルナかよ。
 なんでガッツリと迫ってくるんだよ。
 目が怖いんですけど……。
 射手としての炯眼なんですけど……。 
 射殺されそうな気がしてならない……。
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