1,809 / 1,861
視線は南へ
PHASE-1809【夜空の下】
しおりを挟む
「これは三百万を相手にしなくてもいいかもしれませんね」
「そもそも三百万という総兵力を全て動員というのは難しいですからね。動かそうと思えば可能ではあっても、武具に兵糧の調達となれば総動員は至難」
「ですよね」
「それでも領地を持っているとなれば、それを一族で分割統治しているでしょうから――」
ここでも悪い顔になる先生。
凄いですよ。ベルとゲッコーさんを悪い笑みだけで仰け反らせるんだから。
俺なんて仰け反るどころか、腰を下ろしていた床几から立ち上がって後退してしまう……。
圧が凄すぎるんだよ……。
――十四男から継承四位まで上り詰めたガガドムサの漲る野心。
――これに危機感を持つ総領息子のラダイゴロス。
こいつらを上手い具合に動かす事が出来れば、内乱へと発展させることも不可能じゃない。
調略がやりやすそうな野心家をこちらが操れば成功もしやすいと先生。
だからこそ俺たちはガガドムサを驚異として扱う。
「こちらが驚異を感じるのはガガドムサってことにすれば、ラダイゴロスは焦るし、ガガドムサは増長」
「増長から生まれる我らが英雄です」
「当人は自分が操られていることすら理解することなく、こちらの推し活で一番になるために動くんでしょうね」
「その通り。存在を感じさせることなく操るからこその策謀です」
言えば、策謀という発言を耳にした高順氏が不機嫌に鼻を鳴らす。
包囲からの水攻め。からの裏切りで負けたからな呂布軍。
この時、活躍した軍師は荀攸さんと郭嘉だったよな。
自分はその時の戦いには関係していないからとばかりに鼻息をスルーしつつ、
「今後は本格的な南伐となります」
「ですね」
「足がかりとして、空き家となった木柵の拠点を手に入れましょう」
王都からの軍勢が到着する前にあの地を手に入れる。
十二万を野営させられだけの規模を有していたあの丘陵地帯は今後はこちらサイドの前線基地となるとのこと。
以前にも活躍した土木特化の兵達であるゲッコーさん命名の黒鍬を中心とし、要塞トールハンマーで補修と改修に参加した面々や白装束のスケルトン達が大いに活躍してくれることになりそうだな。
そしてその先には、
「蹂躙王との直接対決か」
「呑まれないことだな」
「呑まれないさ。蹂躙王が強力であっても結局は通過点でしかないからな」
「その意気込みのままぶつかれば負ける事はない」
「おうよ。ベルもいるしな」
「この力を大いに振るおう」
「頼りになるね」
言えば優しい微笑みが返ってくる。
テンションが上がるってもんだ。
「ベルがトールに対して優しくなりすぎていますね!」
「優しくするとつけ上がるからね。もう少し厳しくするべきだね!」
「いいじゃねえか。俺がそれだけ頑張ってるってことなんだよ」
「「ぬぅぅ――」」
コクリコとシャルナの俺を見てくる眼力たるや。
さながらハンターですぜ。
なんか連携が上手くとれているようなので、今後の戦いではコクリコとシャルナが今まで以上に良いところを見せてくれそうだ。
「なにやら背中がむず痒くなってきたので、要塞に到着次第、私は王都に戻ります。また直ぐ来ますのでそれまでは要塞の堅守と――」
チラリとゲッコーさんを見れば、
「問題ない。新しい拠点となる場所には護衛として俺の仲間を派遣する。もし南方から大軍勢が動くと分かれば直ぐに後退させるがいいかな?」
「もちろんです。総領息子と十四男が動かなくとも、もしかしたら残りの後継者候補や三百万からなる軍勢の一部が代わりに出てくる可能性もあるでしょうからね」
いくら総動員が難しいと言っても、前線が下がれば後詰めが動く。
しかも規模はこちらとは比較にならない。
偉大なるかな数の力ってやつだ。
一番いいのは動かないでいてくれることだけども。
ハリエットが潜入してくれているから動きがあれば直ぐに連絡が入ることは有り難い。
敵の攻撃を受けることなく迅速な後退が可能だからな。
――土道を抜けてからの湿地からなる土地へと戻る。
――うむ。要塞は平和そのものだな。
「夜になっても篝火が全体を照らしているから要塞の大きさがよく分かるってもんだね」
「なっ! これなら見ただけで攻める側は居竦んでしまうよな」
要塞に来てからも忙しかったが、ようやく一息つける。
帰還後ミルモンと一緒に壁上で夜空を見上げつつ茶をすする。
「ふぃぃ~」
「寒いか?」
「ちょっとね。南の丘陵は緑に染まってたけど、湿地帯の夜はまだまだ冷えるよ」
「そういう時はスープだね」
「お、おう」
急に現れるじゃないかシャルナさん。
発言に律儀とばかりにスープの入った鍋を持ってきてくれている。
「グツグツだな」
「オイラが満足しそうなクリームスープだ」
喜べばシャルナが早速とばかりにミルモン用にと用意していた小さな木皿によそってくれる。
立ち上がる湯気から美味さが伝わってくるね。
「スープと言えば――むぐっ。パンでしょう!」
「頬ばりながら言ってんじゃないよ」
コクリコまで参加かよ。
「どうしたよ二人揃って」
「背中がうら寂しものだったから話しかけてあげたんだよ」
「なんだその文学的な表現は。そもそもミルモンといるから寂しくもないし」
「まあまあ、美味しいパンもどうぞ」
「おう、サンキュー」
ドーム状のライ麦パンを頬ばれば、香ばしさとわずかに感じる酸味。
「上手いね」
「そうでしょうとも」
なぜか得意げになるコクリコ。自分もここに来てから沢山食べてます! と続ける頬には欠片がくっついているから説得力がある。
「そもそも三百万という総兵力を全て動員というのは難しいですからね。動かそうと思えば可能ではあっても、武具に兵糧の調達となれば総動員は至難」
「ですよね」
「それでも領地を持っているとなれば、それを一族で分割統治しているでしょうから――」
ここでも悪い顔になる先生。
凄いですよ。ベルとゲッコーさんを悪い笑みだけで仰け反らせるんだから。
俺なんて仰け反るどころか、腰を下ろしていた床几から立ち上がって後退してしまう……。
圧が凄すぎるんだよ……。
――十四男から継承四位まで上り詰めたガガドムサの漲る野心。
――これに危機感を持つ総領息子のラダイゴロス。
こいつらを上手い具合に動かす事が出来れば、内乱へと発展させることも不可能じゃない。
調略がやりやすそうな野心家をこちらが操れば成功もしやすいと先生。
だからこそ俺たちはガガドムサを驚異として扱う。
「こちらが驚異を感じるのはガガドムサってことにすれば、ラダイゴロスは焦るし、ガガドムサは増長」
「増長から生まれる我らが英雄です」
「当人は自分が操られていることすら理解することなく、こちらの推し活で一番になるために動くんでしょうね」
「その通り。存在を感じさせることなく操るからこその策謀です」
言えば、策謀という発言を耳にした高順氏が不機嫌に鼻を鳴らす。
包囲からの水攻め。からの裏切りで負けたからな呂布軍。
この時、活躍した軍師は荀攸さんと郭嘉だったよな。
自分はその時の戦いには関係していないからとばかりに鼻息をスルーしつつ、
「今後は本格的な南伐となります」
「ですね」
「足がかりとして、空き家となった木柵の拠点を手に入れましょう」
王都からの軍勢が到着する前にあの地を手に入れる。
十二万を野営させられだけの規模を有していたあの丘陵地帯は今後はこちらサイドの前線基地となるとのこと。
以前にも活躍した土木特化の兵達であるゲッコーさん命名の黒鍬を中心とし、要塞トールハンマーで補修と改修に参加した面々や白装束のスケルトン達が大いに活躍してくれることになりそうだな。
そしてその先には、
「蹂躙王との直接対決か」
「呑まれないことだな」
「呑まれないさ。蹂躙王が強力であっても結局は通過点でしかないからな」
「その意気込みのままぶつかれば負ける事はない」
「おうよ。ベルもいるしな」
「この力を大いに振るおう」
「頼りになるね」
言えば優しい微笑みが返ってくる。
テンションが上がるってもんだ。
「ベルがトールに対して優しくなりすぎていますね!」
「優しくするとつけ上がるからね。もう少し厳しくするべきだね!」
「いいじゃねえか。俺がそれだけ頑張ってるってことなんだよ」
「「ぬぅぅ――」」
コクリコとシャルナの俺を見てくる眼力たるや。
さながらハンターですぜ。
なんか連携が上手くとれているようなので、今後の戦いではコクリコとシャルナが今まで以上に良いところを見せてくれそうだ。
「なにやら背中がむず痒くなってきたので、要塞に到着次第、私は王都に戻ります。また直ぐ来ますのでそれまでは要塞の堅守と――」
チラリとゲッコーさんを見れば、
「問題ない。新しい拠点となる場所には護衛として俺の仲間を派遣する。もし南方から大軍勢が動くと分かれば直ぐに後退させるがいいかな?」
「もちろんです。総領息子と十四男が動かなくとも、もしかしたら残りの後継者候補や三百万からなる軍勢の一部が代わりに出てくる可能性もあるでしょうからね」
いくら総動員が難しいと言っても、前線が下がれば後詰めが動く。
しかも規模はこちらとは比較にならない。
偉大なるかな数の力ってやつだ。
一番いいのは動かないでいてくれることだけども。
ハリエットが潜入してくれているから動きがあれば直ぐに連絡が入ることは有り難い。
敵の攻撃を受けることなく迅速な後退が可能だからな。
――土道を抜けてからの湿地からなる土地へと戻る。
――うむ。要塞は平和そのものだな。
「夜になっても篝火が全体を照らしているから要塞の大きさがよく分かるってもんだね」
「なっ! これなら見ただけで攻める側は居竦んでしまうよな」
要塞に来てからも忙しかったが、ようやく一息つける。
帰還後ミルモンと一緒に壁上で夜空を見上げつつ茶をすする。
「ふぃぃ~」
「寒いか?」
「ちょっとね。南の丘陵は緑に染まってたけど、湿地帯の夜はまだまだ冷えるよ」
「そういう時はスープだね」
「お、おう」
急に現れるじゃないかシャルナさん。
発言に律儀とばかりにスープの入った鍋を持ってきてくれている。
「グツグツだな」
「オイラが満足しそうなクリームスープだ」
喜べばシャルナが早速とばかりにミルモン用にと用意していた小さな木皿によそってくれる。
立ち上がる湯気から美味さが伝わってくるね。
「スープと言えば――むぐっ。パンでしょう!」
「頬ばりながら言ってんじゃないよ」
コクリコまで参加かよ。
「どうしたよ二人揃って」
「背中がうら寂しものだったから話しかけてあげたんだよ」
「なんだその文学的な表現は。そもそもミルモンといるから寂しくもないし」
「まあまあ、美味しいパンもどうぞ」
「おう、サンキュー」
ドーム状のライ麦パンを頬ばれば、香ばしさとわずかに感じる酸味。
「上手いね」
「そうでしょうとも」
なぜか得意げになるコクリコ。自分もここに来てから沢山食べてます! と続ける頬には欠片がくっついているから説得力がある。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる