異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1809【夜空の下】

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「これは三百万を相手にしなくてもいいかもしれませんね」

「そもそも三百万という総兵力を全て動員というのは難しいですからね。動かそうと思えば可能ではあっても、武具に兵糧の調達となれば総動員は至難」

「ですよね」

「それでも領地を持っているとなれば、それを一族で分割統治しているでしょうから――」
 ここでも悪い顔になる先生。
 凄いですよ。ベルとゲッコーさんを悪い笑みだけで仰け反らせるんだから。
 俺なんて仰け反るどころか、腰を下ろしていた床几から立ち上がって後退してしまう……。
 圧が凄すぎるんだよ……。
 
 ――十四男から継承四位まで上り詰めたガガドムサの漲る野心。
 ――これに危機感を持つ総領息子のラダイゴロス。
 こいつらを上手い具合に動かす事が出来れば、内乱へと発展させることも不可能じゃない。
 調略がやりやすそうな野心家をこちらが操れば成功もしやすいと先生。
 だからこそ俺たちはガガドムサを驚異として扱う。

「こちらが驚異を感じるのはガガドムサってことにすれば、ラダイゴロスは焦るし、ガガドムサは増長」

「増長から生まれる我らが英雄です」

「当人は自分が操られていることすら理解することなく、こちらの推し活で一番になるために動くんでしょうね」

「その通り。存在を感じさせることなく操るからこその策謀です」
 言えば、策謀という発言を耳にした高順氏が不機嫌に鼻を鳴らす。
 包囲からの水攻め。からの裏切りで負けたからな呂布軍。
 この時、活躍した軍師は荀攸さんと郭嘉だったよな。
 自分はその時の戦いには関係していないからとばかりに鼻息をスルーしつつ、

「今後は本格的な南伐となります」

「ですね」

「足がかりとして、空き家となった木柵の拠点を手に入れましょう」
 王都からの軍勢が到着する前にあの地を手に入れる。
 十二万を野営させられだけの規模を有していたあの丘陵地帯は今後はこちらサイドの前線基地となるとのこと。
 以前にも活躍した土木特化の兵達であるゲッコーさん命名の黒鍬を中心とし、要塞トールハンマーで補修と改修に参加した面々や白装束のスケルトン達が大いに活躍してくれることになりそうだな。
 
 そしてその先には、

蹂躙王ベヘモトとの直接対決か」

「呑まれないことだな」

「呑まれないさ。蹂躙王ベヘモトが強力であっても結局は通過点でしかないからな」

「その意気込みのままぶつかれば負ける事はない」

「おうよ。ベルもいるしな」

「この力を大いに振るおう」

「頼りになるね」
 言えば優しい微笑みが返ってくる。
 テンションが上がるってもんだ。

「ベルがトールに対して優しくなりすぎていますね!」

「優しくするとつけ上がるからね。もう少し厳しくするべきだね!」

「いいじゃねえか。俺がそれだけ頑張ってるってことなんだよ」

「「ぬぅぅ――」」
 コクリコとシャルナの俺を見てくる眼力たるや。
 さながらハンターですぜ。
 なんか連携が上手くとれているようなので、今後の戦いではコクリコとシャルナが今まで以上に良いところを見せてくれそうだ。

「なにやら背中がむず痒くなってきたので、要塞に到着次第、私は王都に戻ります。また直ぐ来ますのでそれまでは要塞の堅守と――」
 チラリとゲッコーさんを見れば、

「問題ない。新しい拠点となる場所には護衛として俺の仲間を派遣する。もし南方から大軍勢が動くと分かれば直ぐに後退させるがいいかな?」

「もちろんです。総領息子と十四男が動かなくとも、もしかしたら残りの後継者候補や三百万からなる軍勢の一部が代わりに出てくる可能性もあるでしょうからね」
 いくら総動員が難しいと言っても、前線が下がれば後詰めが動く。
 しかも規模はこちらとは比較にならない。
 偉大なるかな数の力ってやつだ。
 一番いいのは動かないでいてくれることだけども。
 ハリエットが潜入してくれているから動きがあれば直ぐに連絡が入ることは有り難い。
 敵の攻撃を受けることなく迅速な後退が可能だからな。

 ――土道を抜けてからの湿地からなる土地へと戻る。
 
 ――うむ。要塞は平和そのものだな。

「夜になっても篝火が全体を照らしているから要塞の大きさがよく分かるってもんだね」

「なっ! これなら見ただけで攻める側は居竦んでしまうよな」
 要塞に来てからも忙しかったが、ようやく一息つける。
 帰還後ミルモンと一緒に壁上で夜空を見上げつつ茶をすする。

「ふぃぃ~」

「寒いか?」

「ちょっとね。南の丘陵は緑に染まってたけど、湿地帯の夜はまだまだ冷えるよ」

「そういう時はスープだね」

「お、おう」
 急に現れるじゃないかシャルナさん。
 発言に律儀とばかりにスープの入った鍋を持ってきてくれている。

「グツグツだな」

「オイラが満足しそうなクリームスープだ」
 喜べばシャルナが早速とばかりにミルモン用にと用意していた小さな木皿によそってくれる。
 立ち上がる湯気から美味さが伝わってくるね。

「スープと言えば――むぐっ。パンでしょう!」

「頬ばりながら言ってんじゃないよ」
 コクリコまで参加かよ。

「どうしたよ二人揃って」

「背中がうら寂しものだったから話しかけてあげたんだよ」

「なんだその文学的な表現は。そもそもミルモンといるから寂しくもないし」

「まあまあ、美味しいパンもどうぞ」

「おう、サンキュー」
 ドーム状のライ麦パンを頬ばれば、香ばしさとわずかに感じる酸味。

「上手いね」

「そうでしょうとも」
 なぜか得意げになるコクリコ。自分もここに来てから沢山食べてます! と続ける頬には欠片がくっついているから説得力がある。
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