異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,814 / 1,861
視線は南へ

PHASE-1814【綿飴を作るイメージ】

しおりを挟む
 三分も集中しないといけないこともそうなんだが……、

「……一度で三度の攻撃効果とは言え……」

「忌憚のない意見を」

「では――トール殿が普段、使用している攻撃の方が威力があるかと」

「だよね! 俺自身も思っていたけども、他者からも同意見をもらえると現状と向き合えるってもんだよ。ミルモンが言ってくれたけど時間もかかりすぎだしな。これなら力を練った時の烈火。刀技ならマラ・ケニタルのリーパー系のほうが圧倒的に上だよね」

「ええ。その通りかと」
 時間がかかりすぎなのと、その時間に見合っていない低威力ってのが大問題すぎる。
 パーティーと行動しているなら使用できるってことも脳裏にぎったけど、前衛が三分も時間をかけて烈火よりも火力が低い技を発動しようものなら、敵よりも先にコクリコにボコられちまう。

 技としての片鱗を垣間見たばかりだから現状だと仕方がないんだけども。

「トライアル&エラーだな」
 ひたすらに繰り返していくしかない。繰り返して発動速度を上げていく。
 で、同時に火力も上げる。
 最初が三分ならそれを縮めていって、最終的には秒単位にまで縮めたい。
 
 ――。

「うっし……」
 練兵場に入ってかれこれ三時間。

「ダメダメだな……」
 継いで情けない言葉を漏らす。

「些かですが、風に炎を纏わせるのが速くはなっているかと」

「でも縮めたのは一分くらいだからね。火力も変わってないみたいだし」

「ミルモンの言うとおりだな」
 難しい……。

「でも三時間で一分縮めたからね。あと三時間やれば一分で使用可能になるよ」
 と、単純計算でフォローしてくれる。
 だがしかし、あと三時間やって一分縮める事が本当に可能なら次の三時間では即時発動まで漕ぎ着ける。
 単純すぎるけどもそれをモチベーションにしてやっていくしかない。

 ――……とまあ、そうそう簡単に時間を縮めることなど出来るわけもなく。
 二分の壁が高すぎる……。
 大の字で天井を見ながらの小休憩。
 端っから一日で習得できるなんて思ってはいない。
 だからこそ修行をこなすしかない。
 でも効率化も重要。この地が前線であるから鍛練に時間を割くにしても要領よくしないとね。

 くそ! こんなことなら先生にはこの地に留まってほしかったな。
 ユニークスキルである【王佐の才】があれば習得までスムーズだったかもしれない。
 効果は先生が留まっている場所にいる者達の鍛練なんかが30パーセント向上ってやつだったよな。
 ここにいてくれれば能力の向上が通常時よりも早くなるんだけどな。
 ツッカーヴァッテに乗って帰ったからな~。

 ――ふむん。
 ツッカーヴァッテか。

「ツッカーヴァッテ」

「どうしたのさ?」

「ツッカーヴァッテだな」

「本当にどうしたの?」
 そうだよ!

「ツッカーヴァッテやんけ! ベル命名のツッカーヴァッテ!」

「ビックリしたよ!? 急に起き上がるんだもん」
 大の字で寝転んでいた俺の直上でパタパタと羽を動かしていたミルモンは、矢庭に立ち上がる俺に対して緊急回避をしてみせる。

「ミルモン君。ツッカーヴァッテの意味って知ってるかい?」

「姉ちゃんが命名してたよね。確か――綿飴とかの意味だったような」

「白くてふわふわだったからそう命名したんだよな」

「そうだったよね」

「ちなみにミルモン君は綿飴は好きかね?」

「人並みにはね」

「作り方は知っているかな?」

「食べたことはあるけど分からないね」
 うむ。モンモンの中にはカップラーメンだけでなく綿菓子の概念もあるんだな。
 綿飴、綿菓子――手に入れるなら屋台が主なんだが、

「自分で作れたりする場所もあるんだよな」
 中学の頃、剣道の春季大会の打ち上げで利用していた焼肉屋という名のアミューズメントパークで綿飴を作ってたもんだ。
 割り箸でグルグルと糸状になった砂糖を絡め取っていくことでふわふわの綿飴が出来上がる。

「何を隠そう俺は作るのが上手くてな。小学生が列を作ってたくらいだ。次々と作って手渡す俺は正に職人だったね!」

「それは自分たちで作りたくて並んでたんじゃないの? それを邪魔してたんじゃ?」

「あ……、あの時の子供たちの作り笑いはそういう事だったのか……。小さな頃からあの作り笑い。将来、上司の顔色を窺いながら上手く立ち回って出世できることだろうな」

「何の話? 綿飴は!?」

「おう、そうだった! つまりはあの時に作っていた綿飴をイメージすればいいんだよ」

「イメージね~」

「まあ見ていてくれ」
 ――瞳を閉じて集中。
 左手に握るマラ・ケニタルにイメージを加えて風を纏わせる。
 残火の刀身にラミネート加工したような火を纏わせてから左側へと近づければ――、

「これは!」
 背後から感心の声が上がる。
 目を閉じて集中している俺の代わりにジージーが見てくれる。
 声音からして俺のイメージは問題なさそう。

 やおら目を開けば、

「よし! よっしゃ!」
 マラ・ケニタルに纏った風は刀身を中心に回転させたもの。
 回転する風が糸状に伸びる火を最初の頃よりも速く巻き取っていく。
 風が徐々に淡いオレンジ色へと変わっていき、時間の経過と共に濃い色へと変化する速度が先ほどまでとは段違い。

「どうよ! まだまだ改良の余地があるけども、初手の三分、そして停滞していた二分の壁を越えて圧倒的に速くなっているだろう!」

「だね! 一分くらいになってると思うよ!」
 ミルモンも興奮してくれる。
 自己ベストを大幅に更新してやったぜ!
 
 ありがとう! 焼肉のアミューズメントパーク!
 ありがとう! 作り笑いで俺の綿飴を受け取ってくれた小学生たち!
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...