異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1824【付着】

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「せっかく良い表情になっているのですから、主がそう睨んでしまうとまたミルトンの表情が恐怖に染まってしまいますよ」
 我慢していたつもりだったんだけどな。
 不愉快な笑みを浮かべたことで自然と苛立ってしまった。
 感情を抑え込むことは難しいね。
 先生に指摘されて深呼吸を行って怒気を体から吐き出す。
 
 心を穏やかに保ちつつ――、

「コイツなんでどうでもいいですけど、上手く策がはまればこの地へと集まってきてくれている方々の犠牲が少なくもなる。コイツには期待させてもらいますよ」

「と、主も仰っております。この期待を裏切らないように。裏切りの人生から一転しての活躍で、後世へと名を残せる好機を逃さないことです」

「わ、分かった。本当に領地を得られるのだな!」

「得られますとも。当然、裏切りを行ったのですから先にも言いましたが猫の額ほどしか得られないでしょう。それでも牢獄よりは十分に広いですからね。これも先に言いましたが領主となって好みの女人を召し抱えてください」
 再度のねっとりとした先生の声で成功後の生活を思い浮かべたおっさんは好色漢然とした表情を再び浮かべる。
 今すぐ殴りたくなるゲスだよ。
 ゲスはどこまでいってもゲスだ。
 だがそのゲスに頼るのも俺たちなんだよな。

「最終確認です。協力しますね」

「する!」

「即答で宜しい。では――お願いします」

「了解」
 ここでバラクラバの二人が動き出す。

「な、なんだ!? 何をする!」
 鍛え抜かれ体の持ち主であるS級さんが両脇に立てば、恐怖から後退り。

「動くな」
 冷たい声を受ければ体がピタリと止まるミルトンのおっさん。
 その間に手早くもう一人が首に装身具を取り付ける。

「なんだこれは!?」

「無理矢理には取らないことだ。というか許可なく取るなよ」
 取り付けた人物も負けじと冷たい声。

「良い作りだろう。お前ごときのためにドワーフの職人が時間を割いて製作してくれた銀製の首輪だ。罪人としての証でありながら、外に出ても違和感の無い作りにしてもらっている手の込んだ代物だ」
 体格が良く目だけしか出ていない覆面の男二人に反論するほどの胆力は持ち合わせていないようで、悔しそうにするだけ。
 悔しい表情を作れるだけ余裕は出てきたってことでもあるか。

「ちなみに同じ物がここにもある」
 そう言ってミルトンのおっさんの首に巻かれた物と同じ物を取り出し、おもむろに地面へと投げる。
 キィィィン、キンッと小気味の良い音を立てながら地面で跳ねて転がる銀製の首輪。
 
 次に取り出すのは――、

「ほほう……そういうことね」
 ハンドグリッパーのようなレバーがついた機器。
 何度も目にした代物だ。
 マッチポンプ式へっぽこ奇跡の剣舞時にゲッコーさんが手にしていた物と同一の物。

 つまりは、

「C-4ですね」

「そのとおり――っと!」
 俺の答えに小気味よく返しつつレバーを引けば――ボフンッ!
 首輪が爆発。

「このように爆発する仕組みだ。お前がこちらの期待に応えられない、もしくは敵側に寝返ろうものならその瞬間――ボォォン!」
 擬音で脅せば、

「ひぃぃっ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!」
 本日、一番の悲鳴を上げた。

「分かるな? 我々は姿を消してお前の直ぐ側にいる。妙なことをすれば――ドカァァァァン!」
 もう一人も擬音で脅し、続けて悲鳴が上がる。

「このお二人は護衛であり、監視者であり、そして――執行人でもあるわけですね叔父上」

「その通りです公達」

「死ぬ気になれば愚者であっても十全で才を発揮しますからね」

「ええ。可能ならばその首輪が爆ぜない人生を送っていただきたいものです」

「然り」
 荀一族が揃って口端を吊り上げておられる。
 そんな二人を恐れるミルトンのおっさんは俺を見てくる。
 やめてほしいねそんな縋るような目は……。

「一所懸命やることだね。咎人から領主へと成り上がる最後のチャンスでもあるだろうから。死罪から免れるには死ぬ思いで任務を遂行することだよ」
 嫌だけど優しく発せば、高速ヘドバンを思わせる首肯。
 飴と鞭って感じだな。
 ミルトンのおっさんを連行して再びおっさんが乗っていた鉄格子からなる馬車の前へ。
 護送担当で棍棒を手にした王都兵二人の内一人が俺たちを待ってくれていた。

「さて、さっそく出立してもらいたいのですが――やはり現実味がなければ疑われます」
 見下す目の冷たさよ……。
 先生がその目を維持したままS級さんへと向くと、

「ぶぅ!?」
 おもむろにミルトンのおっさんの顔面に向かってS級さんの一人が拳を叩き込む。
 タクティカルグローブをはめた拳による一撃によっておっさんの丸みある鼻から派手に鼻血が吹き出す。

「ぐぅ……ぎぃぃぃ……。な、なにを゛!?」

「軍師殿が言っただろう。現実味がないとな」
 護送する兵が一人という千載一遇の好機を得たことで隙を突いて攻撃。
 致命傷を与えるも反撃を受けてしまう。
 こういった筋書きのようだ。
 御者の座る位置に近い鉄格子部分へ派手に吹き飛んが鼻血が付着するという匠の粋な仕事を見せてくれる。

 とはいえ、

「致命傷を与えるとなれば、背後からの一撃でしょう?」
 ミルトンのおっさん如きが護送されている状態で致命傷になる一撃を見舞うことなど不可能だ。
 となれば刃物を隠し持っていた。または奪って刺したという筋書きにしないと現実味が薄れる――。

「返り血の付着がないと現実味がないと主は言いたいわけですね」

「はい」

「相手は人間ではないですからね。亜人であるオークもいれば、巨狼であるワーグもいます」
 聡い者が鼻の利く者達に調べさせればバレてしまう可能性はゼロではない。
 それは先生も理解しているようで王都兵を見れば、

「――お願いできますか」
 と、些か張り詰めた声で問う。

「喜んで」
 対して快活に返す護送担当の兵士。
 おもむろに腰背部へと手を伸ばしナイフを取り出せば、

「ちょっと!?」
 自らの左前腕へと向け、丁寧に研がれた刃をザックリと立てる。

「うぃぃ……」
 俺の左肩から痛そうな声が上がる。
 大量の鮮血が出れば、前腕を御者席と鉄格子部分――そしてそのまま鉄格子から地面の方へとスライドさせるよう塗りたくる……。
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