異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1825【第一陣】

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 ――……うぬん……。
 斬って斬られて流し流されな世界に足どころか体全体を突っ込ませているとはいえ、こういうのを見せられると尻の部分から全体に寒気が走るね……。
 
 あれか……。抵抗しつつも力尽き、御者席から鉄格子へと体を預けながら横へと倒れ、そのまま馬車から転落したって設定かな。
 いやいや……がんぎまってんな……。
 一連の流れを終えれば、側に立っていた先生が直ぐさまポーションを腕へとかけてあげていた。
 見る見るうちに傷が塞がったのでハイポーションだったようだ。
 血が残った前腕部分を布で優しく拭き取りつつ、

「感謝します」
 自傷行為に深く頭を下げる先生。

「この程度。これからこの裏切り者を運ぶことで大局が動くという事に比べれば微々たるもの」
 と、がんぎまった返答。
 この覚悟には先生も誠意を持って対応するし、S級さん二人も兵士を称賛。
 その横では倒れ込んでいるミルトンのおっさん。

「私にも……」

「有るわけがない。貴殿に使うなど勿体ない。万人が思うことだよ」
 先生と同族というだけあって荀攸さんも中々の毒を吐く。
 温厚な人物のようだけど、裏切り者に対しては冷徹そのものだった。
 温厚な表情のままに冷たく発するのが余計に怖い。
 
 ミルトンのおっさんは冷たい圧に対して何も言えなくなり、痛みが走るたびにうめき声を断続的に上げる。
 そもそも殴られて傷を負っているという状況を作りたいのだから、治療が施されるわけがない。

「さあミルトン。貴男の可能性を我々に見せてください」
 倒れ込んでいるおっさんに言えば、先生の迫力に気圧されて素直に従い、鼻を押さえながら急いで馬車へ。

「貴男の側には常にこのお二人が見張りとしていることを努々忘れることなく」
 先生が手を上げ、それを合図に二人が消える。

「!?」

「突如の出現だけでなく、このように素早く姿を消す事も可能です。出現と隠形術は自由自在。加えて潜伏時の気配遮断は察知に長けた者であっても気づくことはできません。なので常に貴男の側で貴男のことを見守ってくれています。先にお二人が述べた言葉も忘れることのないように」
 おっさんは血の気が引いていた。
 おかしな言動を行ったと判断すれば首輪を即時爆発させるってことだからな。

「段取りは貴男を見守るお二人が道中で説明します。ではミルトン。大いに励むように。成功すれば貴男の新しい人生が待っています」

「……はい……」
 弱々しく返事をし、鉄格子に体を預ければズルズルと腰を落としてへたり込むという姿。

「へたり込むにしても貴殿が腰を下ろすのは外ではなく中だよ」
 ここでも荀攸さんが冷たく述べ、この言葉にビクリと体を震わせれば這うようにして鉄格子の中へと入っていく。

 入ったのを確認すれば、御者を担当するがんぎまった兵が手綱を振って二頭立ての馬車を動かす。
 二人にしか見えないが実際は四人。その四人を乗せた馬車が八本の脚と四つの車輪を動かして南へと向かう。

「さて、後はミルトンの頑張りに期待しましょう」

「ならば叔父上、我々は軍編制でも」

「それは問題ありません。陥陣営殿たちが我々の仕事を減らしてくれています」
 高順氏、ゲッコーさんとベルがやってくているからね。
 自分たちの労力を削ってくれていることに感謝をしつつ、編制された兵達をいかに展開していくか。今後も増えていく兵や冒険者の新しい配置を考えるとのこと。
 先生は王都に戻って王様と一緒にやってくるのではなく、このまま要塞に残ってくれる。
 
 てことなので――、

「先生がいる間に俺たちもバリバリと修練を重ねていくぞ!」

「「おおっ!!」」
 前回同様、ミルモンとジージーが参加しての新技開発に勤しんでいく。
 
 ――――。

「フフフフ――」

「不敵だね兄ちゃん」

「そういうミルモンも口角が大いにつり上がっているじゃないか。強者の風格を感じさせてくれる」

「なんか絶好調だったからね。体を鍛えていたらドンドンと力が漲ってきたから」
 数日間の短い特訓でしかなかったけど、ミルモンがかなり強くなったと言ってくる。
 ジージーも不思議と膂力だけでなく、マナの向上も感じているとのこと。
 現に特訓中に付き合ってくれたノコノコが日を追うごとに強くなっていった。
 それに伴って体の形状にも変化がでた。
 流線型の頭部となり、手に当たる鎌状の部分も太くて鋭利なものへと進化。
 機敏さが増し、連携も今まで以上。
 この成長には術者であるジージーも驚きを隠せないでいた。
 
 ――俺とミルモン、ジージーがこうだからな。
 
 先生が留まってくれたこの要塞で訓練に励んでいた面子は皆して大いに向上していることだろう。
 王都で訓練に励んでいたラルゴ達が一気に兵としての連携や強さを得たのも頷けるってもんだ。
 アルスン翁に預けているゴブリンとミストウルフたちも同じく王都で訓練をしていたからな。かなりのやり手達になってくれているだろう。
 
 俺の私兵達がこうなんだから、前線で命を張ってた要塞組はこれまで以上に強くなっているだろうし、ギルドメンバーや他のギルド、野良冒険者にこの地に集った兵達も自分たちの成長に驚いているかもしれない。
 
 先生のユニークスキル【王佐の才】様々だ。
 
 ユニークスキルの恩恵の中、練兵場での訓練で能力が向上。
 炎舞発動に最初は三分ほどかかったが、十秒くらいまで大幅に短縮することができた。
 集中のために約十秒間、前衛が動かないとなれば敵に攻める絶好の機会を与えてしまうことになるけど、メインパーティーの最強二人やリン。コクリコとシャルナによる掩護を受ければ使用は可能。
 今回の特訓で即時発動にまでは至らなかったは残念だったけど。
 十秒のディスアドバンテージはあるものの、その不利を上回るだけの威力にはなってくれた。
 最初期ノコノコ達に見舞っていた時よりも遙かに強力なものに仕上がったからな。

「ギリギリで間に合ったのは良かったよ」

「いよいよだね」

「そうだな!」
 要塞は壁上に立つ。そして見渡す限りの眼下には闘志を滾らせた第一陣の猛者たち。
 その数――二十万超。
 揃いも揃ったものである。
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