異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1844【よかチェスト】

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 なによりやはり一番大事な部分となるのは、

「とにもかくにも状況に合った最適解の効果を発揮できるスクロール発動だよな」

「兄ちゃんには難しそうだね」

「あ、うん……」
 俺みたいな戦略眼が欠如しているのが持っていても宝の持ち腐れなのは分かっているよ。
 でもストレートに言われるとヘコむってもんだ。
 特に俺に高い忠誠心と信頼性を持っているミルモンから言われるとくるものがあるね……。

「あ⁉ 違うからね! 兄ちゃんは前線で戦わないといけないから全体を見る暇がないってことだからね。決して戦略や戦術がダメダメってことが理由じゃないから」

「なら嬉しいよ」

「オイラが兄ちゃんに対してそんなトゲのあるようなことを言うわけないじゃないか」
 うん。たまに言っているけどね。

「で、どうするのさ?」

「簡単だな。こういったのに聡い方々に任せればいいだけだよ」
 ――。

「ふむふむ。私と公達にスクロールを任せるということですね」

「はい。まず間違いなくこの陣営――というかこの全軍の中で戦況を見極める能力において二人を超える存在はいませんので」

「ね、公達。主はこういった人なのですよ」

「裏表なく純粋な気持ちで言ってくれるので嬉しい反面、むず痒くもなりますね」

「私の気持ちが分かってくれたでしょう」

「はい。なにより悪い気がしません」
 言われるとそれだけで励む気持ちになる。という言葉を二人して言ってくれる。
 その気はないけど人誑しなのが俺のようだ。

「変化が激しい戦場で知略を振り絞ってくれるお二人には負担になるでしょうが、適任者となれば二人しかいません。お任せしてもいいですよね?」

「主に言われて断る理由はありません。そもそも上に立つ者はただ一言、実行せよ――と言うだけでよいのです」

「それは横着な言いようですね。言っている俺がもしいるなら俺自身が全力でぶん殴ってやりますよ!」

「そのような性格だからこそ我々もついて行くというもの。任された以上は十二分に力を発揮してご覧に入れましょう」

「とうとう我々もこの世界に馴染んだ力を扱えるわけですね叔父上」

「公達、私たちの偉大なる魔法で敵には絶望を味方には恩恵を与えてあげましょう」
 ノリノリなのか先生がポージング。
 手にした羊皮紙を巻き、それをワンドに見立てて空へと向ける。
 これに遅れて荀攸さんもポージングを真似るが、先生より控えめなものだった。
 先生の所作がコクリコに似ているところからして、普段のあいつの所作を参考にしているようだな。

「お二人とも魔法の効果を覚えるのは大変でしょうが――」

「心配ご無用!」
 俺へと手のひらを見せて力強く先生が言えば、

「既に効果のほどは頭の中に入れておりますので」
 と、荀攸さんが継ぐ。
 流石というべきかリンは俺だけでなく皆にもメモを用意していたようで、二人はもう読み終わって完璧に理解している模様。
 半日、必死になって読んだけども未だに理解できていない俺とはおつむの出来が違うってもんですばい。
 
 先生じゃないけど、こういうのはやっぱり適材適所だよな。
 スクロールは先生と荀攸さんに任せれば問題なし。
 二人だけでなく、この二人の指示のもとに扱ってくれる者たちも内のギルドには多くいるからな。
 
 ――ギルドといえば、

「先日の夕暮れ時にいざこざがあったけど、現状、問題は発生していないよな?」

「報告が上がっていないから問題ないんじゃない。気になるなら南側に行ってみる?」

「ミルモンの提案に従いませう」
 ――馬上の人となって南側に移動。
 先日は夕方って事もあって訓練を終えている者達も多かったが、昼間ともなれば覇気と闘気に漲る声が方々から上がってくる。
 兵士たちも常に己を磨くように槍を手にして連携強化の訓練。
 藁人形へと向かっての刺突。
 槍衾とは違って班規模の五人編成からなる息の合った突きは強烈なもの。
 五人が同じ場所を狙って突き刺すとなれば、大型の連中もひとたまりもないだろう。
 無駄なく動く練度の高い兵たち。しかも各地から集まった装備が違う混成軍による高い連携。
 付き合いの浅い者達ばかりだから訓練は各地の兵で分けてやったほうが効率が良さそうだが、先生がこの拠点にいるからその辺の問題は解決している。
 ユニークスキル【王佐の才】が発動しているから混成軍であっても息の合った連携をサクサクと習得してくれるだろう。
 加えて筍攸さんの通常スキルには【師事向上】ってのもあるからな。
 二人が同じ場所にいることで習得速度は更に上がる。

 励む混成軍だが王都兵の参加者は少ない。
 理由は――、

「「「「キィィエェェェェェェェェェェェェェイィィイ!!!!」」」」
 王都兵たちの猿叫に慣れていないようで、各地の兵たちは狂った声を上げて標的である藁人形へと突撃する王都兵の姿に距離を置いていた。
 藁人形に家族でも殺されたのか? と思うほどに、目を血走らせて鬼気迫る勢いで全力疾走。
 諸手で強く握りしめたロングソードを上から下へと振り下ろす姿には共に戦う者たちも畏怖を覚えている。
 
 訓練中は狂気にも見える斬撃だろうが、戦場においてはその突撃が味方側を大いに奮起させてくれるだろう。

「いつ見ても狂っているようにしか見えない……」
 藁人形に殺意を込めて剣を振り下ろす王都兵からは陰でも陽でもない不気味な感情が伝わってくるそうで、ミルモンはそれが大層に嫌なようだ。
 藁人形であろうとも全身から殺意を放ち、雑念を捨てて斬撃にのみ集中しているという証拠なのかもしれない。

 つまりは――、

「わっぜよか~チェストじゃ」
 ――ダイフクに跨り南側へと移動する中で兵たちの訓練を見つつ移動すれば、

「こっちはまた独特だよね」

「冒険者は集より個だからな」
 といってもここでも班規模の隊伍で訓練中。
 同じ班規模でも兵士たちのように同時方向から同時攻撃を行うということはなく、一人が正面、二人が左右か背後へと回り込む。後方の二人が前衛三人の支援という個々の特徴を活かした立ち回り方をしている。

 これが兵と冒険者の違いだよな。

「会頭。本日も見回りですか?」

「ごきげんようカイル。皆、気合入ってるね」

「最前線のこの地だからこそ油断なんて出来ませんからね。いつでも戦えるように体は常に温めていますよ」

「温めるのもいいけど無理はしないようにね。怪我でもしたら大変だ」

「いやいや、すぐに回復するんで問題ないですよ!」
 いつでも回復要員が動いてくれるってことだから結構、無理しているようだな。

「今日は他の冒険者たちとは問題は起こしていないよね?」

「よくやれていますよ。舐め腐ったことを口に出す奴は実力で分からせてやりますけどね」
 本日も俺がここへと来る間に何度か衝突が起こっているってのが今の発言で分かったよ……。
 以前に言っていたすこぶるいい関係とは何だったのか……。

 それでも大きな問題に発展していないのはその実力行使に対して素直に受け入れているってことでもあるんだろう。
 多分、きっと――そうであってほしい。
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