異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1848【ちぐはぐ】

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 二人をダウンさせてから加速を緩めると、俺の前でミルモンが宙に留まり、

「これで八人だね♪」

「あと二十七人だな」

「この調子なら直ぐにでも決着がつきそうだね~」
 空中で足を組んで強者然とした姿を見せつけるミルモン。
 小さな体だけども相対する連中はその余裕ある姿を目の当たりにして悔しそうに歯を軋らせていた。
 それでも超高速飛行による体当たりを驚異と判断しているようで二の足を踏んでいるといったところ。
 
 実際、はやてピュンピュンってかなりの威力なんだよな。
 今までのくろいバリバリは意表を突く搦手に近い技だったが、今回の新技のおかげでミルモンは前線で戦えるだけの力を手に入れたことになる。

 この地の集まった冒険者を相手にして的確に顎先を狙って二人をダウンさせた芸当は今までのミルモンからすればかなりの成長だ。

「ポームスとえらく差がついたようだな」

「なに言ってんのさ。あんなケサランパサランなんて端から相手にしてないよ!」
 ムキになって返してくるあたり、なんだかんだでライバル視はしてるんだよな。

「余計なことを言ってないで一気に畳みかけようよ!」

「そうだな」
 瞬く間に八人をダウンさせたからな。
 二の足を踏むどころか相手側はあまりの早い展開に浮足立っている。
 なによりもドッセン・バーグを序盤で倒せたのはデカい。
 あいつを後半まで残していたら、間違いなく他の冒険者を上手くまとめあげて面倒な展開へとなっていただろうからな。

 次に脅威と見るべきは当然――、

「カイルだよな」
 間違いなく面子の中で一番のやり手。
 カイルを倒せれば一気に楽になる。
 カイルが強いのは俺だけでなく向こう側も分かっていること。頼れる存在。心の支柱である立ち位置を早い段階でへし折ってやれば、相手側の士気は大きく下がるというもの。
 これは兵士だろうが冒険者だろうが変わらないことだ。

「ミルモン」

「先にしかけるよ!」
 新技が上手くハマっていることにご満悦。
 でもってそれが、

「ぎゃ⁉」
 悉く決まるんだからな。
 一人の頭を小突けばもんどり打って倒れる。起き上がらせようとした仲間に向かってすかさず俺が拳を叩き込む。
 顎先には当てられなかったけど鼻づらへと容赦なく叩き込めば鼻血を派手に噴き出して倒れる。

「ダウン判定。治療を提案」
 短く発せばマイヤが了解の首肯。
 所作を確認し、次なるターゲットを狙う。
 ミルモンに小突かれて倒れる冒険者にきっちりとチョッピングライトでトドメを刺してやる。

「さて――これで十人」
 余裕ある佇まいで発せば、お歴々は後ずさり。
 やはり勇者は強い! と、方々ほうぼうから畏怖の中に賞賛を含めた発言。
 正直、気持ちいいっすわ。

「そこっ!」

「そこじゃない!」
 気持ちよくなっているけど油断はしませんよ。右ストレートを身を低くして回避し、足裏と足の指に力を入れ、曲げた膝を伸ばしつつのアッパーを顎へと叩き込んで――十一人目。

「なんてこった……」

「流石だな……」

「褒めてないで攻めるんだよ!」
 メンバーの二人が呑まれかける中で勝気に動き出すドーチェ。
 この声にはたとなった二人も動く。
 遅れてなるものかとカイル。
 そうなのよ。
 それを待っていたのよ。

「ホホホホッ! 待っていたのですよ。その動きをねぇ!」
 なんか悪の帝王のような口調になってしまったが、それくらい上手く運べていることにテンションが上がってしまった。
 実力者たちを手玉に取るとなればテンションが上がってしまうのも仕方がない。
 迫る四人に向かって俺も駆け出す。

 対面するカイルとドーチェパーティーの間に向かって足を進め、白戦まであと三歩といったところで単独で動くカイルの方へと重心移動。
 自分に向かってくるならと不動の構え。
 両足を根のようにし、中腰姿勢で両腕を広げて大の字となる。
 中腰であっても俺を上回る身長と構えは迫力満点。

「俺たちへ先に仕掛けなかったことを後悔させますよ!」
 自分を驚異としなかったことを不服とばかりにドーチェが俺へと立ち塞がろうとするところで、

「俺の視界を遮ってどうする!」
 怒号を飛ばすもドーチェは自分たちが倒すということに傾倒しているようでまるで聞こえていない――というか聞く気がない。

 ならば――勝ちを取らせていただこう。
 
 三人を避けるように弧を描くように駆けて回り込んでからカイルを狙うように動けば、ここでも自分たちを無視すること対し不快感を表情に浮かべてくるドーチェ。それが伝播したようで二人も同様の顔。
 ムキになればなるほど視界は狭まる。
 弧を描くところから直進で一気に加速してカイルを狙う。
 対応しようと三人も動きを加速させる。
 円弧からの直線移動。これに対して三人は直角移動で俺の前に再度、立ち塞がろうとするが、

「あ、こら!」
 不動の構えのカイルへと先頭のドーチェが接触。
 ごついガタイのカイルへとぶつかれば壁に激突したようなもの。
 顔面からぶつかればすぐに舌打ちし、

「邪魔なんだよ筋肉が!」

「お前らが考えもなしに動いているからだ!」
 周囲に目を向けられない馬鹿が! に対して突っ立って邪魔になっているだけだ! と、カイルに怒号で返すドーチェ。
 そんな中で冷静だったのがドーチェのメンバーの一人。

「言い争うな! 勇者がぁ⁉」

「はい十二人目!」
 冷静に立ち回る奴は嫌いでね。真っ先に狙わせてもらった。
 容赦なく右頬に拳を叩き込んで豪快に吹っ飛ばしてやる。
 
 ピリアなし。地力のみでも大人一人――やり手の冒険者を吹っ飛ばせるだけの力を持つことが出来るようになった俺氏。
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