異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1851【頼れる連中】

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「カイルめっ! やってくれたよ!」
 肩越しに今度こそ完全に動かなくなったカイルを見る。
 ここぞというところで俺の動きを制するために自分を犠牲にした戦い方を実行しやがって。

「自己犠牲により勝利を掴むってスタイルは――俺の好みじゃないんだけどな」

「強者に……勝つためなんで」
 うつ伏せのままの返事。
 あれだけやっても気を失うことがないなんてな。本当、タフな奴だよ。
 くぐもった声には確かな自信があった。
 やってやったぞ! という思いが伝わってきた。
 本当に……カイルだけでなく――、

「やってくれたなコイツ等!」
 良いのをもらってふらつく中で姿勢を正す。
 ガクガクと震える両足のせいで体全体まで余計に震えるってもんだ……。

「ええっと。俺は転ばないように杖を持って、その杖で石橋を叩きながら渡るタイプの男なんだよ! でしったけ?」

「ああそうだ。結局は油断してしまったけどな。そこを笑いたければ笑うがいい」

「――分かりました」
 と、小馬鹿にする声音と薄ら笑い。

「むかつく!」

「勝手にむかついてくださいよ。さて――お歴々。じっくりと狩るぞ。相手は勇者様だ。そんでもって公爵様だがそこは無礼講ってやつだから尻込みなんてしなくていいぞ」

「お前に場を仕切れるのかよ?」
 嫌われているようだったけども――、

「皆してドーチェの言葉に耳を傾けてるじゃないの」
 残った連中に目を向ければ、内のギルドメンバーは申し訳なさそうに軽く頭を下げてくるが、会頭、勇者、公爵――そんなのは関係なく今は冒険者同士の対決。
 会釈から頭を上げれば一切の躊躇は無いという強い目を向けてくる。
 よかろう。

「我が名は遠阪 亨! 勇者や貴族ではなく一冒険者の遠阪 亨じゃい! 容易く勝てるなんて思うなよ。全員、地面に転がしてやらあ! バッチ来ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」

「じゃあ遠慮なく! やってやろうぜ皆!」

「「「「ヒャッハァァァァァァァァァァァア!!!!」」」」

「ちょっと待って……。気合いが世紀末すぎる……」
 まったく……。前日まではドーチェに不快感を滲み出してたってのにさ! ここにきて連帯感の良さですわ!

「……これだから冒険者はよぉぉぉぉぉぉぉぉおぅ!?」
 ――…………。

 ――……。

「酷いよね。こんなにも惨たらしい集団暴行を俺は知らないよ……」

「でもまあ兄ちゃんが皆に対してかかって来い! って啖呵を切っちゃったからね。始める前も……負ける前も……」
 負けたとか言わないでいただきたい……ミルモン……。
 おのれ! 今度があれば絶対に叩きのめしてやる!

「会頭。お見事でした」

「全然お見事じゃないよマイヤ」
 俺の青たんを見てほしいもんだよ。とても勇者然としてないよね。三角座りしているただの敗北者ですよ……。
 親の仇かとばかりにボコボコに殴りやがって……。

「いやいや、やはり会頭は凄いですよ」

「あ、猫かぶってる」

「違いますよ。あれは素が出ただけで、今はギルドの規律を重んじる姿ってもんですよ」

「それを猫かぶってるって言うんじゃねえか」

「確かに」
 サラリーマンとしてもやっていけそうな精神だなカイルよ。

「実際、凄いですよ。あの状況からの大立ち回りで最終的に二十八人を戦闘不能にしたんですからね」
 挑んできた三十五人の実力は内のギルドで評価すれば黄色級ブィ以上の実力者ばかり。
 それを二十八人も倒せたのは考えられないことだとカイルは褒めちぎってくれる。

「ベルならわずかな時間で全員を戦闘不能に出来てるだろうけどな。しかも無傷で」

「それは……比べる対象に無理があるかと……」
 だよね。悔しさのあまり比較してはいけない人物を出して自分の敗北を誤魔化そうとしてしまう小癪な俺氏……。

「オイラがもっと活躍していればな~……」

「いやいや十分だよ。カイルが言うように黄色級ブィと比べても遜色のない連中をはやてピュンピュンで倒せているからな」
 これで愛刀クロモジを使用できる実戦なら敵はひとたまりもないと言ってやれば喜んでくれる。

「あれだね。集団だからこそ、くろいバリバリを使用すればよかったね」

「そうなると正直、勝負にならなくなるから使わなくて良かったと思うぞ」
 大魔法であるダークネスライトニングと勘違いしてしまう初見殺しの技。
 黄色級ブィでも苦戦必至な魔王軍の連中ですら混乱させてしまう技を見舞われれば、冒険者たちは大パニックに陥ってしまうだろう。
 そうなると俺とミルモンはその隙を突いて余裕の勝利を得ることは出来ただろう。
 だがそれだと勝利を得たとしても、全くもって経験を得ることにはならないから使わないことは正解だった。
 伝えれば「それはそう」と、得心のミルモン。
 
 それにしても――、

「あのドーチェとそのパーティーは頼れるね。もちろん他の冒険者も」

「生意気ですがね」

「生意気であっても逸材だったから俺を陥れる小芝居に乗ったんだろ?」

「小芝居というか本気で言い合っていただけですよ。陥れるってのは共通でしたけどね」
 力だけでなくこういった戦術も持ってるからこそ内のギルドの上位陣なんだよな。
 ガチムチな体躯にばかり目がいって、切れ者ってところの意識が薄れていた俺の敗因だな。
 
 しかし、

「俺って結構こういった対決シリーズだと負けが多いような気がする」
 コクリコとギムロンのコンビやガルム氏には勝利しているけど負けも多いよな。

「それは相手が相手ですからね」
 暗い声のカイル。
 自分も手も足も出ないままにやられた経験があるから仕方ないと言ってくれる。

「何より会頭はご自身で不利な状況を作りますからね」
 と、マイヤ。

「じゃないと経験にはならないからね」

「経験になっているのならいいかと。問題は実戦ですから」
 普段はキリッとしているマイヤが優しく微笑んでくれる。
 美人の微笑みってのは痛みを忘れさせてくれる不思議な力があるね。
 俺が単純ってだけなんだけど。
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