異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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海賊退治

PHASE-87【悪党は絶対倒すウーマン】

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「――――水です」
 中に通され、軋む椅子に誘導される。
 グラスの水で、口の中の酸っぱいのを胃の中に戻してやる。
 小声で、「気安い」と怒られた。毒が入っていたらどうするんだと。いくら何でも警戒しすぎと言い返したい。
 だがここは海賊の支配下である港町。いわば敵中。ベルの警戒レベルが正しいんだろう。
 未だに抜けきれない、日本で染みついた平和ボケ。
 ――――なんの問題もないみたいだから、水はご厚意だ。

「主。なぜあのような行動を?」
 一息ついた俺の横でベルが問う。
 おじさん、海賊に反抗した見せしめに、自分の息子とその妻を殺されたそうだ。
 奥さんには先立たれていて、残された孫娘――、俺に水を出してくれた、コクリコより年下と思われる子と二人で暮らしている。
 孫娘がいるんだな。そこまで年を取っているようには見えないけど。
 営みは中世レベルだし、早くに家庭を持つのが普通か。
 で、その孫娘の事は隠していたそうなんだけど、その存在が知られてしまい、船が港に着いた時に、娘を差し出せと脅されたそうだ。
 今まで苦渋に耐えてきたらしいけど、今回はそうもいかないと、海賊と思った俺たちに向かって刃物を向けてきたらしい。
 話を聞けば、向かってきた行動に対して、ベルは悪手であると、苦言を呈した。
 一人でも道連れと言うが、残された孫娘。そして、報復を受けるであろう、町の住人たちのことを考えていない行動。
 とくに血縁者として孫娘は地獄を味わう事になる。そう諭せば、おじさんは顔を伏せた。
 海賊たちにとっては、ここは搾取をするための一拠点でしかない。
 代わりはあるから、対抗する者たちの価値は低く付けているはず。なので、容赦なく命を奪ってくる。
 続けて発するベルに、うつむいたまま震え出すおじさん。

「……我々には後がなかったのです……」
 なんとも弱々しい。追い詰められているというのが、今の声音で理解できる。

「明日、海賊の本隊がやってきます」
 なんて素晴らしいタイミング。ご都合主義とは正にこの事だよ。
 だから訪問してきた俺たちを海賊たちと判断してナイフを向けたんだな。

「そちらは海賊を討伐とか言っていたような」
 あ、はい……。しっかりと聞いていたようで……。ベルから睨まれる……。
 腹パンの鈍痛が蘇ってくる。しかもばれてる時点で、殴られ損の、吐き損だ……。
 だが、この方々は問題なしと判断して――、

「我々はとある目的で行動していますが、その障害と、情報を持つのが海賊たちなのです。ですので、ボコボコにして情報でも得ようかと」
 ベルと視線を合わせないようにしつつ、おじさんに返す。

「ある目的ですか?」
 目的を聞きたげだったけど、軽口を発すると、また腹パンをくらいそうだったので、ドラゴンの事は伏せた。

「ん、その六花の外套は――、まさか!? 貴男様は」
 はい、俺が勇者です。
 貴男の玄関先で、オロロロ――してしまったのが、勇者ですよ。
 ――――おじさんは、マントを目にした途端に、完全に俺たちの事を信頼出来ると思ったのか、現状を教えてくれた。
 先生が各地に広めるように発した言葉は、ちゃんと人々に届いているようだ。
 おじさんは、俺が神の力をやどしており、一つ動作をすれば、眼前の全てが爆ぜると言ってきた。
 尾ひれがつくのも大概だ。俺が行ったのは、マッチポンプC-4だから。
 おじさんの名前はアルムンド。コクリコの情報どおり、町の顔役。
 海賊たちは船の上から投石機と思われるものを使用して、港を攻撃してきたそうだ。
 港で見た綺麗な丸石は、その投石機からの攻撃だろう。
 住人が右往左往する最中、足の速い小舟にて上陸して、町に襲いかかってきた。
 最初は抵抗したそうだけど、おじさんの息子さんをはじめ、若い男たちは殺害され、略奪。
 その後は、毎月の徴収。
 コクリコが言ったように、小高い場所にある宿屋に海賊の一部が駐在しているとのこと。
 あいつの話は嘘じゃなかったようだ。
 海賊のいるところに潜り込んで、盗み食いをしてるとか……。
 やっぱりウィザードじゃなくて、シーフが適正職だろう。
 ――――あらかた話を聞いて外へと出る。
 おじさんと孫娘が玄関まで見送ってくれる。丁寧な一礼と共に。

「――――で、どうする?」
 合流する道すがら、ベルに問えば、

「行くぞ」
 足早になっている。
 揺れる赤く長い髪と、後ろ姿を目にする俺。
 話を聞いてからなのか、フードを被るってことをしない。来るなら来いという気概に満ちあふれていらっしゃる。
 

 ゲッコーさん達と合流すれば、住人の対応は、俺たちと同じだったようだ。
 それでも数人から話が聞けたそうだ。
 中には宿で働いていた従業員の人もいて、現在、宿屋には、海賊が十数名で陣取っているそうだ。

「十数人。たったの?」
 この町の規模なら、反抗すれば撃退できそうなんだけど。

「十数人だろうが、戦いは素人とは違う」
 躊躇なく命を奪えるし、船からの投石と、その後の虐殺で、抵抗する牙を折られたんだろうと、ベルが双眸を怒りで輝かせて述べる。
 とにかく、悪党を討伐したくてたまらないのか、鞘に納まっているレイピアの柄を力強く握りしめる中佐様。
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