異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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海賊退治

PHASE-88【海賊とご対面】

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 ふう、今度の相手は人間か……。
 人だから命の奪い合いには抵抗があると思ってしまえば、ホブゴブリンが口にしていた、亜人だから見下し、差別する。って、発言を思い出してしまう。

「たとえ人であろうとも、弱き者から奪う事は許されない。奪うという事は、奪われる事もあるという覚悟を持たねばならない」
 俺の考えを知ってか知らずか、ベルの力説が俺に向けられる。
 ゲーム内では敵としての存在なのに、この正義感よ。
 どうすべきか、ゲッコーさんに目を向ければ、口角が上がるだけだ。俺に一任するって事なんだろう。

「――――ふぃ~。よっし! やったるか!」

「快活なのはいい事だ。トール」
 美人に褒められたらやる気もでるよ。
 このテンションのまま、俺たちは宿屋を目指す。
 ――――道中、

「お前は無理して付いてこなくてもいいんだぞ」
 お気楽そうにワンドを指揮棒みたいに振り回してるけども、

「余裕ですよ」

「いや、相手は人間だぞ。命を奪う事にもなりかねないんだぞ」
 分かってんのか? 十三歳。

「むろん抵抗もありますが、倒さなければならないのなら、そこに人間やモンスターで線引きする暇は、戦いの最中にはありません」
 王都の子供たちもそうだったが、たくましいな。

「十数人なんだ。うまく立ち回って制圧すればいい」
 お! こんな時に頼りになる渋い声。手にはこれまた頼りになる麻酔銃だ。
 ならば俺も峰打ちで対応しよう。
 こんな事なら、ギャルゲー主人公の家から、金属バットを持ち出せばよかったな――。

「宿屋……ね~」
 白を基調とした木造建築。
 本来は白亜の綺麗な塗装だったんだろうが、今では至るところがはげて、崩れている。
 酷い有様である。経営を再開するにしても、修繕に時間と費用を多く割きそうな状態だな。

「ぎゃはははは――――」
 宿の中からそれはそれは品のない笑い声が聞こえてくる。
 悪役然である。
 語調から、昼間っから酒を飲んで馬鹿になっているようだ。

「ん、ベル?」
 ――……この美人に後退という文字はないのかな……。
 無造作な足取りで宿へと向かっていく。
 無造作だけども、歩く姿は優雅そのもの。
 フードを被らず、纏ったマントを近くの木の枝にかけると、マントで覆い隠されていた、タイトなスリーブレスからなる白い軍服姿を陽射しの下にさらす。

「いよいよですね」
 出て来ると同時に、先制攻撃で魔法をくらわせてやろうと、やる気満々のコクリコ。 
 その証拠とばかりに、ワンドの青い石が、赤く輝き始める。
 女性陣のこのやる気を少しは見習わないとな。なので俺も、刀の柄に手をそえる。
 ドアから十メートルくらいの位置で、ベルが立ち止まれば、長い吸気。
 ただでさえ大きな胸が更に大きくなる。ボタンが弾け飛ぶんじゃないかと、こんな緊迫した状況でも考えられる俺は、存外、余裕のようだ。
 染まってきてるよ、この世界に。

「出てこい! クズ共!」
 普段は冷静な喋り方だが、今回は空気をびりつかせるほどに激情だ。
 ベルの声に応えるかのように、宿の方からの馬鹿笑いがピタリと止まった。
 急いでベルの横に立ち、抜刀。刀を返す。
 時代劇の暴れる将軍様みたく。

「斬って捨てないのか」
 峰打ちなのかと聞いてくるが、刺々しさはない。
 少なくとも、情けないとは言われないようだ。

「悪いな。出来れば、生きて捕らえたいしな。情報も得ないとだし」
 亜人が見たら差別だと言うかもな。人間だから斬らないのか! って。

「ベルの横で雄々しく戦うさ」

「生意気だな。だが、気概を見せられるようになってきたお前の振る舞いには、加点してやる」
 そりゃありがたいね。好感度が上がれば、チューしてくれる? と、真っ先に思い浮かぶところが、童の貞なんだろうな。
 ――ドカドカとした、下品な足音が響いてくると、ドカンとドアが蹴破られる。

「俺たちに言ったのかゴラッ!」
 すごい、輩だ。輩がいる。絵に描いたような輩だ。

「そうだよ! 俺たちの思いを代表して、俺の連れがお前等に言ったんだよ。ついでに俺も言ってやる。蹴破ったドアは修理してもらうからな!」

「よく言った!」
 隣の美人は、俺の発言にご満悦だ。
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